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組織再編の債権者保護手続(2)

会社法にしても商業登記法にしても、組織再編がテーマの問題は結構出題されています。そして記述式では、いろいろな論点の中に合併や株式交換が紛れ込んでいる、という問題になっています。結構複雑だったりしますよね。昔は合併や会社分割が単一のテーマとして出題されたこともあったらしいですよ。でもそれはそれで、重箱の隅を突きまくるような問題になりそうでイヤだなぁ…と思ったりもします^^;

 

●会社分割

会社分割とは、分割する会社(分割会社)の事業についての権利義務の全部または一部を、他の会社に承継させる(吸収分割)、または新しく設立した会社に承継させる(新設分割)ことです。合併と違って、会社分割後も分割会社が存続します。

 

さて、A社を分割会社、B社を承継会社とする吸収分割が行われて、A社の債権者Xの債権がB社に承継されることになったとします。A社の債務がB社へ移転することについて特に何の条件もなければ、Xとしては自分の債権の債務者がA社からB社へ変わることになりますよね。つまり、Xから見ると免責的債務引受があったのと同じです。そして民法上は、元の債務者と引受人の合意で免責的債務引受をするときは債権者の承諾が必要になるのでした。上の例で言えば、元の債務者A社と引受人B社の合意でB社が免責的に債務を引き受けるのだから、債権者Xの承諾がなければ有効にならないはずです。ところが、会社分割ではXの承諾がなくてもA社からB社へ債務が移転してしまうのですよ。いちいち個々の債権者の同意を必要とせず、当事者の合意でできるところが、会社分割の最大の特長なのです。こうすることで、会社同士の再編をやりやすくしているのですね。そして債権者がまったく口を出せないのでは問題があるので、個別の同意の代わりに債権者保護手続が求められる、というわけです。

しかし、会社が分割しやすい仕組みになっているということは、それを悪用する輩も出てきやすいということでもあります。実際、業績の悪化した会社が立ち行かなくなった事業だけを分割(逆に、見込みのある事業だけを分割)して、従来の債権者が業績の悪化した側に取り残されるといった事態が多発したそうです(詐害的分割)。それで、会社分割の場合は特に債権者の保護に配慮すべきと考えられるようになって、他の組織再編では見られないルールが規定されているのですね。

 

それではまず、分割会社A社と承継会社B社のうち、A社の債権者Xについて考えてみます。A社からB社へ移転した権利義務の中に、Xの債権が含まれていたとします。これをXから見ると、債務者がA社からB社へ変わるのであり、免責的債務引受があったのと同じことになりますね。この場合、上に書いた通り本来はXの承諾が必要ですが、会社分割では個別の承諾の代わりに債権者保護手続をすれば良いとされています。債権者が何人もいたら、本当ならそれら全員に連絡を取って承諾を得なければいけないところ、債権者保護手続ならまとめて進められるので、会社にとってはかなりの負担軽減になるわけなのですね。ということで、この例のXのような分割会社に対して債務の履行を請求できなくなる債権者は、異議を述べることができます。

一方、A社にはもう一人、Yという債権者がいたとしましょう。しかしこのYの債権は、今回の会社分割で承継会社に移転する権利義務の中に含まれていませんでした。するとYは、自分の債権の相手方は会社分割の前も後も分割会社A社であり、分割後も分割会社に債務の履行を請求できます。つまり、Yの債権には何の変化もないのですね。となれば、Yには異議を述べる機会を与える機会は特に必要ないわけです。

なお、Xの債務を承継会社が重畳的に引き受ける場合は、Xから見ると分割後は承継会社に債務の履行を請求できるのはもちろん、分割会社にも請求できます。従って、この場合はXも異議を述べることができません。こういう事例を使った問題が実際に出題されてますね^^;

 

次に、会社法になる前の旧商法時代に人的分割と呼ばれていた制度を見てみます。会社分割によって分割会社A社から承継会社B社に権利義務が移転すると、その代わりにB社からA社に分割対価が交付されます。この分割対価は、旧商法時代は原則として株式のみだったそうですが、現行の会社法における対価は基本的に何でも良く、新設分割では設立会社の株式のほかは社債新株予約権新株予約権社債、吸収分割ではそれらに加えて金銭となっていますね。で、旧商法時代の会社分割では、対価を分割会社が受け取る物的分割と、株式の全部または一部を分割会社の株主が直接受け取る人的分割という2種類のやり方が存在していました。ところが現行会社法では現物配当がOKになったので(旧商法時代の配当は金銭でなければならないと解されていました)、「株式を対価とする物的分割」と「分割会社が受け取った株式の株主への配当」を同時に行えば、実質的に以前の人的分割と同じことになります。そこで現行会社法では対価は分割会社だけが受け取るものとして物的分割に一本化し、人的分割を廃止したのでした。しかしA社としては、吸収分割契約または新設分割計画の定めによって、A社が受け取ったB社の株式を、会社分割の効力発生と同時に剰余金の配当または全部取得条項付種類株式の取得対価として株主に直接交付することができます。この場合は債権者保護手続が要求される代わりに分配可能額の規制は受けないことになっていて、旧商法時代の人的分割が存続しているというわけなのですね。

要するに、人的分割をするときは債権者保護手続をしなければいけません。A社が受け取った財産であるB社の株式が、剰余金の配当または全部取得条項付種類株式の取得対価として株主へ交付されるのは、A社の債権者から見れば会社の財産が流出しているということだからです。そこで、A社の債権者は分割後もA社に対して債務の履行を請求できるとしても、異議を述べることができます。まとめると、人的分割を行う場合は分割会社の債権者について債権者保護手続が必要になります。

 

一方の承継会社B社はどうなるのかというと、B社が吸収分割をするときの吸収分割承継会社の場合、B社の債権者は必ず異議を述べることができます。B社はA社の権利義務を承継するということは、A社から財産を引き継ぎますが同時に負債も受け取るわけです。これはB社の債権者にとって看過できないことなのですよね。つまり、承継会社の債権者については常に債権者保護手続が必要です。

新設分割をする場合は、設立会社は会社分割による設立登記をしたときに成立します。したがってそれ以前には債権者なんて存在しません。そこで新設分割の設立会社での債権者保護手続は不要です。

 

以上をまとめると、

▼分割会社

会社分割の後、分割会社に対して請求できる債権者→不要

それ以外の債権者→必要

人的分割をする場合→必要

 

▼承継会社

常に必要(ただし新設分割では不要

あらま。長々と書いてきた割には簡単にまとまってしまいました笑

 

というわけで、今年の試験でも組織再編について何かしら問われるのでしょうから、しっかり対策をしておきたいところです。でも、いろいろとややこしいんですよねぇ…。単純に頭が慣れてないからややこしく感じるだけなのかもしれませんけど。だから対策としては単純ですが、繰り返し問題を解いて驚かないようにするのがいいかもですね笑