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法定地上権(2)

法定地上権はネタが多いというか、それゆえにそこそこ出題されますよね。だいたいは結論さえ丸暗記しておけば試験対策としてはいいのですけど、それでは無味乾燥でつまらないしすぐ忘れてしまいそうなので、法定地上権が成立するorしないの理由を知っておきたいなと思うわけです。ということで、前回に続き2つ目の話です。

教授: Aが所有する土地及び同土地上の建物双方について、Bのために共同抵当権が設定された後、当該建物が取り壊され、建物が新築された場合において、土地のみについて抵当権が実行されてCが買受人となったときは、法定地上権は成立しますか? なお、新築建物には、抵当権は設定されなかったものとします。

学生: 法定地上権が成立します。Bは、土地を法定地上権付きの土地として評価していたはずですので、法定地上権の成立を認めてもBを害することはないからです。(平成21年 問14-オ)

Aの所有する甲土地及び甲土地上の乙建物にBのための共同抵当権が設定された後、乙建物が取り壊され、甲土地を賃借したCが丙建物を新築した。この場合、甲土地についての抵当権が実行され、Dが甲土地の所有者になったときは、丙建物のための法定地上権は成立しない。(平成28年 問13-エ)

答えは、上の問題が×、下の問題が○です。土地と土地上の建物との所有者が共同抵当権を設定してから建物を取り壊し、後に建物を新築した場合は、「特段の事情」がない限り新築した建物のための法定地上権は成立しません(最判H9.2.14)。しかしこの判例の結論に至るまでには変遷があって、昔は上記のような場合にも“成立する”という真逆の判決が出ていたりしたのです。そのあたりの流れを見てみましょう。

 

抵当権者が共同抵当権を設定するとき、土地と建物の担保価値をどのように考えるのでしょう? まず土地は、土地に建物の負担が付いているわけですから、担保価値としては土地の価格から法定地上権の価格を差し引いたものになるはずです。

▼土地の担保価値=土地の価格-法定地上権の価格

逆に建物は、土地の利用権である法定地上権の分だけ担保価値が上がるはずです。

▼建物の担保価値=建物の価格+法定地上権の価格

以前は、これら土地と建物の担保価値は個別的に把握されるとされていました。これを「個別価値考慮説」といいます。とても素直な考え方というか、土地と建物は別の不動産なのだから担保価値も別々に把握するのは当然という感じがしますね。そしてこのように考えるなら、土地と建物に共同抵当権を設定し、建物を取り壊してから新築しても、法定地上権が成立してよいという結論になるでしょう。というのは、上で見た通り土地の担保価値として把握しているのは土地の価格から法定地上権の価格を差し引いたもの(底地価格といいます)にすぎないので、法定地上権を認めても土地の抵当権を害することはないと考えられるからです。最初に挙げた2問の問題のうち上の平成21年の方は、まさに個別価値考慮説によるものです。また、ともかく抵当権設定時に土地上に建物が存在していたのだから、新築された建物に法定地上権が成立することにしても抵当権者の予測を裏切ることにはならないという点も、個別価値考慮説を採る理由になりますね。

 

しかし折しもバブル崩壊で不動産価格が暴落していた時代、借金の返済はできないけれど抵当権が実行される事態も避けたいという共同抵当権設定者が、次のような方法を考えました。それは、共同抵当に入っている建物の方をわざと取り壊した上で、建物を新築する、あるいは土地を誰かに賃貸して賃借人に建物を建ててもらう、というものです。そして、この新築建物は共同抵当に入れないでおきます。この状態で抵当権が実行されると、まず新築建物には法定地上権が成立するので、第三者に売却したり、もともとの共同抵当権者とは別の債権者のために抵当権を設定して融資を受けたりして、設定者はまとまったお金を手に入れることができます。ところがもともとの共同抵当権者は、元の建物がなくなっているので建物の抵当権を失ってしまい、しかも土地の抵当権は底地価格しか把握しておらず(競売しても底地価格でしか売れない)、充分な債権回収ができなくなるのです。土地と建物を共同抵当とした意味がまったくなくなってしまいますね。こういうやり方で抵当権の実行を逃れる、というか抵当権の実行の妨害が横行したそうです。

…それにしても昔の抵当権者って、この話もそうだし、短期賃貸借にしても滌除にしても物権的請求権にしても、物凄く虐げられてたんですねぇ。抵当権者に恨みのある人が制度設計してたんでしょうか。というかこんなんでよく社会が回っていたものですね…^^;

 

それはともかく、上記のような手口に対応すべく最判平9.2.14で全面的に採用されたのが「全体価値考慮説」という考え方です。土地と建物に共同抵当権を設定するときは、土地と建物全体の担保価値を把握しているのだと考えます。そして、建物が存在しているうちは建物についての法定地上権を許容しますが、建物が取り壊されてしまったら、土地の抵当権は建物のない更地としての担保価値を把握しようとするのが抵当権者の合理的な意思だというわけです。これなら、建物を壊した後に何をしようが関係なく、土地の価格全体を担保価値として把握できるのですね。で、土地の抵当権が土地全体の価値を把握した後は、法定地上権を認めると土地の抵当権を侵害してしまいますから、結論としては法定地上権は成立しないということになります。なお、法定地上権には建物の保護という公益的な意味もあったはずですけど、それについて判例は「抵当権設定当事者の合理的意思に反してまでも右公益的要請を重視すべきであるとはいえない」と述べています。これは当時の時代背景というか、抵当権に対する妨害行為があまりにも酷すぎたってことなのでしょうね。

もっとも、全体価値考慮説が万能というわけではないのです。たとえば地震で建物が倒壊してしまった場合、建物を再築しても法定地上権は成立しません。すると再築のための資金の融資が受けられず、再築自体が困難になって、倒壊した建物に住んでいた人は非常に困るでしょう。さらに、こういうケースが多発すれば震災からの復興そのものにまで大きく影響するかもしれませんね。こういう場合は個別価値考慮説の方がうまくいきそうです。

 

そうそう、全体価値考慮説によって判断される現在も、「特段の事情」があれば法定地上権が成立します。特段の事情とは、新築建物の所有者が土地の所有者と同一で、かつ建物が新築された時点での土地の抵当権者が新築建物について土地の抵当権と同一順位の共同抵当権の設定を受けた場合のことです。こういう事情があれば、抵当権者は土地と新築建物の全体についての担保価値を把握することになり、法定地上権の成立を認めても抵当権者の合理的な意思に反することはないというわけですね。ただしこれにも例外があって、新築建物について設定された抵当権の被担保債権に優先する租税債権がある場合は、先順位の抵当権があるのと同じ状況になります。つまり、新築建物の抵当権は実質的に2番抵当権だった、ということになるわけです。このようなときは「特段の事情」に当たらず、法定地上権は成立しません(最判H9.6.5)。登記されてなくて目に見えなくても優先される租税債権てコワイですね笑

 

法定地上権は意外と内容が複雑で紛争が起こりやすいため、もうちょっと何とかすべきだという意見も多いようですね。自己借地権を認めればかなりの問題が解決するのではないか、とか。でも、そういう制度的な改正が行われるとしても相当に先のことになるのでしょうし、自分が司法書士試験を受ける間には変わらない(だろう)と思うので、しっかりと覚えていきたいと思います。う〜ん^^;