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抵当権の強さ(1)

抵当権とは、担保に差し出した目的物を債務者(設定者)が使用収益しつつ、債務不履行があったときは債権者がその目的物の金銭的価値から優先弁済を受けられるという権利です。目的物となるのは地上権、永小作権、ダム使用権などの権利や、工場財団ほか各種財団、特別法に基づく動産などですが、基本的には土地建物つまり不動産ですよね。個人の場合、やはり住宅ローンを組むときに自宅の土地と建物に金融機関を抵当権者とする抵当権を設定することが多いのではないでしょうか。土地に自宅建物を建てて、そこに住んで生活しながら、土地と建物を担保に入れることができるのですから便利ですね。また債権者にとっても、土地や建物の管理を自分でしなくていいのです。このように債権者にも債務者にも使い勝手が良いので、不動産の担保といえばまず抵当権というほど普及しているのでしょう。

 

ところで、抵当権って2000年前後から抵当権者が有利になるような制度の変更があったり、判例が出たりしているのですよね。2000年ってまだたったの20年ほど前だから、明治時代の判例や先例が普通に出てくる法律の世界の話としては急激な変化があったのだなぁと思います。その変化とは…

滌除を廃止し抵当権消滅請求を導入

②短期賃貸借保護制度を廃止し代替の新制度を導入

③抵当権の物権的請求権の強化

といったような感じで、特に①②は平成15年(2003年)の民法改正で実施された変更点です。どれも司法書士の試験に出題されているところですね。ではその内容を見ていきたいと思います。

 

滌除を廃止し抵当権消滅請求を導入

滌除」は、抵当権の目的不動産の第三取得者が、自分で評価した価額を債権者(抵当権者)に支払って抵当権を消滅させる制度です。第三取得者と書きましたけど、所有権のほか地上権や永小作権を取得した人も滌除する権利がありました。それで第三取得者が債権者に対して価額を主張するところは今の抵当権消滅請求と同じで、債権者がその価額で良いと思えば第三取得者が代価弁済して終わりです。しかし債権者がその金額では納得いかない!と思ったら競売手続に入るわけですが…。

ところで、なぜ滌除という制度があったのかというと、後順位の担保権が付いた物件を売買するときに後順位担保権者が高額なハンコ代を要求してくることがあったからだそうです。本来、後順位の担保権者は多少の配当に与れれば御の字なはずですが、その担保権を外さなければ(抹消登記をしなければ)売れないのをいいことに、抹消を承諾する代わりにそれなりのお金を払え(←ハンコ代)ということをやっていたのですね。なので滌除を利用することで法外なハンコ代で一儲けしようと企む後順位担保権者を一掃することができたわけなのです。

そんなこんなで滌除は不動産を手に入れた第三取得者にとって有り難い制度だったのですが、逆にいえば抵当権者にとっては非常に不利な仕組みでした。そこにつけ込んで、今度はこの滌除を悪用?する人たちも出てきたのです。まず、抵当権者が滌除に対抗するには1ヶ月以内に競売の申立てをしなければいけませんでした。いきなり滌除を申し立てられて、それを防ぐために競売をするまでの時間が1ヶ月というのはとても急すぎる話だと思います。さらに、競売手続も通常の競売ではなく増価競売を行わなければいけませんでした。これは、第三取得者が提示した金額の1割増しの額を最低落札価格とする競売です。しかもこの増価額で落札されなかった場合は、債権者自らこの金額で物件を買い受けなければならず、そのために事前にこの増価額を保証金として執行裁判所に納めておく必要までありました。だからたまたま現金の持ち合わせがないなんてときに滌除を申し立てられ、その増価額が相場より安い金額だったとしてもやむを得ず認めるしかない、なんてこともあったそうですね。

一方、抵当権者が抵当権を実行しようとするときは、その1ヶ月前に第三取得者にその旨を通知しなければいけませんでした。その理由は、第三取得者に滌除の機会を与えるため^^; 抵当権者が抵当権を実行したくなったらすぐ権利行使、というわけにはいかず、しかも自分から通知までしてわざわざ不利な立場に追い込まれなければいけないなんて、抵当権者はどれだけMなんだ?て感じですよね笑 逆に、滌除によって抵当不動産を不当に安く買い叩き、それを高く転売して大儲けする人もいて、一般的に抵当権者となる金融機関から何とかしてくれ!という強い要望があったそうです。

 

そこで平成15年の民法改正で滌除が廃止され、代わりに抵当権消滅請求という制度が導入されました。先に書いたとおり、抵当権消滅請求でも第三取得者が金額を提示するのは滌除と同じですが、そこから競売手続を申し立てるまでの期間が2ヶ月に延長されています。さらに増価競売が廃止され、通常の競売が行われます。従って保証金も買受義務もなくなりました。抵当権者が抵当権を実行するときの事前通知も必要なくなり、第三取得者が抵当権消滅請求をしたいのなら競売による差押えの効力が発生するまでにやりなさい、というふうに改められています。つまり、抵当権者側の弱点とされていた部分が修正されて、抵当権者が有利な仕組みになったのでした。実際、滌除の時代は滌除が申し立てられた後に増価競売が行われないケースも多々あったそうなのですが、抵当権消滅請求になってからはどんどん競売が行われているみたいです。増価競売と違って、抵当権者側に競売を避ける理由がないですもんね。

あ、地上権と永小作権を取得した人は、抵当権消滅請求ができる人には含まれないことになりました。滌除の時代から、地上権者や永小作権者からの滌除の申立てはあまり利用されてなかったからなのだそうですよ。それともう一つ、根抵当権の消滅請求という制度がありますけど、こちらは抵当権消滅請求とはちょっと違う話なんですよね。名前が似ていてややこしい^^;

 

話が長くなったので、残りは次回ということで。