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組織再編の債権者保護手続(1)

会社法商業登記法の組織再編のところって皆さん得意ですか? 企業グループ全体を巻き込むような大規模な合従連衡はニュースとして見ている分にはダイナミックで面白いものですが、その中で法的な手続きをしている人たちは大変でしょうねぇ…^^; というか、自分の勤める会社が合併や会社分割の当事者になったという経験は自分はないのですけど、職場の雰囲気とか雇用契約関係なんかどうなるんですかね。そういえばバブルが弾けて何年か経って金融機関の再編が進んでいた時期に、「救済合併」といって強い銀行が弱い銀行の破綻を防ぐために合併するってことがよくありました。そういうとき、救済される側の銀行の悲哀というか、救済される側銀行出身の行員の救済する側銀行での立場の不安定さというか、バブル期には文字通り我が世の春を謳歌していたはずの人たちが、数年後にはリストラ要員に転落してしまった現実には、この世はやっぱり諸行無常であるなぁ…と思わされたものですよ。

それはともかく、その頃の組織再編というのは合併しかなかったのですよね。それが平成11年に株式交換と株式移転、平成12年に会社分割が導入され、組織再編の手法は一気にバリエーションが増えました。合併は被合併会社の権利義務をまるっと全部引き継ぐもの(一般承継)なので、被合併会社が秘密裡に抱える簿外債務なんかを取り込んでしまうリスクがあるのです。その点、株式交換や株式移転であれば完全親会社側の安全性が確保できるため、広く行われるようになったのですね。また、会社分割は事業譲渡と同じく会社の事業(の一部)を他の会社に移すことですが、事業譲渡と違って債務を移すのに個々の債権者の承諾を得る必要はなく、事業の買収や業務提携を会社主導で推進できます。バブル崩壊後の企業再編を制度面から後押ししようとしてたんでしょうかね。そして令和3年には、株式交換のような完全親会社・完全子会社の関係にならなくてもいいけど親会社・子会社の関係は作りたいとのニーズに対応する株式交付という制度もスタートしました。そんなわけで現在の組織再編は、単純に強い会社が弱い会社を飲み込んでしまうみたいな話ではなく、いろんな関係性を作り上げることができます。これらを外野から見ているだけなら楽しいのですが…しかし試験に出題されるとなると覚えるべきことが増えているわけで、受験生にとっては負担になるのですよね^^;

 

組織再編の中で、必要か不要かがバラバラで分かりにくいのが債権者保護手続ですかね。いつも常に必要というわけではないけど、必要な場合にやってないと組織再編自体が無効になってしまいます。特に、会社分割に関しては他のタイプの組織再編には見られない要件があったりしますよね。そこでタイプごとに、債権者保護手続をまとめておきたいと思います。

 

●合併

合併は、いくつかの会社が一つの会社に統合されるタイプの組織再編です。既存の会社が存続し、そこに別の会社が一体化する吸収合併と、いくつかの会社が新しく会社を設立し、そこにそれらいくつかの会社が一体化する新設合併とがあります。で、吸収合併にしても新設合併にしても、一体化される側の会社は消滅します。そして消滅会社が持っていた権利や義務が、そっくりそのまま存続会社・新設会社に受け継がれる(一般承継)ところが、合併の特徴と言えるでしょう。会社同士の相続みたいなもん、と考えることができますね。ただし、相続は相続が開始してから相続人とされた人が相続を承認したり放棄したりしますが、合併の場合は事前にどうするか考えることができるところが違っています。債権者保護手続がまさにそういう機会なわけですよね。

それで、合併といえば吸収合併が大多数で、新設合併はあまり利用されていないというのが現実なのだそうですよ。その理由は、新設合併の方がコストがかかるから。消滅会社から承継会社にまるっと全部の権利義務が移転するのだから、たとえば不動産の所有権や抵当権・根抵当権について移転登記や変更登記が必要になります。このとき、吸収合併では存続会社側は権利義務が移転するわけではないから何もしなくて良いのですが、新設合併の場合は消滅会社の権利義務すべてについて手続をしなければいけません。登記の費用だけでもバカになりませんよね。ということで、新設合併よりも吸収合併の方が盛んに行われているのでした。

 

