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法律初学者のおっちゃんが合格するまでやりますよー

刑法の勉強(1)

個人的に、刑法ちょっと苦手です^^; というか、抽象的な理論的なことだけを覚えるのならまだいいのですけど、問題文に出てくる具体例が結構エグいことが多いのです。たとえばこんな感じです。

Aは、多数の仲間らと共に、長時間にわたり、激しく、かつ、執ようにBに暴行を加え、隙を見て逃げ出したBを追い掛けて捕まえようとしたところ、極度に畏怖していたBは、交通量の多い幹線道路を横切って逃げようとして、走ってきた自動車に衝突して死亡した。この場合において、Aの暴行とBの死亡の結果との間には、傷害致死罪の因果関係がある。(平成25年 問24-オ)

因果関係についての問題。答えは○なのですが…、読んでて気分悪くなってきません? これは最決H15.7.16をもとに作られたもので、「高速道路進入事件」という名前が付いている通り、Aらから逃げるために高速道路へ進入したBが車にはねられ死亡した事件です。しかも第一審では、Bには逃走先の選択肢がいろいろあるし、高速道路に入ることは予想外の行動だから、暴行の危険が現実化したものとはいえないとして因果関係を否定したというのも、一層胸糞悪く感じます。それに対し控訴審は因果関係を肯定して傷害致死罪の成立を認め、最高裁も「(Bの行動は)著しく不自然、不相当であったとはいえない」としているのにはちょっとだけ溜飲の下がる思いがしますね。

まあでもそういう血腥い事例ばかりでなく、ほのぼのした雑学クイズみたいな問題も出題されたりしますよ。

ゴルフ場で、池の中に落ちたまま放置されたいわゆるロストボールは、仮に、そのゴルフ場において、後に回収し、ロストボールとして販売することになっていたとしても、もともとは客が所有していたボールであり、客が所有権を放棄したのであるから、無主物であって、これを盗んでも窃盗罪にならない。(平成20年 問26-ウ)

池ポチャしたボールってどうなるの?ということで、ゴルフ場がロストボールの回収・再利用を予定していた場合はゴルフ場管理者に占有があるとされています。勝手に持ち帰ると窃盗罪が成立してしまうのですね(最決S62.4.10)。なので答えは×です。

全部が全部こういう問題ならいいのですが、たいていは金属バットで殴りかかってきたから鉄パイプで反撃したとか、包丁を刺したら血が噴き出して驚いたとか、4歳の子に死のうと言ったら同意したから殺したとか、殺害後ふと見たら財布があったから盗んだとか、イヤになるほど殺伐としているのです。気が滅入っちゃいますね。そして、実際に起こった犯罪について法的に考えていかなければいけない法曹の方々って凄いなぁと思います。自分には無理だな^^;

しかし、そうはいっても刑法は犯罪を扱う科目なのだから、ある程度は仕方ないのですよねぇ。犯罪だって社会の現実であることは確かなのですし、誰だって絶対に無関係とは言い切れません。まして試験科目の一つなんだから、3問中2問は取りたいところ。ということで、気を取り直して個人的に面白かった(というと語弊があるかもですが…)判例を見ていきたいと思います。

 

●ガソリンカー事件

罪刑法定主義が問題になった事例として有名だそうですね。罪刑法定主義とは、犯罪と刑罰は予め法律で定めておかなければいけない、という刑法上基本中の基本のことです。「法律なければ犯罪なし、法律なければ刑罰なし」ですね。そして罪刑法定主義から派生して、被告人に不利な類推解釈は許されないとされています。類推解釈というのは、Xについて法律の規定があるとして、YはXと似ているから、Xについての法律の規定をYに適用してもよいとする解釈の仕方です。よく出てくる例としては、刑法134条1項が医師による秘密漏示を処罰すると規定しているところ、看護師は医療従事者である点が医師と似ているから、看護師にも適用する、というもの。これは裁判官が勝手に法律を作るようなものだし、一般の人からしたら何が犯罪とされるのか前もって分からないのではたまったもんじゃないので禁じられているのですね。一方、拡張解釈は許されます。規定の趣旨や目的に沿って言葉の意味を広く考えるという意味で、たとえば230条1項(名誉毀損罪)の「人の名誉」というときの「人」には、自然人だけでなく法人も含まれる、というようなことです。もっとも、どこまでも無限に拡張できるわけではなく、言葉の意味からして拡張可能な範囲の限界というものがあるはずです。医師と看護師で言えば、医師という言葉に看護師を含めるのはやっぱり無理でしょう、ということですね。

