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法律初学者のおっちゃんが合格するまでやりますよー

集中治療室にて(3)

座ったり立ったりしてからしばらくして、看護師さんに「STの方がいらしたので、食事にしましょう」と言われました。ST=言語聴覚士というリハビリテーションの専門職で、文字通り言葉や聴覚の障害が生じた人の訓練をしてくれます。そんな方がなぜ自分のところに来てくれるのかというと、嚥下の訓練を行うためなのです。つまり、モノの食べ方、飲み込み方を指導してくれるわけですね。口、舌、喉の使い方が言語と共通するところがあるのでしょうか。とにもかくにも食事ってことでワクワクしていると、上品な女性の先生がいらっしゃいました。まあでもコロナ患者の部屋に入ってくる人はみんなフェイスシールドをしているので顔は分からないのですけど。

 

「それでは、大きな声でアーと言ってみてください」ということであ〜〜〜と声を出してみたら、記憶よりも低くて間延びした声^^; しかしSTの先生は「はい、いい声ですね。ではお水を飲んでみましょう」と言って、シリンダに一口の半分くらいの水を入れてピストンを押し、自分の口に入れて飲ませてくれました。良く冷えた水がとても美味しい! 「大丈夫ですね。今度は味のついたものを飲んでみましょうか」ということでぶどうジュースを口に入れてくれました。これも甘くて美味しい。COVID-19は味覚嗅覚に異常を引き起こすと言われていますが、自分はそれは避けられたようです。

 

「水を飲むのは大丈夫みたいなので、次はゼリーを食べましょうか」と言って、一口サイズの容器に入ったりんご味のゼリーを口に入れてくれました。甘くて爽やかで、何の抵抗もなく喉を通ります。「いいですね。では本当の食事といきましょう」てことで出てきたのが、嚥下補助食といって緩めのお粥が少量と、ペースト状のおかずが2品と味噌汁、それにカップ入りのヨーグルトでした。「どうですか、自分で食べられそうですか? それじゃ、スプーンを持って食べてみてください」。こういうとき、鼻カニュレって便利なんですよね。それはともかく、スプーンを持ってペーストが盛り付けてある皿の方へ近付けていくと…手がブルブル震えて上手く掬えません。ちょっと休むと震えが収まり、今度はそのまま口に運んで…と思ったら上手く口の位置にスプーンを持って来られない^^; まあでも大きく口を開けてだいたいこの辺だろうってところにスプーンを突っ込むと、何とかペーストを食べることができました。これは魚だ!と思って二口目を掬いにいきますが、また手が震えるのです。そこを無理矢理にスプーンでしゃくいあげ、口に持っていきます。おー美味い! さらにもう一口と思ったらSTの先生が「そんなに慌てて食べちゃダメですよ。一口ずつゆっくり食べて下さいね。まだ喉の筋肉が弱くて誤嚥しやすいですから」。誤嚥とは食べ物や水が食道ではなく気管に入ってしまうことです。これが原因で肺炎などが起こるとやっかいなので、一口分をよく噛んで飲み込んだら次を食べる、水やお茶も一口ずつ飲むように、と言われました。そんなところまで弱っているのか…^^; ちなみに味噌汁はとろみが付けてあり、食後のお茶は緩いゼリーのようになっていました。誤嚥しにくくなるそうです。

 

次はお粥を食べようと思って、茶碗から一口分のお粥を取って口に運ぶのですが、手が震えてお粥を落としそうになってしまいます。「右手だけを動かすのではなくて、左手で茶碗を持って口に近づけましょう。そうするとずっと食べやすくなりますよ」。あぁ、言われてみれば確かに…というか、前はそうやって食べていたはずなのに、左手で茶碗を持つという動作が頭から抜け落ちていたのです。当然のようにやっていたことが、今はまったくできなくなっている…これもちょっとショックでした。そう思ったらどっと疲れたような気がして、STの先生にそう言うと、それじゃ残りは私が食べさせてあげますねーと言って、スプーンで口元へ持ってきてくれました。他の人が見たら、なかなか情けない光景ですね笑 でもデザートまで完食しましたが。

 

そんなこんなで最初の嚥下補助食による食事が終わりました。それから何回か嚥下補助食、つまりペーストのおかず+お粥が続き、ペーストは肉あり魚あり野菜ありとバリエーション豊富で、味はどれも美味しかったです。特に感動したのが牛蒡のペースト。ちょっと甘めの味付けで、牛蒡をこんな風に料理することもできるのか…と思いました。

スプーンを持つ手の震えは食事をするごとに小さくなり、腕の筋力が少しずつ回復してるのかなと思うと嬉しくなりました。しかし、お粥の入った茶碗を左手で持つのは結構大変。というのも、茶碗が厚い陶器でお粥も水気が多いのでずっしりと重たいのです。普通、ご飯の茶碗て味噌汁の椀と持ち替えるとき以外は食事中ずっと左手で持っていて、おかずをちょっとご飯に乗せてから食べたりなんかしますよね。でも、筋力も持久力もなくなると、お粥の茶碗を持っていられなくなります。まさか食事の時に腕が疲れたな…と感じるとは思ってもみませんでした。

さらに、体力的な意味ではスプーンを動かす右手も問題で、少し食事に慣れて皿と口の間でスプーンを動かし続けていると、今度は血中の酸素飽和度が下がってしまうのです。あー美味しいなーと思いながら食べてたら看護師さんが来て食事をストップさせられ、酸素飽和度が下がりすぎて良くないから私が食べさせまーす、ということもありました。ただ単に皿からペーストを掬って口に持っていくというだけの運動なのに、身体には意外と負担がかかっていたようです。本当に、何をするにも筋力や体力を使っているものなのですね。今回のことで痛感させられました。

 

あらら、予想外に長くなったのでまた次回!