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改めて積水ハウス事件

不動産取引を熟知しているはずの大手ハウスメーカーがものの見事に55億円もの巨額のお金を騙し取られてしまった「積水ハウス事件」の解説動画がありました。この方の動画は面白いのでいつも見てます(^^) 昨年12月、この事件に関する報告書が公表されていたのですね。

 

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この事件の流れは上の動画を見ていただければ分かります。また、なぜ騙されたのか、何がダメだったのかは、上の動画はもちろん、司法書士の先生方から散々突っ込みが入っていますので、今さら専門家でもない自分が偉そうに講釈を垂れる必要などないでしょう^^; なのでここでは逆に、自分だったら手もなく騙されるだろうなと思うところを挙げていきたいと思います。まあ先生方の突っ込みどころと同じになってしまうかもしれませんけど。

 

▼自分は営業という仕事をしたことがないので何とも分からないことが多いのですが、やっぱりお金が儲かる、会社の利益になる、それが自分の評価に直結するとなれば、少々問題があったとしても、多少強引でも、契約を取りにいきたくなるものなのでしょうかね。騙された積水ハウスの立場からすると、五反田駅至近のまとまった土地が撒き餌に使われており、しかも80億~100億もの価値のある土地が70億円で手に入るとなれば、何としても成立させたいと思うのは当然かもしれません。仲介する者の会社名が変更されるとか、パスポートの様式がおかしいとか、怪文書(と積水ハウス側は思っていた)が内容証明で4通も届くとか、支払いを早めてほしいとか、何かがおかしいと思っても、10億円単位の儲けが目の前にぶら下がっていたら、どうしてもそちらに目を奪われてしまうでしょうか。また、仮に自分が最初にこの案件を担当して、いろいろおかしいから取引を中止しようと上司に具申したとしても、上司が他の誰かに担当を変更して、後任の担当者が契約を成立させたら、当然手柄はその後任のものになってしまうのに対し、自分はデカい儲けをフイにするところだった愚か者と評価されてしまう…そう考えたらやめるとは言い出せません。したがって、積水ハウス側から取引を中止することは、ほとんど不可能だったろうと思います。

 

▼それでも積水ハウス側の司法書士は、おかしいと感じたことを指摘しているのですよね。売主の本人確認はきちんとすべきとか、売主が自分の生年月日や干支を間違えているとか。本来、そういう変なことがあったら取引を即刻中止すべきと言われていますが…しかし司法書士って、この事件で言えば積水ハウスから仕事をもらう立場なのですよね。自分の仕事の依頼主に、取引を中止すべしと言うのは大変な勇気がいることでしょう。依頼主にとっては10億円単位の儲け話がかかっており、是が非でも取引を成立させたがっているという依頼主の意向を知っていて、しかも無事に取引が済めば今後も付き合いが続くかも…みたいな期待があったら、目の前にいる売主が実はニセモノという決定的な証拠でもない限り、中止とは言い出せないかもしれないなという気がします。もちろんそこで、この取引はやめましょう!と言うのが司法書士の果たすべき役割なのだと言われればその通りなのでしょうけど…短期的には依頼主から相当に恨まれそうですよね。しかもそれが大手ハウスメーカーとなったら、今後不動産業界の中で自分がどういう立場に追いやられるか…みたいな不安も感じずにはいられないでしょうし。そう考えると、司法書士はメチャクチャ重い決断を迫られることになります。胃に穴が空きそうだなぁ^^;

 

▼もし取引を中止して、本当は正常な取引だったら自分が不利益を被ってしまう、という点は積水ハウスの営業だけでなく司法書士にも当てはまりそうです。つまり、おかしいと感じて取引をやめさせて、依頼主とは別のディベロッパーが売主からその土地を買い受けて再開発して大儲けした、なんてことになったら目も当てられません。怒った(元)依頼主が、あのとき司法書士が余計なことを言わなければ、あの利益は我が社のものだったはずではないか、この損害を賠償せよ!などと言ってくるかもしれませんね。そういう請求が実際通るのかどうかは分かりませんけど。そして、先ほども言ったように依頼主は不動産業界の大手企業であり、陰に陽にその後の仕事へ影響を及ぼしてくるでしょう。司法書士なのに不動産登記の仕事がやりにくいとなったら、勤務しているにしても独立開業しているにしても、大変困ったことになるのは確実です。

逆に、その案件には本当に地面師が絡んでいて、他の業者が取引を進めようとして詐欺が発覚した、という結末も考えられます。だから言わんこっちゃない…と、この場合は取りあえず傍観していられるかもしれませんね。(元)依頼主からは、よくぞ地面師を見破ってくれた!と感謝され、厚い信頼を得られるかも。とはいえ、取引をやめて、それが本当に地面師によるものだったとの結果になる確率はどの程度でしょう? いくらなんでも、そんなに日常的に詐欺事件が発生しているとは思えませんから、ある程度経験のある司法書士でも地面師に遭遇したことなんてないってことも多いんじゃないでしょうか。すると、少々怪しい点があっても、自分の関わる案件がまさか…という気持ちが湧いてくるはずです。そしていったんそう思ってしまったら、中止という決断をするには相当な葛藤を乗り越えなければならないでしょう。したがって、司法書士の立場をいろいろ考えてみると、やっぱり中止とは言い出しにくい状況になっているなぁと思います。関わってしまうのは運が悪いというか…。

 

▼これは前にも書いたと思うのですが、たとえばパスポートや運転免許証、印鑑証明書なんかが極めて精巧に偽造されていたら、あるいは精巧に偽装した人物が売主としてやってきたら、とても見破れる自信はありません。そもそもどんな手口があるのか知りませんし、本物と比べてこういうのがニセモノなんだ、みたいな学習ができる機会もあまりなさそうです。それから怪しい兆候みたいなものは、確かにいろいろ指摘されています。地価の高いところにまとまった土地があって抵当権が付いてないとか、妙に取引を急かされるとか。しかし、今までの手口や兆候についての対策を完璧にやったとしても、地面師から見たらどこかに残っている隙を突いて新たな手口を仕掛けてくるわけですよね。それに応戦する司法書士は、当然ながらその手口は初見になってしまうわけです。だから対策といっても、どうしたって後手に回らざるを得ません。それなのに、書類が本物かどうか、その人物が本人かどうかを見極めて、取引のトリガーを引くのは司法書士。責任が重大過ぎる気がしますね^^;

 

お金が絡む話はキナ臭くてイヤだなぁと思うことがあります。それが何十億という途方もない金額だと、現実感は湧かないのにストレスはもの凄そう笑 まあでも、実際に不動産に関わるとしても、そんな巨額の取引はめったにないだろうと思います。だからこそ地面師としても狙いどころってことになるんでしょうけど、ともかくいろいろなところにリスクがあるものですよねぇ…。