 

さて、ガソリンカーとは現在の一般的な自動車と同じようにガソリンを燃料として使用する鉄道車両のことです。気動車の一種であり、この意味では「汽車」と書くこともできます。戦前の鉄道は、動力といえばまず蒸気機関でしたが、運行回数を増やしたりコストを抑えたりするために、次第にガソリン動車が普及していきました。しかし戦争中ガソリンが不足し、さらに火災事故を起こしてガソリンカーの危険性が認識され、戦後はディーゼルカーへと置き換えられていったのでした。

で、戦前のある日のこと、三重県の鉄道会社が運行していたガソリンカーが6分遅れで発車し、遅れを取り戻そうとした機関士が制限速度を大幅に上回る速度で急カーブに突っ込み、脱線転覆させてしまいました。乗客2名が死亡し、80人以上の負傷者が出た大事故です。そしてこの機関士が過失汽車転覆等罪(129条)に問われたわけですけど、ここで刑法の条文を見てみましょう。

刑法129条1項 過失により、汽車、電車若しくは艦船の往来の危険を生じさせ、又は汽車若しくは電車を転覆させ、若しくは破壊し、若しくは艦船を転覆させ、沈没させ、若しくは破壊した者は、30万円以下の罰金に処する。

鉄道の話としては、汽車と電車は出てくるけど、ガソリンカーという言葉は出てきません。そこで被告人は、刑法129条の客体にガソリンカーは含まれていないのだから適用することはできないと主張したのです。しかし当時の大審院は、

…汽車ナル用語ハ蒸気機関車ヲ以テ列車ヲ牽引シタルモノヲ指称スルヲ通常トスルモ同条ニ定ムル汽車トハ汽車ハ勿論本件ノ如キ汽車代用ノ「ガソリンカー」ヲモ包含スル趣旨ナリト解スルヲ相当トス

と述べて退けたのでした(大判S15.8.22)。汽車という言葉は蒸気機関車が牽引する列車のことだけど、そこには汽車代用のガソリンカーも包含されるのだ、ということです。これは面白いですね。ガソリンカーは蒸気機関車の代用と認識されていたんだなぁ…とか。それはともかくこのように判断した理由は、刑法129条の趣旨は往来の安全を妨げる行為を禁止することであり、動力の違いがあっても蒸気機関車と同じく線路上を走行し客貨を輸送するガソリンカーは汽車に含まれるから、ということなのでしょう。

ここで、蒸気機関車とガソリンカーは似たようなものだから…としてしまうと、類推解釈になってしまいます。そうではなくガソリンカーは汽車代用の車両だから汽車に包含されると考えれば、これは汽車を拡張解釈していることになるからOKというわけで、判例も上記のようにちょっと回りくどい言い方をしなければいけなかったのでしょうね。今は気動車が当たり前に存在しているから気動車であるガソリンカーが汽車に含まれると言われても不自然に感じませんが、この当時はまだガソリンカーのようなものは珍しかったでしょうし。むしろ刑法の条文に「電車」という文言が入っていることは、法律としては当時の最新トレンドに対応していたとさえ言えそうです笑 それにしても、判例のこのへんの理屈というか、類推解釈と拡張解釈の違いは結構微妙で難しいですね^^;

 

おっと、長くなってしまったので、次回に続く。