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債権者代位権(3)

今回は、債権者代位権が認められないケースを見てみましょうか。

Dが、Aから賃借した甲土地上に乙建物を所有し、これをCに賃貸していた場合において、Dが乙建物をBに売却したが、甲土地の賃借権の譲渡につきAの承諾が得られないときは、Cは、乙建物の賃借権を保全するために、Bの資力の有無にかかわらず、Bに代位して、Aに対する建物買取請求権を行使することができる。(平成22年 問16-エ)

答えは×です。ここでのDは借地権者で、Dが乙建物と甲土地の借地権をBに売却しています。ところが、借地権設定者Aが借地権の譲渡について承諾しませんでした。こうなるとBは借地権を取得できませんが、それでは乙建物を手に入れた意味がなくなってしまいますよね。そこでこういう場合、BはAに対し建物買取請求権を行使し、乙建物を時価で買い取るよう請求することができます(借地借家法14条)。現存の建物を必ず取り壊さなければならないとすると、社会経済上の不利益であると考えられていることからこのようなルールになっているのでした。

で、乙建物の賃借人であるCは、このままでは乙建物から追い出されることになって困るので、自分の賃借権を被保全債権として、DのAに対する建物買取請求権を代位行使しようとしている、というわけなのですが…これは認められません(最判S38.4.23)。なぜなら、建物買取請求権を行使することによって得られる利益は建物の代金、つまり金銭債権に過ぎないのであって、これによってCの賃借権が保護されるという関係にはならないからです。しかも判決文の中で「買取請求権行使の結果、建物の所有権を失うことは、訴外Bにとり不利益であつて、利益ではない」と言っているのが面白いです笑 CがBの建物買取請求権を代位行使したとしても、Bは建物の所有権を失うし、Cは賃借権が保全されないし、結局Cは何がしたかったのかワケが分からないという事態に陥ってしまいますからねぇ。

ただし、この判例には反対論もあるそうです。CがBの建物買取請求権を代位行使すると、建物買取請求権は形成権なのでCの意思表示だけで乙建物の所有権がBからAに移転します。そしてCは乙建物の引渡しを受けているのだから、自己の賃借権を所有者Aに対抗することができる、その結果Cの賃借権は保全される、というのですね。なるほど〜という気もしますけど、判例が言っているところのBの不利益はどうなってしまうのか、そこが解決されない限り結論は変わらないのかも…と思います^^;

不動産登記法でも、同じく賃借権絡みの代位の登記が出題されています。

土地の買主から賃借権の設定を受けた賃借権者は、当該賃借権について登記をする旨の特約がなくても、当該買主に代位して、土地の売主と共同して当該土地の所有権の移転の登記を申請することができる。(平成21年 問12-ア)

この場合の被保全債権は賃借権者の買主に対する賃借権設定登記請求権、被代位権利は買主の売主に対する所有権移転登記請求権ですが、肝心の賃借権の登記をする旨の特約がありません。この特約がない限り、賃貸人は賃借権の登記義務を負わないのですよね(大判T10.7.11)。つまり賃借人には被保全債権がなく、したがって買主の登記請求権を代位行使することもできません。なので答えは×です。

 

債権譲渡に関して、こんな問題が出ていますよ。

AのDに対する債権がAからBへ、BからCへと順次譲渡された場合において、AがDに対して債権譲渡の通知をしないときは、Cは、Bの資力の有無にかかわらず、Bに代位して、債権譲渡の通知をするようにAに請求する権利を行使することができる。(平成22年 問16-ア)

債権を譲渡する場合、譲渡人から債務者への通知または債務者の承諾がなければ、債権譲渡を債務者に対抗できません。そこで譲受人Cとしては、債権を譲り受けたら譲渡人BおよびAに対してさっさと債務者に通知してくれないかな…と思うわけです。ここで、Cが直接Dに対して通知をしても、Dには対抗できません。譲り受けた人から通知してよいとすると、譲渡を受けてもいないのに勝手に「私が債権を譲り受けたので私に弁済して下さい」と言い出すヤツ(詐称譲受人)が出てくるからですね。この理屈はCがBまたはAに代位してDに通知するとしても当てはまり、譲受人は債務者に対抗できないのです(大判S5.10.10)。それに、債務者への通知は債権者の権利というよりは義務であり、たとえ債権の譲受人といえども他人が代位行使するようなものではないとも考えられているようです。

