食い逃げと詐欺
飲食店で料理を注文して食べたがお金を払わず逃げる…いわゆる“食い逃げ”というのは、過去の司法書士試験でも出題されてましたね。それにしても食い逃げって、選択肢の一つとして出てきたものを読むのはともかく、現実のニュースになると突如として笑ってしまうような物悲しいような微妙な気分になるのはどうしてなんでしょう?笑
3,000円相当のカツ丼とは?と思ったら、これは大食いチャレンジなのですね。普通のカツ丼5杯分ものボリュームがあるデカ盛りカツ丼を、制限時間30分以内に食べ切れば代金が無料になる上に賞金1万円を獲得できる! しかし失敗してしまったら代金3,000円を支払わなければいけない、というものです。で、住所不定無職28歳が挑戦したけれどもあえなく失敗してしまったわけなのですね。…まあ、大食いにチャレンジして失敗するところまでは普通にありそうな話ですが、その後「車に財布を取りに行く」と言って店を出てそのまま行方をくらますって、ちょっとマンガ的な感じがします。現実にそんなことあるんだなぁ…という。
それで、この食い逃げ犯は詐欺の疑いで逮捕されたと書かれています。試験問題でも、食い逃げは詐欺に関連した話として出てきます。たとえば次の通りです。
Aは、所持金がないにもかかわらず、客を装って回転寿司店に入店した。店主は、客として振る舞っていたAの態度から、Aも通常の客と同様に飲食後に代金を支払うつもりであると信じて寿司を提供し、Aに飲食させた。Aの行為について詐欺罪は成立しない。(平成14年 問24-ア)
Aは、飲食代金を踏み倒すつもりで、金を持たずに居酒屋に一人で行き、飲食物を注文して飲み食いし、残ったおにぎり三つを上着の下に隠した上で、店員に対して「トイレに行ってきます」と告げ、その居酒屋の外にあったトイレに行くように装ってそのまま立ち去った。この場合、Aには窃盗罪は成立しない。(平成28年 問25-ア)
答えは、上が×、下が○です。詐欺罪は、人を欺いて財物を交付させる(1項詐欺)、あるいは財産上不法の利益を得る(2項詐欺)という犯罪です。上の問も下の問も、注文した時点で詐欺の実行の着手(欺くこと)があったと言えるわけなのですね。また、下の問でAが飲み食いしてからお金を持っていないことに気付き、仕方なく「トイレに行く」と店員を誤魔化して逃げた場合はどうなのかというと、これも詐欺罪に当たります。店員を欺いて、代金支払債務を不法に免れた(=不法に支払いをしないという利益を得た→2項詐欺)からです。なお、下の問で窃盗罪が成立しないのは不可罰的事後行為だからですね。
今回の食い逃げ犯がどういうつもりでデカ盛りカツ丼に挑戦したのかは、他の記事なども検索してみたのですが分かりませんでした。もし、(お金は持ってないけど)絶対食べ切ってやるぜ!と思って注文したのなら、店員を欺いてはいないのだから、少なくともこの段階では詐欺罪は成立しないのでしょうかね。逆に、食べ切れなくてもかまわない(そのときは逃げればよい)と思って注文したのなら、店員を欺いたと言えそうです。とはいえ、注文するときどんな気持ちだったかなんて本人にしか分かりませんし、欺く行為があったってことを立証するのはとても大変そうだなと思います。
では、絶対食べ切ってやるぜ!と思って注文して、しかし意に反して失敗して、仕方なく店員のスキを見てダッシュで逃げた!となったらどうなるのでしょう? この場合、何と恐ろしいことに犯罪にはならないのです! これは詐欺ではなく“利益窃盗”に当たるそうですが、今の日本の刑法には利益窃盗を罰する規定がありません。つまり今回の食い逃げ犯は、絶対食べ切ってやるぜ!と思って注文して、その後「財布を取りに行く」などと言わずに無言で逃げれば、警察のご厄介にならずに済んだ、ということになるのです。なんかちょっと納得いかないですね^^; あ、もちろん代金を支払っていないのだから、民事上債務不履行責任を追及されることはあるでしょうけど。
一応、カツ丼のお店のリンクも貼っておきますね。
5杯分の“バカツ丼”ではない普通のカツ丼は普通に美味しそう。しかも1杯600円と格安(だから5杯分のバカツ丼が3,000円なのですね)ですし。