民法の条数
不動産登記の申請書を書くとき、登記原因に民法の条数を書かなければいけないものがありますよね。
●民法第287条による放棄
地役権は、ある土地の便益のために他人の土地を利用する権利です。便益を受ける土地(要役地)と、そのために利用される土地(承役地)という2つの土地が登場しますね。たとえば、大通りに面した甲土地と、奥まったところにある乙土地があったとして、乙土地から甲土地を通って大通りに直接出たいなという場合に、甲土地を承役地、乙土地を要役地とする通行地役権を設定できます。乙土地の便益(大通りに直接アクセスできる)のために、他人の持ち物である甲土地を利用(通行)するわけです。そして、この地役権の行使のために工作物を設置することもできます。この例では、きちんとした通路を作るってことですね。この通路の設置費用や管理費を承役地所有者が負担する、という取り決めもできます。
で、通路の管理を承役地所有者がやるってことになっていたとして、何年か経つうちにだんだんと負担になってくることもあり得ます。そういうときのために、承役地のうち地役権の行使に必要な部分の所有権を放棄して、管理する義務を免れることが可能になっています。このときの登記原因が「民法第287条による放棄」で、承役地所有者から地役権者に所有権移転登記をするということです。…というかそもそも、承役地の所有者が地役権者のために、自己の負担で設備を作って管理するってどういう状況なんでしょうか? そんなことをわざわざやる人なんているんですかね?
●民法第392条第2項による代位
債権者Aさんが債務者所有の甲土地と乙土地に1番で抵当権を、債権者Bさんが2番で甲土地のみに抵当権を設定していたとします。Aさんが甲土地と乙土地を同時に競売すると、Bさんは甲土地についてAさんが配当を受けた後の残りからお金をもらえます(同時配当)。Aさんの配当は、甲土地と乙土地の価格に応じて債権の額を按分した額になります。ところがAさんが先に甲土地だけを競売してしまうと、同時配当だったら乙土地から配当を受けるはずだった分まで甲土地から配当を受けることになり、Bさんの取り分が減ることになりますね(異時配当)。こういう時、Bさんは同時配当だったらAさんが乙土地から配当を受けたはずの額までAさんの抵当権を代位でき、乙土地を競売して配当を受けられます。で、Aさんが抵当権の抹消をする前に、BさんがAさんの抵当権を代位する登記をする場合の登記原因が「民法第392条第2項による代位」なのだそうですが…これ、民法の抵当権の問題として出題されると、配当金額の計算問題になってしまいますよね。かといって不動産登記法の記述式の問題で出てくると登記事項が多くて書くのが大変。どちらにしてもちょっと面倒な感じ(笑)
●民法第646条第2項による移転
委任者Aさんと受任者BさんがCさんから土地を買うことの委任契約を結んだ(でも代理権はない)とします。BさんがCさんから無事に土地を買うことができたとすると、受任者は委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転することになりますよね。この所有権移転の登記原因が「民法第646条第2項による移転」です。ところで、委任はしたけど代理権は与えていないってどういうこと?と思うんですけど、この登記原因は上記の委任契約のような場面で出てくるものではないらしいのです。たとえば住宅ローンを組もうをしたけどダメなので信用力の高い人に名前を借りたとか、農地を購入したいが自分の名前ではダメなので農家の名前を借りたとかで、名義を本来の所有者に戻すときにこの登記原因が出てくるようです。民法のテキストの委任のところに出てくる話とは全然雰囲気が違うのですね。抜け道みたいな^^;
●民法第958条の3の審判
相続人不存在が確定した後、特別縁故者として名乗り出た人がいて、それが家庭裁判所で認められて審判が確定すると、被相続人の財産だった不動産を特別縁故者が取得する場合があります。この所有権移転登記が「民法第958条の3の審判」を登記原因として行われます。それにしても、特別縁故者ってなかなか認められないと聞いたことがあります。故人の療養看護に努めた人などが損をしないようにしてほしいところですが…以前は相続人がない場合は原則そのまま国庫に帰属していたそうなので、それに比べればマシにはなったと言えるんでしょうか。
これら4つの登記原因が記述式で出題される可能性は高くないようですけど、出題されたらこの民法の条数までちゃんと書かないといけないのですよね。でも「工作物に係る承役地の所有権放棄」とか「異時配当による代位」とか「受任者から委任者への移転」とか「特別縁故者への相続財産分与の審判確定」とか、中身の分かる登記原因にしておいてくれてもよかったのになぁ…と思うんですけど^^;