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詐害行為取消権(4)

詐害行為取消権の問題でよく出てくるのが転得者ですね。受益者は債務者の詐害行為によって直接利益を得た人で、転得者は受益者以外で利益を得た人のことです。債務者Aが受益者Bに土地を譲渡し、さらにBが転得者Cに土地を転売した、みたいな形で出てきます。さらにさらに、Cが別の転得者Dに転売することもあり得ます。こういう場合、B→CやC→Dへの取引がどういうときに詐害行為とされるのか、債務者と受益者、債務者と転得者、転得者が複数いるときの関係がそれぞれどうなるのかを見ていきましょう。

 

転得者に詐害行為性が認められる要件は、大まかなところは受益者の場合と変わりません。ということで、受益者の要件を再確認しておきます。

  1. 債権が存在していること
  2. その債権が、詐害行為前の原因に基づいて発生したこと
  3. 債権者が自己の債権を保全する必要があること(債務者の無資力)
  4. 債務者の行為が財産権を目的としていること
  5. その行為が債権者を害することを債務者が知っていたこと(詐害の意思)
  6. その行為が債権者を害することを受益者が知っていたこと(受益者の悪意)

転得者は、これらに加えて転得者特有の要件があるのです。まず受益者から転得した転得者の場合は、

転得のときに、債務者の行為が債権者を害することを転得者が知っていたこと(転得者の悪意)

転得者が他の転得者から転得した場合(転得者が複数いる場合)は、

その転得者に至るまでの転得者全員のそれぞれの転得のときに、債務者の行為が債権者を害することを転得者全員が知っていたこと(転得者全員の悪意)

となっています。つまり転得者の悪意が必要となります(424条の5第1号・2号)。ただし、受益者の悪意は債権者が証明する必要はありませんが(受益者が自分の善意を主張立証する)、転得者の悪意の方は債権者が立証しなければいけません。これは、転得者は債務者と直接取引したわけではないので債務者の経済状況を知ることが受益者よりも難しく、受益者と転得者とは利害状況が異なることが理由です。そして、転得者と受益者がいる場合は転得者と受益者の両方が悪意でなければいけませんし、転得者が複数の場合は転倒者全員と受益者がみんな悪意でなければいけないのです。この中に善意の者がいたら、その善意者はもちろん、それ以降に登場した人たちにも取消請求できません(転得者がX→Y→Z→U→V→…と複数いて、Zが善意だった場合、XとYには詐害行為取消請求ができますが、Zとそれ以降に登場したU、V、…にはできない、ということです)。いったん善意者が出てきたらそれ以降はできないというのは民法のいろんなところで見られますね。これは取引の安全を確保するためです。それから、悪意の対象は「債務者の行為が債権者を害すること」です。受益者が悪意だったことや、ある転得者より前の転得者が悪意だったことを知っている必要はない、とされています。上の例でYに対して取消しを請求するには、「(Yより前の)Xが悪意だった」という事実は、別にYが知らなくてもよいわけですね。

それと、受益者の善意は受益者に立証責任があり、転得者の悪意は債権者に立証責任があると言いましたが、転得者だけを被告とする詐害行為取消訴訟であっても、受益者の善意は転得者が立証しなければいけません。受益者の善意は、詐害行為取消請求に対する抗弁事実ということなのですね。

 

ところで、詐害行為取消権は裁判上で行使するものであり、誰に確定判決の効力が及ぶのかが規定されてるのでした。前に見た425条をもう一度見ておきましょう。

民法425条  詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する。

ここで、債務者B→受益者C→転得者D→転得者Eと財産が移転していて、債権者Aが転得者Dだけを被告として詐害行為取消訴訟を起こしたとしましょう。さらに、BにはAの他にもG1、G2、G3、…などの債権者がいるとします。Aがめでたく勝訴し(認容する判決)、この判決が確定した場合に、効力が及ぶ人を見ていきましょう。

▼債権者Aと転得者D

この人たちは訴訟の当事者です(民事訴訟法115条1項)。だから判決の効力が及ぶのは当然ですね。

▼債務者B

認容判決が確定すると、債務者Bに効力が及びます(425条)。しかしAが敗訴してしまうと、Bには効力は及びません。債権者代位権と異なるところです。

▼A以外のBのすべての債権者

G1、G2、G3、…のことです(425条)。しかも、詐害行為の時点や判決が確定した時点よりも後に債権者になった者も含まれます。取り戻された財産は、すべての債権者のための共同担保になるわけですからね。また、Aよりも前に詐害行為取消訴訟を起こして負けた債権者や、詐害行為取消権を行使する要件を満たさなかった債権者がいたとしても、この中に含まれます。

一方で、効力が及ばない人もいます。

●受益者C・転得者E

この人たちは訴訟の直接の相手方ではありません。だから転得者Eに効力が及ばないのは分かるとしても、受益者Cにも及ばないのですねぇ。なのでこの訴訟で問題となった詐害行為に基づいて、CからBへ反対給付をしていたとしても、Cはその給付の返還や価額の返還を請求することはできないのです。一方で、CやEが債務者Bの債権者(つまりCやEはG1、G2、G3、…のうちの誰か、ということです)でもある場合は、425条の言う「すべての債権者」に含まれるので効力が及びます。

●転得者Dの債権者

転得者には転得者の債権者がいる場合も当然考えられます。でもその債権者には効力が及びません。なので、Bから逸失した財産がDのところにあるうちに、Dの債権者がその逸失財産を目的として強制執行をしてきたときは、これを排除することはできません。とにもかくにも、財産を差し押さえるのは早い方が良いってことでしょうかね^^;

なお、前から書いている通り、詐害行為取消権は債務者の財産から逸出したものを取り戻して原状回復するのが根本的な目的です。そこで逸出財産を回復する方法としては、現物を返還するのが原則となっています(424条の6第1項前段・2項前段)。つまり、債務者Bが唯一の財産である高価な時計を受益者Cに譲渡した場合、この譲渡を債権者Aが取り消したら、CからBにその時計を返還する、ということになりますね。しかし、現物を返還することができないこともあり得ます。Cがさらに転得者Dに時計を譲渡し、その後AがCを訴えてBからCへの譲渡を取り消した場合、時計は既にDの手に渡ってしまっていて、しかもC相手の訴訟ではDに判決の効果が及ばないので、もはや時計をBのもとへ取り戻すことはできません。こういうときは、現物の返還ではなく価額賠償をすること(要するにお金を払う)とされています(424条の6第1項後段・2項後段)。価額の算定の基準時は、事実審の口頭弁論終結時です。

 

425条で定められている通り、転得者に対してされた詐害行為取消しの効果は、その転得者と債務者に及びます。しかし、転得者の前の人(受益者や、転々と転得された場合は前の転得者)には及ばないのです。なのでこのときの転得者は、債務者に対して現物や価額を返還したとしても、受益者や前の転得者などに対して反対給付の返還を請求したり、有していた債権の回復を求めたりすることはできない…のですけど、ここまでで話が長くなったし、この先の話も長くなりそうなので、続きは次回^^;