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法定地上権(1)

日本の不動産は土地と建物が別扱いで、建物が存在するには土地(の利用権)がなければいけない、ということで考え出されたのが法定地上権の制度です。甲土地の所有者Aが、甲土地上に乙建物も所有していて、甲土地に抵当権を設定したとしましょう。後にこの抵当権が実行されてBが買受人になったとすると、甲土地の所有者はB、乙建物の所有者はAとなって土地と建物が別人に帰属します。しかしこのままでは乙建物には甲土地を利用するための賃借権なり地上権なりの権利が設定されていないので、甲土地の所有者BがAに対し乙建物の収去・甲土地の明渡を請求をしたら、Aは乙建物を取り壊し甲土地を更地にして出て行かなければいけません。以上と同じことは、乙建物に抵当権を設定した場合にも起こります。

しかしこれでは建物がなくなって生活に困るであろうAにとってあまりにも酷ですし、地上に建物が存在する前提で甲土地を落札したはずのBには恵まれすぎた話になって妥当な感じがしません。また、せっかくきちんと建てられて現に問題なく使用されている建物を取り壊してしまうのは、社会経済上の損失とも言えます。そこで、上の事例のように抵当権の実行によって土地と建物が別々の所有者になったときは、建物を存続させるために「法定地上権」が成立するとされたのでした(民法388条)。世界的に見ても結構珍しい制度なのだそうですよ。

 

なお、法定地上権民法上の抵当権の実行によるものばかりではありません。たとえば工場抵当法16条は民法388条を準用する形で法定地上権を取り込んでいます。また、一般債権者が債務者の土地と建物のうち一方だけを差し押さえて強制競売したら、土地と建物とは所有者が別々になりますよね。この場合は民事執行法81条を根拠に法定地上権が成立します。それから税金を滞納して公売処分を受けて同じ状況になると、国税徴収法127条を根拠として法定地上権が成立します。他方、土地に仮登記担保を設定して実行されても同じ状況になりますが、この場合に成立するのは法定地上権ではなく法定借地権(賃借権)とされています(仮登記担保法10条)。地上権でなく賃借権で充分でしょ?という意味らしいのですけど、そもそも仮登記担保だけ区別する意味がよく分かりませんね笑

 

さて、法定地上権が成立する要件は次の4つです。

①抵当権設定時、土地の上に建物が存在すること

②抵当権設定時、土地と建物が同一の所有者に帰属すること

③土地または建物に抵当権が設定されること

④抵当権の実行により、土地と建物とが異なる所有者に帰属したこと

話の流れとしては割と単純…なのに、実際には結構ワケの分からない事例がたくさん出てくるのですよね。そしてそれらが司法書士試験でも出題されて、受験生を困らせているという^^; そこで過去問にも出てくる有名な事例と判例のうち、状況が分かりにくいものを2つほど見ていきたいと思います。

 

まず1つ目。最初に解いたとき、とても混乱した過去問がこちら。

(A所有の)甲土地上にB所有の乙建物がある場合において,AがCのために甲土地に第1順位の抵当権を設定した後,Aが死亡してBが単独で甲土地を相続し, 更にBがDのために甲土地に第2順位の抵当権を設定し,その後,Cの抵当権が実行され,Eが競落したときは,乙建物について法定地上権が成立する。(平成26年 問13-イ)

(A所有の)甲土地上にB所有の乙建物がある場合において、BがCのために乙建物に第1順位の抵当権を設定した後、BがAから甲土地の所有権を取得し、更にDのために乙建物に第2順位の抵当権を設定し、その後、Cの抵当権が実行され、Eが競落したときは、乙建物について法定地上権が成立する。(平成26年 問13-オ)

…イとオは何が違うんだ?と一瞬思ってしまいますね笑 選択肢イは、Aの甲土地とBの乙建物のうち土地に1番抵当権を設定し、それから甲土地がBに移転してさらに土地に2番抵当権を設定し、その後1番抵当権を実行したケース。選択肢オは、Aの甲土地とBの乙建物のうち建物に1番抵当権を設定し、それから甲土地がBに移転してさらに建物に2番抵当権を設定し、その後1番抵当権を実行したケースです。いずれにしても1番抵当権を設定した時点では甲土地と乙建物はそれぞれ別の人が所有していたのだから、上記②の要件を満たさず法定地上権は成立しない、したがって選択肢イも選択肢オも×と答えたくなりますよね。ところが正解は、選択肢イは×なのですが、選択肢オは○なのです! 選択肢オだって最初土地と建物が別人の所有なのに?と思わず文句が出てしまいますけど、でもそうなのです。選択肢イは要件を満たしていなくて原則通りで、これは理解できます。しかし選択肢オは、明らかに要件満たしてないのに納得できない…^^;

 

選択肢オのベースとなったのは大審院昭和14年7月26日判決です。この判例、どう見ても1番抵当権設定時に土地と建物の所有者が別人で、それなのに法定地上権の成立を認めていて、強い批判があるそうです。そもそも、土地と建物が別人所有だった場合は法定地上権を考える必要なんてないはずなのですよ。なぜなら、土地の上に建物が建っているということは、その建物のために何らかの土地利用権が設定されているはずだからです。選択肢オに即して考えれば、BがA所有の甲土地上に乙建物を建てるとき、建物を所有するための地上権なり賃借権なりを甲土地に設定してもらったはずなのです。そして乙建物に1番抵当権が設定された後、甲土地が同一人Bに帰属しても、乙建物の土地利用権は混同の例外で消滅せず、1番抵当権に対抗できます。だから、わざわざ要件を無視してまで法定地上権を持ち出してこなくても、ちゃんと乙建物は存続するのですよね。

そこをあえて、法定地上権が成立するとしたのはなぜなのか。それは、抵当権者の利益を考慮したためとされています。建物に法定地上権が成り立つとすると、それだけ建物の評価額が向上し、競売したときに高価格で落札される期待が高まります。それは抵当権者にとってプラスなことは言うまでもありません。だから、建物に抵当権を設定した場合は法定地上権の成立を認めているのですね。では、選択肢イのように土地に抵当権を設定した場合に法定地上権が認められないのはなぜかというと、抵当権者は土地と建物が別人所有であれば土地に建物の負担がないものとして評価すると考えられるからです。抵当権が実行されて土地を買い受けた人は、建物所有者に出て行けと言えるわけですね。だからその分土地が高く売れるはずで、したがって担保価値も相応に高く評価されます。そういった抵当権者の期待を無視するわけにはいかないのでしょう。

 

…ということなのですが、何となくスッキリしない気もしますね。まず抵当権者の利益なんていう最初の要件には入っていないものが出てくるのが唐突だし、建物の買受人からすると法定地上権の分だけ高く買わされているのでは?という感じもしてしまいます。とはいえ、昭和14年判例が今でも変更されずに通用しているのだから、これに納得できないのは自分の理解がまだまだ深まっていないということなんでしょうかね…。試験対策としては、建物に1番抵当権が設定された後に土地と建物が同一人物に帰属して建物に2番抵当権を設定し、1番抵当権が実行されたら法定地上権成立、その一方で土地に1番抵当権が設定された後に土地と建物が同一人物に帰属して土地に2番抵当権を設定し、1番抵当権が実行されたら法定地上権不成立、という結論を覚えておけば良いのですけど^^;

 

長くなってきたので、2つ目の話は次回ということで。