目指せ!47歳からの司法書士受験!

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刑法の勉強(3)

今回は、前2回よりも少し具体的で、司法書士としての仕事にも関係しそうな話です。

 

●後見人と親族相盗例

未成年者に親権を行うものがいないとき、または親権を行うものに管理権がないとき、未成年後見が開始して未成年後見人が選任されますね。また成年後見制度でも、成年後見が開始すると成年後見人が選任されます。未成年後見人と成年後見人をまとめて後見人と言うことにして、後見人の任務というのは基本的に被後見人の財産管理です。判断能力の未発達な未成年者や、判断能力を欠く常況にある成年被後見人に管理を任せていたのでは、不適切な処分によって財産を失ったり、悪意のある者に騙されて財産を奪われたりする危険が大きいので、裁判所によって選任された後見人が代理して管理し、被後見人を保護するのでした。

成年後見人に選任されるのは祖父母やおじ・おばなどの親族が多く、成年後見人は司法書士や弁護士などの専門職が多いと聞いたことがありますけど、これは被後見人にとってそれが最適という場合が多いからだと思います。未成年者にとっては顔見知りの親族が近くにいれば安定するでしょうし、多額の資産を持つ成年被後見人には専門職を付ける方が安全確実な感じがしますね。もちろんその辺りは、個々の事情によって変わってくるのでしょう。

ところで、成年後見人も以前は親族も多かったそうですが、次第に専門職が増えていったのですよね。それは、親族による横領が多かったため、とされています^^; つまり、親が認知症になってしまって子が成年後見人に選任された場合、子が親のお金を勝手に使い込んでしまう、といったことが相次いだのですね。親の財産はいずれ自分が相続するのだからちょっとくらい…という程度の軽い気持ちなのかもしれませんが、これは横領に当たります。それが問題視され、確実に任務を遂行してくれそうな専門職を選任するようになった、という経緯があるのです。しかしそうすると誠実な親族であっても選任されにくくなり、成年後見制度なんて融通の利かない使いにくい制度だと思われる一因になってしまっているのですよね。そこで最近はまた親族を成年後見人に選任するケースが増えているそうですが…う~ん。

 

ところで、刑法にはこんな規定があります。

刑法244条1項 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪、第235条の2の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。

一定の親族間での一部の犯罪行為について、その刑を免除する「親族相盗例」の規定です。条文の中の235条の罪は窃盗罪、235条の2の罪は不動産侵奪罪のことで、さらに詐欺、恐喝、背任、横領などの犯罪が成立した場合に、この規定が準用されます。つまり、犯罪は成立するけど処罰はされないのですね。これは「法は家庭に入らず」というローマ法以来の考え方によるというか、家庭内のことは家庭内で解決するのが良いとの考えからできた特例と言われています。自分の子供が家に帰ってきたかと思ったらうまい話があると言って乗せられて結局お金を巻き上げられたとか、兄が弟の貯金箱からお金をくすねていったとか、そういうのはどの家庭でも起こりうることですよね。でもそれは国家の捜査機関が介入するのではなく、家庭の中で折り合いを付けなさい、ということです。政策的配慮ということですね。

 

ところが、親族相盗例を逆手に取るような未成年後見人が現れたのです。母が死亡した未成年者Aの未成年後見人に、Aの祖母Bが選任されました。Aは母の相続人であり、生命保険金の受取人でもあって、多額の財産があったのですね。それでBがAの財産を管理していたのですが、Bは別の親族と共謀してAの財産を引き出し、2年ほどの間に約1,500万円も使ってしまったのでした。これはヒドイ^^;

BはAの未成年後見人であり、Bの行為は業務上横領に当たります。その一方で、BはAの直系血族なので、親族相盗例の規定が準用されて刑が免除されるとも考えられます。被告人Bはまさにそう主張しました。それに対して最高裁は、未成年後見人は未成年者と親族関係にあるかどうかの区別なく誠実に財産管理をするべきだと述べた上で、

成年後見人の後見の事務は公的性格を有するものであって、家庭裁判所から選任された未成年後見人が、業務上占有する未成年被後見人の財物を横領した場合に、上記のような趣旨で定められた刑法244条1項を準用して刑法上の処罰を免れるものと解する余地はないというべきである。

として親族相盗例を認めませんでした(最決H20.2.18)。親族相盗例は“法は家庭に入らず”ということから家庭の自律に委ねる規定ですが、未成年後見人の後見の事務は公的性格を有するため、未成年後見人が未成年者の財産を横領した場合は家庭内だけの問題と考えることはできないのです。また、仮に親族相盗例を認めると、立場の弱いAが立場の強いB(とその親族)にいいように財産を使われることになり、かえって立場の強い方が保護される結果になりかねません。なので、Bの横領に親族相盗例が準用されることはなかった、というわけなのですね。

 

同じことは、成年後見人と成年被後見人にも当てはまります。成年被後見人の養父が成年後見人に選任され、成年後見人が被後見人の財産を業務上横領したケースで、最高裁は上記最決H20.2.18を参照し、

家庭裁判所から選任された成年後見人の後見の事務は公的性格を有するものであって、成年被後見人のためにその財産を誠実に管理すべき法律上の義務を負っているのであるから、成年後見人が業務上占有する成年被後見人所有の財物を横領した場合、成年後見人と成年被後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があっても、同条項を準用して刑法上の処罰を免除することができない…

と述べて親族相盗例を否定しています(最決H24.10.9)。そりゃまあ当然ですね。しかも、これら2つの事例はどちらも親や祖父母といった尊属の財産を子や孫といった卑属が使ってしまうのではなく、卑属の財産を尊属が使ってしまうパターンなのですよ。それがまた、これらの事例が卑劣で受け入れ難いものに感じられる原因になっている気がします。

 

こういう感じで、親族が他の親族の財産に手を付けてしまうということはよくあることのようです。だから未成年後見人はともかくとして成年後見人は専門職が選任されることが多かったのですけど、残念なことに弁護士や司法書士のような法律の知識があって高い職業倫理を持っていると考えられる人たちが選任された場合でさえ、被後見人の財産を横領してしまう事件が後を絶たないようなのです。使いにくい仕組みだと言われている成年後見制度をわざわざ使うのは、おそらくよっぽど財産が多くて、法的に厳格に管理したいというニーズがあるからでしょうね。しかし、いくら弁護士や司法書士といえども、多額の財産を目の前にしたら、ついつい魔が差してしまう…ということも充分考えられます。後見人を複数にするとか、後見監督人を付けるとか、裁判所の関与を年に1回の報告書提出だけでなくもっと増やすとかの対策も考えられますけど、そうすると今以上に面倒で使いにくいとか言われそう。難しい問題ですね^^;

 

自分は司法書士になったら成年後見の仕事もしたいなと思っていますが、基本中の基本として自分のお金と他人のお金は厳密に区別しておこうと思います。まずは李下に冠を正さず、瓜田に履を納れず、ですね^^;