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不正の行為があったのに…?

という疑問を、誰でも一度は抱くのではないでしょうか。そう、それは「権利義務者の解任」についてです。権利義務者が不正を働いても、解任することはできません。解任の訴えを起こすこともできないのです。このことは、司法書士試験の会社法で出題されてます。

株主は、退任後もなお役員としての権利義務を有する者については、その者が職務の執行に関し不正の行為をした場合であっても解任の訴えを提起することはできない。(平成22年 問34-ウ)

答えは○。解任も辞任もできません。商業登記法の記述式の方でも、権利義務者にはさんざん悩まされてますよね笑

 

“権利義務者”というのは、株式会社の役員が任期満了または辞任により退任した後も、役員としての権利を持ち、義務を負う人のことです。法令や定款で役員の人数が決まっている場合に、ある役員が任期満了あるいは辞任により退任したとします。そのときすぐに後任や補欠の役員が就任すれば問題ないのですが、それがないまま辞められると、法令や定款で定めた員数に欠ける事態に陥ります。そんなとき、その辞めた役員が権利義務者になるのです(会社法346条1項)。

たとえば、ある取締役会設置会社に取締役A、取締役B、取締役Cの3人がいるとします。取締役会設置会社は取締役が3人以上いなければいけませんが(331条5項)、この会社はそれを満たしていますね。ところがあるとき突然、取締役Aが辞任すると言い出したらどうなるでしょう? 会社と取締役の関係は委任とされている(330条)ので、取締役が辞めたいと言えばいつでも辞められるのが基本です(民法651条1項)。しかし、この会社は取締役会設置会社。後任も補欠もなくAが辞めると、取締役がBとCの2人しかいなくなって法律で定められた員数に欠けてしまいます。これでは会社の機関が機能しなくなって困りますね。そこで、辞任(または任期満了)で退任した取締役に、辞任後も取締役としての権利義務を果たしてもらうことになっているのです(346条1項)。この事例のAのように辞めてからも権利義務を持っている人のことを「権利義務者」といいます。この会社は権利義務取締役Aと、退任していない通常の取締役BとCとを合わせて法定の員数(3人以上)を満たしていることになるわけですね。

それで、権利義務取締役Aには実際どんな権限があるのかというと、これは普通の取締役と変わりません。取締役としての権利を持ち義務を負う、とされているのですからね。なのでAは辞任前と同じように取締役会に出席できますし、代表取締役に選定されることもできますよ。ただし義務も負っているので、善管注意義務や忠実義務が課されたままですし、利益相反取引の規制も受けます。権利義務者になっていることに気付かず、辞めたつもりで会社と取引すると思わぬトラブルにつながる可能性がある、ということなのです^^;

 

では、権利義務取締役がこの状態を解消できるのは、というかAからすれば本当に辞められるのはいつなのでしょうか。それは、権利義務取締役がいなくても員数を満たせるようになったときです。つまり、後任の取締役が選任されたとか、裁判所で一時取締役(仮取締役)が選任されたとかした場合ですね。この会社でいえば、後任として取締役Dが選任されたとすると、B、C、Dの3人だけで法定の員数を満たした状態になります。こうなって初めてAは取締役の権利義務から解放されるのです。会社の役員って辞めてからもこういうことになる可能性があり、とても責任が重いものなんですね。

なお、上でちょこっと言いましたが、権利義務者になるのは任期満了か辞任で退任したときだけです。死亡、欠格、解任などで退任した場合は権利義務者になりません。亡くなってしまったらもうどうにもなりませんし、欠格事由に該当する人や解任された人に役員の仕事をさせるのは適切ではないからで、法令や定款で定めた員数に欠けることになったとしても退任させることができます。

 

ところで、会社は株主総会の決議によって、いつでも取締役を解任できます(339条1項)。解任することに理由は必要ありません。もっとも、本当に理由もなく解任すると、その取締役から損害賠償を請求されるでしょうけど(339条2項)、委任の関係ですし一応そういう解任も可能ということです。さらに、一定の要件を満たす株主は一定の場合に取締役の解任の訴えを提起できます(854条)。株主代表訴訟と言われているものです。

それでは、権利義務取締役が不正の行為をしたらどうなるのでしょう? 取締役と同じ権利義務を持つ者が不正を働いたのだから、自ら身を引かない場合は訴えるしかない!訴えることができて然るべき!と思えますよね。しかし冒頭で見た通り、この訴えはできないのです。ちょっと不思議じゃないですか?

 

ここで、解任の訴えができることの根拠である854条を見てみましょう。

会社法854条 役員(第329条第1項に規定する役員をいう。以下この節において同じ。)の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたとき又は当該役員を解任する旨の株主総会の決議が第323条の規定によりその効力を生じないときは、次に掲げる株主は、当該株主総会の日から30日以内に、訴えをもって当該役員の解任を請求することができる。(以下略)

「329条1項に規定する役員」というのは取締役、監査役、会計参与のことです。また「次に掲げる株主」は、総株主の議決権の100分の3とか6ヶ月とかいうヤツですね^^; てことで、条文を読むと何となく権利義務取締役を解任できると読めそうな気もしてきます。それに、取締役として不適任な人物を(権利義務者とはいえ)取締役のままにしておくなんて、どう考えてもおかしいと思うのですが…。

 

冒頭の問題は実は司法書士試験の会社法では珍しい判例問題で、最判H20.2.26が元になっています。同族経営をしている会社で権利義務取締役と株主とがちょうど半分ずつの株式を保有するという膠着状態に陥り、株主総会で取締役を選任できなくなってしまった、というのが事の発端のようです。それで上記の判決では、

①854条で規定する役員等(つまり329条で規定する役員等)の中に権利義務者は含まれていない

②権利義務取締役が不正の行為をした場合、裁判所が必要と認めるときは、利害関係人の申立てによって一時取締役を選任できる(346条2項)。そして346条1項によれば、権利義務取締役は新たに選任された取締役(一時取締役を含む)が就任するまでその権利義務を有すると定められており、利害関係人が一時取締役の選任を申し立てることで権利義務取締役の地位を失わせることができるのだから、そういう手段をとればよい

という理由を挙げて、権利義務者に対して解任の訴えを起こすことはできないとしました。他にやめさせる方法が既にあるんだから、それをやればいいじゃん、ということでしょうかね。だから、権利義務取締役を解任できないなんておかしい!と思ってしまうのは、単にやめさせる方法を知らないからだ、ということになります。「ちゃんと勉強しろよ笑」と言われたみたいで悔しい気分になりますね笑

それはともかく、権利義務者を解任する制度というものをわざわざ作らなくても、今ある制度を利用すれば権利義務者をやめさせることができる、と最高裁は言うわけですが、このケースのような株式をちょうど同数ずつ持っている人たち同士で対立していると、実際の解決は相当に難しそうです。株主がごく少数しかいない小さい会社で、一時取締役に適任な人を見つけてくること自体がまず難しいですし、一時取締役の選任を申し立てたとしても裁判所が「必要と認める」とは限りません。さらに、一時取締役が就任して権利義務者が退任したとしても、このケースではその元取締役が株式を半分持っているので、結局膠着状態からは抜け出せないでしょう。こうなったらもう、株主と元取締役がそれぞれ別の会社を立ち上げて別の道を進む、という方法しかなさそうな気がしますね^^;

 

というわけで、いろいろ調べてみるとやっぱり微妙な気分になる権利義務者のお話でした。これも試験対策的には結論を覚えておけば充分なんですけどね。記述式などではむしろ「権利義務になっている」という状態の方が重要なわけで。う〜ん微妙笑