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法学者にとっての仮登記担保

不動産登記法の中に「仮登記担保」というものが出てきますよね。非典型担保の一種として、民法の基本書では担保物権法のところで解説されてますけど、司法書士試験では民法で出題されたことは(少なくとも過去30年くらいは)なく、不動産登記法の多肢択一で時折出てきます。同じく非典型担保の譲渡担保は民法でそこそこ出題されているんですけどね。

 

仮登記担保とはどういうものかというと、債務者が債務の弁済をしないときは債務者の所有する不動産(面倒なので以下では単に「土地」ということにします)を債権者に移転するという内容の契約をして、それに基づいて代物弁済予約や停止条件付代物弁済、売買予約による仮登記を入れておく、というものです。つまり、借金のカタに自分の土地を差し出し、債権者への所有権移転請求権仮登記をしておくわけですね。もしもお金を返せないときは、債権者が仮登記を本登記して土地を自分のものにし、その代わりに借金はチャラになります。担保として土地を差し出すのは抵当権と同じですが、抵当権は実行するとなったら裁判所で競売やらの手続きをしなければならず時間がかかるのに対し、仮登記担保なら仮登記を本登記するだけで実行が完了するので手軽で便利なのです。また平成15年の民法改正以前は、短期賃貸借や滌除など抵当権の足を引っ張る制度を回避できるメリットもありました。そこで、土地を担保とする金融の手段として、戦後の高度成長期あたりからしばらくは盛んに利用されていたそうです。

しかし、債権者にとっての仮登記担保はそういうキレイな目的で使うのではなく、もっと現金なものだったようです笑 というのも、被担保債権の債権額よりも価額の高い土地に仮登記担保を設定しておき、これを実行すると土地の価額と債権額の差額が発生しますよね。その差額分を債権者がまるまる懐に入れることができる、という旨味があったのです。たとえば債権額が1,000万円、担保の土地が2,000万円とすれば、差額の1,000万円がまるごと債権者の手に入るわけですね。というかむしろ、差額分を取得することこそが仮登記担保の真の目的と言わんばかりに、わずかな額の債権に対して不釣り合いな価値のある土地に仮登記担保を設定して、結果的にその土地を巻き上げるといった使い方が横行していたようです。一般にお金を借りる債務者よりもお金を貸す債権者の方が立場が強いので、債権者が狙いを付けた土地への仮登記担保設定を事実上強制するようなこともあったそうですね。恐ろしい…。

とはいえ、そんな海老で鯛を釣るみたいな暴利の貪り方が次第に問題視されるようになり、昔の判例では差額があまりにも大きい場合は公序良俗に反して無効とされていました。それからだんだんと債権者に清算させることが手続として定型化していき、ついに昭和53年、仮登記担保法という法律が制定されたのでした。非典型担保だった仮登記担保が、きちんとした法律の根拠を得たわけですね。これ以降、差額がある場合はどんなに少額でも清算が義務付けられています。これ、債権者から見ると仮登記担保の旨味がまったくなくなったも同然なので、すっかり利用されなくなってしまったのだそうですよ。う〜ん、現金というかシビアというか…^^;

 

受験生の立場からすると、仮登記担保は頻出論点というわけでもないのに細かい事柄を覚えなければなりませんよね。被担保債権は金銭債権のみであるとか、清算金の見積額を通知するとか、そこから2ヶ月経過したら所有権が移転するとか、でも後順位抵当権者がいたら清算金に物上代位してくるとか、その場合の本登記には債権差押命令謄本と供託事項証明情報が必要とか、結構複雑なのです。しかも覚えたからといって実務で役立つかというと…だって、今はあまり利用されてないんですよね? なんか微妙な気分^^;

ところが、法律の専門家というか研究者というか法学者の立場からは、仮登記担保法というものがとても輝かしいものに見えているようなのです。それに驚いてこの文章を書いているわけなんですけども笑 自分が読んでいる基本書である松井宏興先生の『担保物権法』によると、仮登記担保法について次のように書かれています。

…権利移転型担保である仮登記担保を制限物権型担保に近づける努力をした学説や判例の傾向が仮登記担保法として立法的に実現され、そこに示された法理が権利移転型担保にとって1つの模範となっていると言える…(第2版p170)

権利移転型担保というのは仮登記担保や譲渡担保のように、担保の目的物の所有権を債務者から債権者へ移転させるタイプの担保です。制限物権型担保は、抵当権が代表例ですね。そして、学説や判例の積み重ねによって、非典型担保で権利移転型だった仮登記担保に制限物権型のような形を得させる仮登記担保法という法律が結実したのだ、何と喜ばしい!…とは明示されていませんけど、そういう筆致で書かれています。いやいや立法論的に見たときの成立の過程や規制の仕方なんかは模範なのかもしれないけど、でも仮登記担保って債権者からはすっかり不人気になってますよね…という現実社会の事象は、法学者にとってはあまり関心のないことなんでしょうか? 何というか仮登記担保って、利用者(債権者)からの見え方と、法学者からの見え方が全然違っているようで、そのズレがちょっと不思議で面白いなと思いました^^;

 

一応、松井先生の基本書のご紹介を。

 

大学法学部での初学者向けテキストとして人気と聞いたので読んでみました。抵当権と非典型担保(特に集合動産・集合債権の譲渡担保)について詳細な解説があります。でもそんなに堅苦しい感じではなく、各制度の成り立ちとか利用実態なんかについてもいろいろと説明があって、読み物として読んでも楽しいですよ^^ それにしても、非典型担保には興味深い話が多いですね。試験が終わって時間ができたら、他の本も読んでみたいです。