ここから本題の債権者保護手続の話です笑 合併の場合、相手方の財務状況が劣悪だと債権者を害します。そこで、存続会社の債権者も、消滅会社の債権者も、異議を述べることができます。一方、新設合併の新設会社は合併前には存在せず(設立されていないからです)、債権者もいないので、債権者保護手続は不要です。

 

株式交換・株式移転

株式交換は、株式交換完全子会社となる会社の株主が株式を株式交換完全親会社となる会社に移転し、その対価として株式交換完全親会社の株式その他の財産を受け取る、という再編手法です。株式移転は、完全親会社となる会社を新設して、そこに完全子会社の株主の株式をすべて移転させます。こういうとまるで完全子会社側の株主が移転するかどうかの主導権を握っているかのような感じがしますが、実際にはM&Aの一類型として、株式交換完全親会社が株式交換完全子会社の株主をキャッシュアウトする手段として使われるそうです。最近の有名企業の例では、ヤマダホールディングスと大塚家具がヤマダ側を完全親会社とする株式交換を実施していますね。

 

上にも書いた通り、株式交換は完全親会社が自社の株式を発行して、それを対価として子会社の株式を取得します。これって、資産が増えて債務は変わりませんね。また、完全子会社は株主の構成が変わるだけで資産に変動はありません。だから債権者目線では、この場合は影響を受けないのですね。影響がないから債権者保護手続も必要ない、ということになります。

それでまず、株式交換完全親会社は、株式交換対価として完全親会社の株式またはそれに準ずるもの以外のものを交付する場合に債権者保護手続が必要になります。「それに準ずるもの」というのは、交付する株式数の調整をする範囲内で金銭を交付するようなことが想定されているようです。つまり「株式またはそれに準ずるもの」とは、要するに株式ですね。そして「以外」は株式以外ということです。つまり全体としては、株式ではない金銭や社債などを交付するときは、債権者保護手続をしなければいけない、という意味になります。これは、交付する財産が多すぎると親会社にダメージがあるからです。

もう一つ、完全親会社が完全子会社の発行する新株予約権社債を承継する場合、完全親会社の債権者は異議を述べることができます。おっと、その前に、株式交換では子会社の株式をすべて取得するのと同時に、子会社の新株予約権も取得できます。株式交換は完全親子会社の関係を作ることが目的であるところ、完全子会社の新株予約権が残存して後になってから完全親会社以外の株主が新しく出てくるのは不都合だからです。そして、新株予約権社債がセットになった新株予約権社債は、新株予約権社債とを別々に処分することはできないのでした。そこで、新株予約権社債新株予約権を完全親会社が取得するには、社債の部分も一緒に取得することになるのですね。で、親会社が新株予約権社債を取得すると、それだけ債務が増えることになります。これは債権者からすると無視できない話なので、債権者保護手続が要求されるわけなのです。

株式交換・株式移転完全子会社側では、完全親会社が完全子会社の新株予約権社債を承継する場合に債権者保護手続が必要になります。これは、社債権者から見ると完全親会社が免責的債務引受をしたようなものだからですね。

 

株式移転完全親会社は新設会社なので、債権者はいません。なので債権者保護手続も不要です。

 

●株式交付

令和元年改正で登場し、令和3年から施行となった新しい組織再編の手段です。これは子会社となる会社の株主や新株予約権者が株式や新株予約権を親会社となる会社に譲渡し、その対価として子会社となる会社の株主に親会社となる会社の株式を交付して親会社子会社の関係を作り出すものです。つまり、親会社となる会社と、子会社となる会社の株主が当事者となるのです。しかし、子会社自体は手続きに関わらないところが他の組織再編と大きく違うところ。子会社の立場としては株主構成が変化するだけで手続きに関係しないのだから、子会社の債権者にも影響はありません。したがって、株式交付子会社の債権者保護手続は不要です。試験で株式交付が出題されたら、ちょっと楽でいいですね笑

 

株式交付親会社の方は、対価として支払う財産が親会社の株式またはそれに準ずるもの以外のときは債権者保護手続が必要です。これは株式交換と同じですね。つまり現金が出ていくのは即ち資産の流出だし、社債を発行するのは債務が増えるのと同じで、債権者にとって好ましくないということです。

 

なんかまた長くなってきたので、会社分割は次回で^^;