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詐害行為取消権(2)

さて、詐害行為取消権は債務者の責任財産を回復するためにある、という話を前回しました。逸失した財産を取り戻せれば、あとはそこから取り立てればよい、というのが元々の考え方です。でも、今の詐害行為取消権はそれだけが目的なのではなく、現実の社会の複雑な事情まで取り込んだ制度になっているのでした。それは、破産法の否認権の制度と平仄を合わせた、みたいに言われていますね。といっても、司法書士試験の出題科目に破産法はなく、自分は勉強したことはありません。なので平仄を合わせたと言われても今一つピンとくるわけではないのですが、債権法のテキストでは関連する部分が一通り解説されているので、それを読んで理解した範囲でまとめておこうと思います。主に、前回見た詐害行為取消権の要件⑤その行為が債権者を害することを債務者が知っていたことに関連することですね。

 

ところで、「破産法と平仄を合わせた」というのは、平成29年民法改正のときによく言われていたようなのですけど、実はそれ以前から、判例の積み重ねによって破産法に似た処理をしてきていたのでした。それが、平成29年の債権法大改正の折に民法の中に採り入れられたというわけなのです。で、破産法に似た処理をしていたのはどういう場合かというと、①特定の債権者を利する行為(偏頗行為)と、②債務者にとっての有用性、です。

上にも書いたように、詐害行為取消権は元々、債権者が個別的に強制執行をするための準備段階として、責任財産保全するために作られた制度です。現実には、一人の債務者に何人もの債権者がいるのは普通でしょうし、それら債権者間の公平や平等というものも重要です(これが実現されないと、ちゃんとした経済システムが成り立ちませんよね)が、詐害行為取消権はあくまでも強制執行に備えるものであり、債権者間の公平や平等は執行段階で実現すべきもの、と考えられていたのでした。しかし、仮に複数の債権者がいる債務者が経済的破綻の危機に陥ったとき、ある特定の債権者だけを利する行為(その債権者だけに弁済した、など)をして債権者間の平等性が崩れ、それが回復されることもないまま強制執行の手続が進んだとすると、債権者の間の利益状況は大変不平等なものになるはずです。そして、そういう状態にしてしまう債務者の行為は他の債権者に対する詐害性がある、と言えます。そこで、破産の手続に入る前の段階から①特定の債権者を利する行為(偏頗行為)を取り消すことで、その後の強制執行での平等性を高めているのです。つまり、債権者の個別的な準備というより、たくさんの債権者がいることが前提の集団的な処理を組み込んだわけですね。この、集団的な処理の仕方が、破産法の否認権とパラレルに作られているそうです。

次に、債務者といえども本来は自己の財産を自由に管理し、処分することができるはずです。債務者が経済的に立ち直るために自己の財産を処分するような場合(それによって新規の事業資金を調達する、など)は現実によくあることでしょう。しかし、財産処分によって得た資金を隠匿してしまう可能性もありますね。特に、債務者が正当な価格で第三者に処分したことや、担保として提供したことが、どういうときに詐害性があると言えるのかは判断が分かれそうです。そこで、それら②債務者にとっての有用性が問題となった場合に、どういう要件が揃えば取り消せるかを規定したのでした。

その結果、詐害行為取消権は単に債務者に詐害意思があって受益者が悪意であれば行使できる、というような単純なものではなくなり、いろいろな事情を総合的に考慮して行使されることになりました。要するに、複雑になった、と言えるでしょうか。司法書士の試験としては、判例が蓄積されない限り問題としては出しにくそうだなぁ…とか思ったりします。破産法の否認権のような使い方をする場合の要件を細かいところまで訊かれても、多分実務ではあまり関係なさそうな気もしますし^^; とはいえ試験範囲内ではあるのだし、まだまだ時間的余裕もあるので、詐害行為取消権の要件⑤その行為が債権者を害すると債務者が知っていたこと(詐害の意思)を詳しく見てみましょう。

 

要件⑤は、債務者が行為をしたこと(詐害行為)と、それが債権者を害することを知っていたこと(詐害の意思)が合わさったものです。この要件の基本は、債務者が積極的に財産を減らしてしまうこと(財産減少行為)ですね。客観的には、自分の持っている不動産や金銭を譲渡したり、債権を譲渡したりといった行為をすることによって、行為の前の財産の額より、行為の後の財産の額の方が少なくなっていることが必要です。また、財産の額が減っていないように見えても、債務を免除したり時効の更新事由として債務を承認したりすることは結果的に債権者の共同担保である責任財産を減少させることになるので、詐害行為になり得ます。

客観的要件である財産の減少が詐害行為と評価されるのは、詐害の意思という主観的要件を満たしたときです。債務者が債権者を害することを知って行為をする、ということですね。この場合、債務者は必ずしも積極的に債権者を侵害する意図があったということまでは必要なく、債権者を害することを認識していれば充分なのだそうですよ。

…といったような感じで、財産減少行為は客観的要件+主観的要件が揃っているというのが基本形です。そして、偏頗行為の場合と債務者についての有用性が問題になる場合は、それぞれ要件が加重されるという仕組みになっているのです。ここでは条文の順番通りに、債務者にとっての有用性を先に見てみることにしましょう。

 

債務者にとっての有用性が問題になるのはどういうときかというと、財産を相当価格で処分する場合(相当価格処分行為)や、新たな借り入れとともに担保の設定をする場合(同時交換的行為)です。これらの行為は、原則として詐害行為には当たりません。なぜなら、これらの行為を詐害行為としてしまうと債務者の資金調達が極めて困難になり、債務者の経済的再建の方法を著しく限定することになるからです。また破産法では、これらの行為は否認権の対象とされていません。それなのに詐害行為取消権が認められるとすると、破産前は取消債権者がガンガン取り消せるのに、破産後は破産管財人が手を出せない、という逆転現象が起こってしまうのです。そこで、これらの行為は詐害行為にはならないとされたのでした。

しかしこれらの行為も、詐害行為となる余地がまったくないわけではありません。一定の要件を満たす行為は、詐害の意思があったと考えても不自然ではないと考えられているのです。その一定の要件(424条の2)とは、

  1. 債務者の行為が、財産の種類の変更により隠匿その他の債権者を害することとなる処分をする恐れを現に生じさせるものであること
  2. その行為の当時、債務者が隠匿等の処分の意思を有していたこと
  3. その行為の当時、受益者が債務者の隠匿等の処分の意思を知っていたこと

となっています。隠匿等の処分とは、対価を隠したり、他人に与えてしまったりすることです。そして、不動産を金銭に換価するようなときに、隠匿等の処分の恐れが生じます。たとえば「不動産を相当価格で売却して現金が手に入った」というのは、法律的には等価な交換と考えられていますよね。1,000万円相当の不動産を売却して1,000万円の現金が入ってきたら、財産は減っていないと評価されます。ところが現実はそんな単純ではありません。不動産は隠匿するのが難しい財産ですけど、現金は簡単に使ったり隠したりできるのです。つまり債権者から見ると、不動産よりも現金の方がなくなってしまう(隠匿される)リスクが高いと言えます。そういう隠匿等を生じやすい財産に変更されたとき、債務者の隠匿等処分意思と受益者の悪意があれば、債務者の行為は詐害行為となるというわけです。なお、同時交換的行為も、やっていることは相当価格処分行為と実質的に同じことなので、詐害行為となるかどうかは相当価格処分行為と同じように判断されます。

 

偏頗行為と過大な代物弁済等ついても一度に見てしまうつもりだったのですが、いろいろ書いてたら長くなってしまったので、次回へ続く^^;