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民法177条の第三者(1)

民法177条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

というわけで、みんな大好き背信的悪意者の時間ですよ~^^

不動産に関する物権変動は、司法書士試験の中でも頻出論点ですよね。特に177条は、第三者に対抗できるかどうかが正面からズバリと聞かれることもあるし、他の論点の中に潜んでいて急に姿を現すこともあるし、不動産の権利変動があればどこでも意識しなければならない条文なのです。もっとも試験問題としては、背信的悪意者、取消しと解除、相続、取得時効なんかが多いように思います。それぞれ複雑な問題があるのですよね。そこで、個人的に気になる事柄をまとめておきたいと思います。

 

最初に挙げた民法177条がどういう場面で問題になるかといえば、不動産(面倒なので以下では単に土地といいます)が二重に譲渡されたというのが典型的ですね。つまり、Aが所有している土地をBに売り、その後同じ土地をさらにCにも売った、という状況です。この場合、Bから見たC、Cから見たBは互いに177条の「第三者」に当たります。この「第三者」は、「当事者もしくはその包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張する正当の利益を有する者」(大連判M41.12.15)という意味でしたね。登記の欠缺というのは、つまり登記の不存在、登記をしてないということです。正当の利益は、自分の権利を主張できるということですよね。たとえばBは、Cは登記をしていないからCに所有権があるとは認められないと主張できれば、自分が所有権を取得できる可能性が出てきます。だからBはCから見て、登記の欠缺を主張する正当の利益を有しており、177条の第三者に当たります。この意味の第三者に対しては、登記がなければ対抗できません。BもCも登記がなければ互いに自己の所有権を主張できないのです。で、実際どちらが優先するのかというと、それは登記の先後によって決まります。先に登記をした方が勝つ、ということですね。

 

●二重譲渡

しかし、前にも同じ疑問を書いた気がしますが、上記のような二重譲渡の取り扱いってよくよく考えると変ですよね。AからBに所有権が移転したら、Aは無権利者になります。すると、その後にCがAから土地を買ったと言っても、それは無権利者との取引であって何らかの権利が移転するわけではなく、結局Cも無権利となるはずです。仮にCが先に登記を得たとしても、それは真実の権利関係とは合致していないのだから、Bは登記の抹消を要求できなければいけません。それなのに、なぜBとCの対抗関係という話になるのでしょうか。

ポイントになるのは、177条の一つ前に置かれている176条です。

民法176条 物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。

というわけで、日本の民法は意思主義を採用しているのですね。AとBが土地を売買したとすると、その意思表示だけでAからBへ所有権が移転します。これはフランス的なやり方で、ドイツでは意思表示だけでなく登記がなければ物権変動が生じないことになっているそうですよ(形式主義)。で、日本では意思表示だけで物権変動が生ずる(176条)けど、それでは第三者を害する恐れがあるから一定の制限を加える(177条)、という仕組みになっていることが分かります。

当事者の合意だけで所有権が移転するのは、私的自治の原則にも合っている感じがしますし、登記のための時間や費用などの負担がないといったメリットがあります。その一方で、AがBに土地を売った後、Cとも売買をしたとすると、Cから見てAは本当に土地の権利を持っているのか分からない、というデメリットもあるのです。つまり意思主義では、利便性を高める代わりに取引の安全をちょっとだけ犠牲にしたとも言えそうですね。そこで177条によって形式的に安全を確保できるようにしたのですが…二重譲渡の関係をどう考えるかについては、いろいろな学説があるのです。それらを簡単に見ておきましょう。

①不確定物権変動説

177条の規定により、物権変動は登記してはじめて効力が完全なものになり、登記がなければ不完全な効力しかない、という考え方です。AB間の譲渡は登記がなければ不完全であり、Aは完全な無権利者というわけではないから、後のCへの譲渡も可能になる、のだそうです。一番よく聞く説明ではないでしょうか。しかしこの説に対しては、Bに譲渡した後のAの権利が何なのか明らかではないとの批判があります。通常の所有権なら一物一権主義に反するし、そうでないなら物権法定主義に反します。また、登記がなければ完全な効力がないとすると意思主義にも反します。

②第三者主張説

登記がなくても物権変動の効力は生ずるが、第三者が一定の事実(登記の不存在、自分が土地を買ったこと、など)を主張すると、その第三者との関係では効力がなかったことになり、その結果第三者の物権取得が可能になる、という考え方です。AがBとCに二重譲渡したら、Cが一定の事実を主張するまではAB間の物権変動は有効でAC間の物権変動は無効ということですかね。でもこれだと、CがAB間の取引の事実を知らない場合は永遠に所有権を獲得できないでしょうね^^;

公信力

素直に考えれば、AがBに土地を譲渡したら、Bが所有者になり、Aは無権利者になります。そしてCは無権利者から土地を買ったのだから無権利者です。しかし、これでCがまったく保護されないとすると取引の安全が著しく害されます。そこで、CがAの登記を真実に合致すると無過失で信じていた場合は、登記への信頼の保護のために、177条によりCが所有権を取得する、と考えます。BはAから譲渡されたらすぐ登記できたはずなのにしなかった、つまり真の権利者に登記懈怠の非難可能性があるから、無過失で登記を信じた第三者Cを保護するというわけです。要するに登記に公信力を認めるという意味ですけど、日本の不動産登記制度に真正面から矛盾してしまいます。

④規範構造説

土地が二重譲渡されると出現する両立できない権利関係については、権利の帰属や状態という物権変動の結果ではなく、そもそもその物権変動を引き起こした原因の方に着目するという考え方です。つまり原因の優劣によって優先順位を決めるのですね。たとえば176条によれば意思表示は物権変動の原因であり、AB間で売買があるとAは無権利者となるから、その後に売買したCも無権利で、CはBに劣後する、ということになります。でもこれだけでは取引の安全を害するので、177条により原因の競合が生じた場合は登記の先後で優劣を決めるというルールを定めたのです。でも改めて177条を見直すと「物権の得喪及び変更」と言っており、結果に着目しているようですよね^^;

⑤登記法定証拠説

物権変動の優先順位は時間的な先後で決まるが、177条は裁判所がその前後関係を認定するときに登記が証拠になると定めた、という考え方です。BもCも登記を得てないとすると、先に譲渡されたBがCに優先することになりますが、二重譲渡ではCはBから見て177条の第三者に当たるとの判例に反してしまいます。

⑥法定制度説

177条が存在するということは、民法がCの権利取得を認めていることは明らか、以上終わり!という考え方です。思考の放棄と批判されているそうです笑

どの学説も一長一短というか、理屈の上であちらを立てればこちらが立たず、ということになっています。スッキリと説明することは不可能なんでしょうね。道理で自分のような素人がいくら考えても混乱するばかりなわけだ^^;

それはともかく、実社会では上の方に書いたように処理されて、試験問題もそれを前提とした内容になっています。以前は学説問題も時折あったそうですが最近は少なく、たとえば「登記の公信力を認めるA説と認めないB説で、A説に当てはまるものは次のうちどれか」みたいな問題は多分出ないのだろうと思います。このあたりの話って考えれば考えるほど面白いのですけど、まあ試験が終わってからゆっくりやればいいかなって感じですよね^^; あ、実社会では二重譲渡は横領に当たります。民法上二重譲渡が認められるのは、自由競争社会なのだからこの程度のことはあり得るとの考え方が背景にあるからですが、犯罪になってしまうのでは割に合わない感じですね。でもそのへんはまた別の機会に考えてみましょう。

 

予想以上に長くなって背信的悪意者に辿り着かなかった^^; ということで次回へ続く。