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詐害行為取消権(1)

債権者代位権と並んで、債務者の責任財産保全の役割を果たしてくれるのが「詐害行為取消権」です。最初にテキストでこの名前を見たとき、字面がカッコイイと思いました笑 いかにも不正な行為を取り消して、正しいことをしてくれそうですもんね。まあ何が正しくて何が正しくないのかとか考え始めると、司法書士の試験とはまるで関係のない話になってしまいそうですけど^^;

 

債務者が債権者を害することを知りながら責任財産を減少させる行為をしたときなどに、債権者が詐害行為取消権を行使すると、債務者のその行為を取り消して財産を取り戻すことができます(民法424条)。たとえば、BがAからお金を借りていたところ、事業がうまくいかなくてAへの返済ができなくなったとしましょう。Bは土地を持っていて、それ以外に目ぼしい財産がないとします。するとAは、その土地から回収しようとするはずですよね。ところがここでBが「このまま強制執行されるくらいなら、世話になったCに土地をあげちゃおう」と考えてCに話を持ちかけ、Cも「他の債権者には悪いが、せっかくだからもらっておこう」と言って土地の登記を移した…みたいなことが実際あるそうですよ。こうなるとAは土地に強制執行できず、かといってBには他に財産はないのだから、結局取りっぱぐれて泣き寝入りせざるを得ません。こんなことが許されたのでは誰かに融資しようという人は現れなくなり、ひいては社会経済が回っていかなくなってしまうでしょう。

そこでこういう場合、Aは詐害行為取消権を行使し、Bの責任財産を回復するために、BからCへの土地の譲渡を取り消すことができるのです。土地がBに戻ってきたら、そこに強制執行をかけて債権回収に当たるというわけですね。で、こういった債務者による責任財産を減少させる行為を取り消すというのが元々の詐害行為取消権の目的だったわけですが、平成29年改正民法では、一部の債権者だけを利する行為(偏頗行為)や、債務者の財産を相当価格で処分するような行為も詐害行為取消権の対象とされました。破産法の仕組みを採り入れたものです。これについては後ほど改めて見てみたいと思います。

 

次に、詐害行為取消権の要件を確認しておきましょう。この要件は、受益者(債務者が財産を処分したときの直接の相手方)と転得者(受益者から財産を受け取った人)では少し違いがあります。これは、転得者は債務者と直接取引したわけではなく、受益者と転得者とでは責任の度合いが違うから、という理由によるものです。しかし、基本的なところは共通しているので、まずは受益者から見てますね。次に挙げる要件をすべて満たしたとき、債権者は受益者に対して詐害行為取消権を行使できます。

  1. 債権が存在していること
  2. その債権が、詐害行為前の原因に基づいて発生したこと
  3. 債権者が自己の債権を保全する必要があること(債務者の無資力)
  4. 債務者の行為が財産権を目的としていること
  5. その行為が債権者を害することを債務者が知っていたこと(詐害の意思)
  6. その行為が債権者を害することを受益者が知っていたこと(受益者の悪意)

結構数が多くて複雑に見えますよね。でもまあ、上に挙げたような具体例をイメージすれば、何となくどういう制度なのか掴める感じもします。で、これらの要件のうち①から⑤は、取消債権者の側が主張立証しなければいけません。個人的に、一番アレだなと思うのは要件⑤の詐害意思ですかね。債務者に詐害意思があったことを主張立証していくわけですが、でもそれって難しそうですよね? 内心どう思ってたかなんて、本当のところは本人にしか分からないのですし、いくらでも誤魔化せそう。まあ、債権者の追及もそんな甘いものではないのでしょうけど…てことで要件⑤の話は、後で詳しく見てみることにしましょう。なお要件⑥は「受益者の悪意」という形で覚えていることが多いと思いますが、実際には受益者側から自らの善意を主張立証することになっています。

 

主張立証という言葉が出てくることからも予想が付く通り、詐害行為取消権を行使するには裁判を起こさなければいけません(424条1項・424条の5)。債権者代位権が裁判外で行使できるのとは大きく違います。そして、詐害行為取消訴訟の被告は受益者と転得者で、債務者は含まれません(424条の7第1項)。これは債権者代位権を裁判上行使するときの被告が第三債務者であって債務者ではない(民事訴訟法115条1号・2号参照)のと同じです。

こうした詐害行為取消訴訟のやり方が確立したのは、実は判例によるのです。しかも、明治44年3月24日大審院連合部判決という、かなり古い判例なのですよ。これ以前の判例(大判M38.2.10)では債務者も被告にすべしとされていたから、この判決によって判例を変更したということです。で、債務者を被告にしなくてよい理由としては、

  1. 詐害行為取消権の「取消し」は法律上普通の意味での取消しではなく、訴訟の相手方との関係において法律行為が無効になり、訴訟に関与していない人には何の影響もない
  2. 債権者が受益者(と転得者)を訴えて、それらの者との法律行為を取り消して財産を取り戻した以上は、債務者の責任財産が回復し、債権者が回収することができるから、債務者を被告とする必要がない

と言っています。訴訟に関与しない人には取消しの効果が及ばず(①)、債権者としては債務者に財産が戻ってくれば充分だ(②)、ということなのですね。②はまあ分かるとして、①から②へのつながりが少し分かりにくい気がしますが、これは取消しの効果が債権者と受益者との間だけに及ぶことにしても充分に目的を果たせるのに、債務者にまで及ぶとすると債務者の財産権を侵害する度合いが強すぎる、と考えられたのでしょうかね。原則として財産権は絶対的なものであって、債権者が債務者の財産権に介入する詐害行為取消権(と債権者代位権)は、あくまでも例外的に、非常手段として法が認めたものなのだ…というような考えがベースにあるでしょうし。だから取消しの効果は債務者にまでは及ばなくて、原告である債権者と被告である受益者・転得者との間だけに留まるけれども、それでも債務者のものだった財産を取り戻して債権回収できるよ、それで問題ないよね、ということなのだろうな〜と理解しています。ホントにこういう理解でいいのかな? いやぁ難しいですね^^;

しかし実際には、取り戻した財産は債務者のものということを前提に執行手続が進みます。でも、そうすると債務者に取消しの効果が及ばないという話と矛盾してしまいますね。この点が批判されていたところ、平成29年改正民法では、

民法425条  詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する。

とされたのでした。そして債務者は被告にはならないけれど(424条の7第1項)、認容判決の効力は及ぶから(425条)、債務者に対する手続保障として訴訟告知をすることになったのですね(424条の7第2項)。いろいろと整合を取ったって感じなのでしょうか。この425条を題材にした問題は、すでに司法書士試験で出題されています。

債権者が受益者に対して詐害行為取消権を行使し、詐害行為を取り消す旨の認容判決が確定した場合であっても、債務者は、受益者に対して、当該詐害行為が取り消されたことを前提とする請求をすることはできない。(平成30年 問16−エ)

答えは×。認容判決の効力は債務者に及ぶのだから、債務者は受益者に対して、詐害行為が取り消されたことを前提とする請求ができます。それにしても、多肢択一問題の選択肢の一つになると、ずいぶんあっけない感じがしますね笑

 

詳しく見れば見るほど複雑で理解力が追いついていませんが、次回へ続く^^;