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抵当権の強さ(3)

タラタラ書いてたら予想外に長くなってますが今回で終わりです。

 

③抵当権の物権的請求権の強化

こちらは判例の話で、じわじわと抵当権の物権的請求権が強くなってきているのです。そういえばWikipediaの抵当権の解説に、元々日本の民法における抵当権は明治時代にお雇い外国人として来日したギュスターヴ・ボワソナードの影響でフランス的な内容だったそうですが、その後ドイツ法学の影響が強くなってドイツ流の解釈が一般化してくると、抵当権というものは不動産の担保としての交換価値を把握する権利なのだから物権的請求権はそんなに認めなくてもよいという雰囲気になったと書かれていますね。確かに、抵当権は対象を直接使用収益する権利じゃないですし。

ここで物権的請求権とは、物権の内容の実現が他者によって侵害されているときに、それをやめるように他者に対して請求できる権利です。たとえば隣の家の樹木が自分の土地に倒れてきそうなときに対策を取るよう隣の家の人に求めることができ、この権利を物権的妨害予防請求権といいます。で、隣の人が何の対策もせずに木が自分の土地に倒れてしまったら、当然ですが倒れた木の撤去や損害賠償を求めることができますね。これが物権的妨害排除請求権です。さらに、隣の人が撤去作業をしてるんだと言いつつ自分の土地に居座ってしまったら、隣の人に自分の土地を返還して出て行けと言えるでしょう。これを物権的返還請求権といいます。自分の権利が所有権であればもちろん、地上権や永小作権のような土地の利用権ならこれら3つの請求権があるのは当たり前という感じもしますが、抵当権のような担保物権の場合はどうなのかという疑問が出てくるわけですね。感覚の問題というか。

 

ところで20年前よりも昔にまで遡ると、物権的請求権以外のところも変遷しているのが分かります。たとえば土地の付加物に抵当権の効力が及ぶかという話で、抵当権の実行により差し押さえられた山林の木を伐って運び出したという場合、最初は差押えの効力として樹木の伐採や搬出の差し止めを請求できるとされていました(大判T5.5.31)。しかしその後、差押え前の伐採・搬出も抵当権の効力として差し止めが可能というように改められました(大判S7.4.20)。つまり、最初は(抵当権の効力ではなく)差押えの効力であると考えられていたのに、時代が進むにつれて差押えがなくとも抵当権の効力が直接及ぶ、というように変化したわけです。でもこれ、昭和7年(1932年)の判例なんですよね。日本で最初に旧民法が公布されたのが明治23年(1890年)、現行民法に続いている明治民法のうち財産法の公布が明治29年(1896年)だから、民法が世に現れてからだいたい40年近くかかってようやく抵当権の直接の効力が認められたって感じですかね。今とは時間の流れの感覚が違うかもしれませんが、それにしても40年は長いです…。

 

で、ここからが本題。抵当権の物権的請求権が問題となるのは、やはり抵当不動産に不法な占有者がいるのを何とかしたい、という場合です。前回の短期賃貸借のところでも話が出ましたが、不動産に不法に居座っている者がいると売るに売れなくて困るのです。そこで抵当権者が占有者に対して出て行け!というためには、①抵当権の被担保債権を被保全権利として、不動産の所有者の所有権に基づく物権的請求権(妨害排除請求権や返還請求権)を抵当権者が債権者代位によって代位行使する、②抵当権に基づく物権的請求権を行使する、これら2通りの手段が考えられます。ところがこちらは抵当権本体の効力より軽視されていたのか、昭和が終わって平成に入っても、あまり認められていませんでした。抵当権者が詐害的短期賃貸借を解除して不法占有者となった賃借人に立ち退きを求めたケースでは、何しろ抵当権は不動産の担保価値を把握する権利なのだから抵当権者が不動産の占有について口を出すことはできないし、第三者が物件を占有しているだけでは抵当権の侵害とは言えない、だから抵当権に基づく物権的請求権は行使できない(上記②を否定)し、さらには所有権者の物権的請求権に代位することも認められない(上記①を否定)との判決が出ています(最判H3.3.22)。しかしこれには、現実を無視しすぎとの批判が殺到したようです。そりゃそうでしょうね^^;

そこでこの判例は後に変更され、「第三者抵当不動産を不法占有することにより、…抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状況があるときは、これを抵当権に対する侵害と評価すること」ができ、抵当権者は所有者に対する抵当不動産の適切な維持保存の請求権を保全するために「民法423条の法意に従い、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができる」とされたのでした(最大判H11.11.24)。この場合、抵当権者は直接自己への明け渡しを請求できるし、「抵当権に基づく妨害排除請求権として、抵当権者が右状態の排除を求めることも許される」とも述べています。この判例司法書士試験でも出題されていますね。不法占有者に対してなら抵当権の物権的請求権が認められたわけで、平成3年の判決からすると10年もしないうちに大きく方向転換されたのです。

最大判H11.11.24は相手が不法占有者でしたが、さらに占有権限を有する占有者の場合でも、抵当権に基づく妨害排除請求権の行使をまともに認めることとなりました。抵当権設定後に抵当不動産の所有者から賃借権の設定を受けた占有者がいるというケースで、所有者は抵当不動産を適切に維持管理すべきで、抵当権の実行を妨げるような占有権限の設定は許されないことから、「占有権限の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ、その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、当該占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、上記状態の排除を求めることができる」としました(最判H17.3.10)。さらに所有者において適切な維持管理が期待できない場合は「抵当権者は、占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができる」とまで言っています。つまり、平成17年(2005年)になってようやく抵当権の物権的請求権がフルに認められるようになったわけですね。明治民法から考えても100年以上かかっており、随分時間がかかったのだなぁ…としみじみ感慨に耽ってしまいます笑

 

というわけで、何というか、抵当権という主人公の成長物語というかサクセスストーリーを見てきたような気分になりましたね^^ この先また時間が経って社会が変化すれば、抵当権の姿もまた変化していくのでしょう。これからも楽しみです!