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債権者代位権(1)

AがBに対し債権を持っていて、さらにBがCに対して債権を持っていたとしましょう。どちらの債権も弁済期が到来していて、しかもBにはCへの債権以外に目ぼしい財産がない場合、AはBに代位してCへの債権を行使することができます。…債権者代位権の教科書的な説明はこんな感じになると思うんですけど、コレ改めて考えてみるともの凄い状況ですよね? AはどうやってBの債権の存在を知ったのでしょう? BではなくAから弁済を求められたCは、一般に素直に応じるものでしょうか? 債権者代位権の話っていろいろ生々しい場面が想像されて、人間て業が深いな…などと思ったりします笑

 

債権者代位権は、債権者が自分の債権を保全するために、債務者に代わって債務者の権利を行使する制度です。上の例で言えば、Aは自分の債権を保全するために、Bに代わって(代位して)Bの債権を行使します。とはいえ債務者にも自分の財産は自分で処分する自由があるというのが原則であり、債権者代位権はあくまでも例外とされています。下世話な言い方をすれば、他人の財布に横から手を突っ込むようなものですからね。そこで債権者代位権の行使は、あくまでも債権者が満足を得るために必要最小限の範囲にだけ認めるべきだ、と考えられます。ここから、代位債権者は自己の債権額の範囲でのみ代位行使できるとか、債務者は無資力でなければいけないといったように理解されるわけなのです。

ところで、なぜ債権者代位権という制度があるのかというと、もともとは債務者の責任財産保全することによって、後から行う強制執行を実益のあるものにするためです。上の例でのAが、直接的に自己の債権回収を行うためではありません。AがBに代位して債権を行使し、Cから弁済を受けたら、それはBの責任財産に組み入れられるのです。で、BはAから債権を代位行使されてしまうくらいお金がないのだから、A以外にも債権者がいることでしょう。そういった債権者全員のために、Bの責任財産が引き当てにされるのです。AがBの財布に手を突っ込むことが正当化されるのは、総債権者のためにやっている、という建前があるからなのですね。

 

すると、こんな風に考えることもできます。債務者の債権を代位行使するのは総債権者のためなのだから、代位できる範囲は代位債権者の債権額に限定されず、総債権者の債権の合計額まで認められてもよいのではないか、と。上の例をちょっと変えて、AがBに対して100万円、別の債権者DもBに対して150万円の債権を持っていたとしましょう。そしてBのCに対する債権額が200万円だとすると、代位債権者が代位できる範囲が自己の債権額までに限定されるならAが代位できるのは100万円までとなります。しかしAが代位行使するのはAのみならずDのためでもあるのだから、AとDの債権額を合計した250万円まで代位できるはずだ(といってもBの債権額は200万円ですから、代位できるのは最大で200万円までですね)、というわけです。

しかし判例では「債権者は自己の債権額の範囲においてのみ債務者の債権を行使しうる」とされました(最判S44.6.24)。というのは、上記のように被保全債権も被代位権利も金銭債権の場合、責任財産保全という本来の目的を超える効果が得られるからです。まず、債権者は第三債務者から直接金銭の支払いを受けることができます。そして受け取った金銭は債務者に返還しなければいけませんが、この債務と自分の被保全権利である債権とを相殺することが認められているのですね。

たとえば上記の事例で、AがBの債権を代位行使し、それはDのためでもあるからという理由で仮に200万円をCに支払わせ、Bが受け取ったとしましょう。すると、Bの責任財産は200万円になりますね。ここに強制執行をかけるとAとDの債権額に応じて按分されるので、Aは80万円、Dは120万円を受け取れる、という結果になります。残念ながら、Aは完全な満足は得られませんでした。わざわざ手間をかけて代位行使したのにAが気の毒…という感じですね^^;

実際は、Aは自分の債権額である100万円までしか代位できません。そこでCから100万円を受け取ったとしましょう。これは本来Bに返還しなければいけませんが、一方でBはAに100万円を支払わなければいけない立場ですから、これらの債権債務を相殺してよいとされています。すると、AはCから100万円を受け取ったことで、AとBの債権債務関係が相殺によって消滅し、その結果Bへの債権100万円を全額回収できたことになるのです。この効果が「事実上の優先弁済」と言われています。このように、代位債権者は他の債権者に先んじて自己の債権を回収できるため(AはDよりも優先して弁済を受けたのと同じ)、代位できるのは自己の債権額の範囲のみとされたのでした。

 

上の例で分かるように、代位できる範囲が自己の債権額に限定されていても、それは必ずしも代位債権者にとって不利というわけではないのですね。AはDよりも先に代位行使したから全額回収できたのであり、代位行使の範囲よりもむしろ他の債権者より先に行動することが大切、というように見えます。上の例で、Dが先に代位行使してCから150万円の弁済を受けてしまったとすると、残りは50万円。つまりAは50万円しか回収できなくなります。そこで債権者の立場としては、債務者に代位できるタイミングが来たら即座に代位すべし!ということになるのでしょう。何というか血なまぐさい雰囲気になってきそうな感じがしますね^^; 微妙に苦手なんだよなぁ笑

 

それはともかく試験対策としては、債権者代位権が単体で1問作られることは時折あるとしても、それよりは他のテーマ(不動産登記法も含めて)に絡んで出てくることが多いように思います。代位債権者が出てくると登場人物が増えてややこしくなるので、問題用紙の余白なんかに相関図みたいなものを書く習慣をつけとくといいかもしれませんね。債権者代位権の単体の問題としては次のような感じです。

債権者AがBに対する50万円の金銭債権を保全するために、BのCに対する100万円の貸金返還請求権を代位行使するに当たっては、BのCに対する債権が1個の契約に基づくものであっても、Aは、Cに対し、自己の債権額50万円に限って支払を請求することができる。(平成6年 問8-ア)

債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利が金銭債権であるときは、第三債務者に対し、その支払を自己に対してすることを求めることができる。(平成29年 問17-オ)

正解はどちらも○です。上の例で見てきたことが、そのまま問題になっている感じです。こういうのは分かりやすくていいんですけど、不動産登記法記述式で代位による登記が入ったりすると、いろいろ気を遣わなければいけないところが増えますよね…。

 

債務者の無資力まで話を進めるつもりだったんですけど長くなってきたので次回に続く。