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伝法院通りの立ち退き問題

伝法院通りって、浅草公会堂の北側を東西に走る通りですよね。コロナ前は、休日になるとかなりの人出でした。今もだんだん元に戻りつつあるような感じですよね。それで、通りの北側、伝法院の敷地との境に沿って、小さな商店が立ち並んでいます。単なる観光地の土産物屋というわけではなく、行列のできる食べ物屋があったり浅草らしくステージ衣装の店があったりで面白いところなのですよ。その一方で商店の一つ一つはかなり小さなもので住居と一体になっているようには見えず、かといって波形トタンで急拵えしたバラックという感じでもなく、しかも商店の独立した建物同士が密着するくらい隙間なく建っていて、これは法的にどういう取り扱いになっているんだろう…?と思ってました。そしたら、こんな騒ぎになっているのですね。

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土地は区のもの(区道)だから、区から見たら商店は不法占拠者です。それに対して商店側は、40年くらい前に当時の区長から口約束とはいえ使用の許可を受け、長年にわたり平穏かつ公然と営業してきたのにいきなり何だ!ということでしょうか。

 

浅草っぽいレトロな街並みというは、確かに保存していく価値はありそうだなと思います。また行ってみたいな、友達を連れてってあの店のコロッケを食べさせて、その後ホッピー通りで飲みたい、とか思いますもんね笑 商店の人たちにしても、40年以上この場所で営業を続けてきたのに、いきなり出て行けと言われたら非常に困るでしょう。多分、住む家は他に確保されているのでしょうけど、仕事は同じようには続けられなくなるでしょうからね。また、区はあの辺りの商店を立ち退かせた後どうしたいのか分かりませんけど、あの独特の風情を越える何かを作り出すのはちょっと大変そうですし、それならそのまま黙認しておくのも一つの手だったのかな…という気もします。いや、こうして報道されてしまったからには黙認はもう無理ですね。黙認する気がないから提訴に踏み切ったのですし^^;

逆に区側の立場も理解できます。区の土地を占有するにはそれなりの手続きが求められるのだし、他人のものを占有して使用収益するのだから、その対価としての地代なり賃料なりを支払うのは基本だと思います。でもここではどちらも行われていないのですよね。それでは他の区民に示しがつかない、ということにもなるでしょう。また、商店側は40年前に当時の区長から使用許可を得たとの認識だそうですが、そもそも区長にそういう権限があるんですか? ちょっとそうとは思えないんですけど…。当時の区役所の職員が何も口を挟まなかったとすれば、当時はそういうやり方も正式な制度として存在していたんでしょうか。それとも、当時の区長はとても個性的な方だったようですから、区の職員をしてこの件には触れずにやり過ごそう…と思わせるような関係性があったりしたのですかね。さらに商店側は、40年もの時間があったのに、正式な手続きをしようと思わなかったのでしょうか。区というか元区長の好意に甘えすぎという気もします。とはいえ当時の記録も文書も何も残ってないというし、今になってから妄想してみても仕方のないことですけど。

 

そうそう、公有地を時効取得することは原則できないとされていますが、例外的に公物だったものが物理的に変化して私物になったとか、行政側が公用廃止をしたとかの事情があるときは、時効取得も認められるのでしたね。また、公用廃止は明示的なものでも黙示的なものでも良いのでした。というのを行政書士試験の行政法で勉強したなぁ…というのを今思い出しました笑

公有水面埋立法…に定める上記原状回復義務は、海の公共性を回復するために埋立てをした者に課せられた義務である。そうすると、長年にわたり当該埋立地が事実上公の目的に使用されることもなく放置され、公共用財産としての形態、機能を完全に喪失し、その上に他人の平穏かつ公然の占有が継続したが、そのため実際上公の目的が害されるようなこともなく、これを公共用財産として維持すべき理由がなくなった場合には、もはや同項に定める原状回復義務の対象とならないと解すべきである。したがって、竣功未認可埋立地であっても、上記の場合には、当該埋立地は、もはや公有水面に復元されることなく私法上所有権の客体となる土地として存続することが確定し、同時に、黙示的に公用が廃止されたものとして、取得時効の対象となるというべきである。

これは最高裁平成17年12月16日判決の一部です。行政書士試験の過去問で、この判決文がまるごと出題されていましたね。それでこの判例は、公有水面を埋め立てて造成した土地が長年にわたり放置され、その間に私人が占有を継続し、公の目的が害されることもなかったというケースで、黙示の公用廃止による私人の時効取得を認めたものです。こういう趣旨の判例は平成17年よりも前からあって、たとえばこんな感じです。

公共用財産が、長年の間事実上公の目的に供用されることなく放置され、公共用財産としての形態、機能を全く喪失し、その物のうえに他人の平穏かつ公然の占有が継続したが、そのため実際上公の目的が害されるようなこともなく、もはやその物を公共用財産として維持すべき理由がなくなつた場合には、右公共用財産については、黙示的に公用が廃止されたものとして、これについて取得時効の成立を妨げないものと解するのが相当である。

こちらは最高裁昭和51年12月24日判決で、公図上水路と表示されていた国有地を祖父の代から水田として耕作してきたという事例です。やはり、黙示の公用廃止による私人の時効取得を認めています。このような公有地の時効取得は、例外的な扱いとはいいながらも、ちょこちょこ見られるようですね。

 

浅草の場合はどうでしょうか。上の判例に沿って考えれば、商店が建っている区道の一部が、長年の間公の目的に供用されることなく放置されていたか、公共用財産としての形態・機能を喪失していたか、それについて私人が平穏かつ公然の占有を継続したか、そのために公の目的を害することがなかったか、もはやその物を公共用財産として維持すべき理由がなくなったと言えるか、ということが要件になってくるのでしょうかね。土地問題に詳しい弁護士さんが無理っぽいと言っているのだから現実は厳しいのでしょうけど、個人的な心情としては存続したら楽しいのにな~と思います^^;