しかし、譲受人は譲渡人に対して通知請求権を有しています。上の問題で言えば、BはAに対して、CはBに対して、それぞれ通知請求権があるわけです。そこで、CのBに対する通知請求権を被保全債権、BのAに対する通知請求権を被代位権利として、CからAに通知をするよう請求することができます(大判T8.6.26)。これは転用型の事例ということですね。また、譲受人が譲渡人から委任を受けて債務者への通知をすることも可能(最判S46.3.25)ですし、譲受人が譲渡人の使者として通知することもできるのでした。というわけで、問題の答えは○です。

 

話は変わって、いわゆる身分行為(家族法・相続法上の地位の得喪を目的とする行為)のための権利は、代位行使が認められるべきではないとされています。これは、行為者の意思を尊重すべきで、権利を行使するかどうかの決定に他人が介入することは許されない一身専属権とされているからでしょう。ここには、婚姻の取消し、夫婦間の契約取消し、離婚・離縁の請求、扶養請求権、相続人の廃除、親権などが含まれます。これはまあ、当然という感じがしますね。

では、身分上の権利の中でも財産権的な性格を持っている権利はどうなのかというと、こちらも一身専属権と言えるから、債権者が介入するのは適切でない、したがって代位行使はできないと考えられているようです。とはいえ、代位行使が云々される債務者には自己の資力で自己の債務をカバーできない状態になってしまった責任があるのに、身分上の権利というだけで代位できないのでは債務者を保護しすぎ、債権者に厳しすぎ、と考えることもできます。なので結局は、責任財産保全と身分上の権利を行使する意思とのバランスを取っていく、ということになるようです。離婚に伴う財産分与について、こんな問題が出てますね。

BとCとの離婚後、BC間で、CがBに対して財産分与として500万円を支払う旨の合意が成立したが、Bがその支払を求めない場合には、Bの債権者であるAは、Bに代位してCに対し、これを請求することができる。(平成17年 問17-ウ)

こういう場合について最高裁は、「離婚によつて生ずることあるべき財産分与請求権は、一個の私権たる性格を有するものではあるが、協議あるいは審判等によつて具体的内容が形成されるまでは、その範囲及び内容が不確定・不明確であるから、かかる財産分与請求権を保全するために債権者代位権を行使することはできないものと解するのが相当である」(最判S55.7.1)と言っています。具体的内容が形成されていないうちは、債権者代位権を行使できないのです。その一方で具体的内容が決まれば(上の問題でいえば、CがBに対して500万円支払う旨)、それは普通の債権なので代位行使できる、というわけですね。なので答えは○です。

こんな代位の仕方もダメという例がこちら。

債権者代位によって、相続人全員のために相続を原因として法定相続分による所有権移転の登記がされたが、登記名義人中に既に相続の放棄の申述をして受理された者があることが判明した場合、債権者は、相続放棄申述受理証明書を申請書に添付しても、代位によって更正登記を申請することはできない。(平成12年 問15-イ)

これは不動産登記法の問題です。たとえば共同相続人がAとBの2人で、Aの債権者XがAの持分を差し押さえるためにAとBに代位して法定相続分による相続登記を入れたら、実はAまたはBが相続放棄していた、という状況ですね。すると、この相続登記には当初から誤りがあるので、更正登記をしなければなりません。それならXとしては更正登記も代位してできれば好都合だというわけですけど、そんなことができるのかが問われています。

そこでまず、Bが相続放棄していたとしましょう。この場合、AB共有の名義をA単有に更生することになりますが、この更正登記はAが単独ですることはできないので、XはAに代位して単独申請することはできません。そしてBを登記義務者、Aを登記権利者として登記申請するのだから、XはBに代位するわけにもいきませんね。なのでBが相続放棄していたらXは代位による更正登記はできません。次にAが相続放棄をしていたとすると、Aはそもそも相続人ではないことになるのだから、Xは代位による相続登記そのものができなかったということになります。相続登記ができないとすれば、更生登記の話でもなくなりますね。ということでこの場合もXの代位による更正登記はできず、結局答えは○になります。問題文を読んで状況を思い浮かべると一瞬できそうな感じがしてしまうのですが、よく考えるとできないのですよねぇ^^;

 

以上のように、債権者代位の問題って民法不動産登記法のあちこちに出てきます。それだけよく使われる便利な手段ということなのですね。応用範囲が広くて面白い…のは確かなのですが、試験に限って言えば見たことも聞いたこともない事例が出題されたらちょっと困るな、とか思います笑