目指せ!47歳からの司法書士受験!

法律初学者のおっちゃんが合格するまでやりますよー

詐害行為取消権(5)

さてここからは、詐害行為が取り消された場合に、各登場人物間の関係がどうなるのかを見ていきましょう。全体としては、逸失した財産が債務者のもとへ戻ってきたら、それはすべての債権者のための共同担保になり、民事執行法に従って強制執行の手続が行われることになるのですね。ただし、債務者も財産の処分権限を回復します。詐害行為の取消しが認められたからといって、債務者に何らかの制限がかかるわけではありません。だから不動産が戻ってきたら、債権者としては処分禁止の仮処分をしておくべきでしょう。

 

●取消債務者と債権者の関係

上に書いた通り、債権者は強制執行するか配当要求するかによって債権を回収します。ただ、取り戻す財産が金銭または動産の場合は、取消債権者は、受益者(または転得者)に対して自己に直接その財産を給付することを請求できます。つまり詐害行為取消権を行使した債権者は、受益者などに対し、取り戻すべき財産が金銭なら自分に支払え、動産なら自分に引き渡せ、と言えるのです。さらに重要なことに、給付された財産が金銭である場合は、債務者が取消債権者に対して有する受領金の返還請求権を受働債権、自己の債務者に対する被保全債権を自働債権として相殺することができるという、事実上の優先弁済が認められています。これは債権者代位権のところと同じですね。とはいえ、確定判決の効力は債務者にも及ぶのだから、債務者から受益者(または転得者)に対して財産を返還せよ、と言うこともできます。そして受益者などが債務者へ返還すると、それが金銭や動産であっても、取消債権者に支払う(引き渡す)義務は消滅してしまいます。特に金銭の場合、取消債権者からすると、事実上の優先弁済が受けられない事態となるわけですね。ここでも、素早く動くのが大事って感じです。

 

●債務者と受益者の関係

債務者Bの土地(1,000万円相当)を受益者Cに500万円で売却したところ、Bの債権者Aに詐害行為として取り消されたとします。するとCは土地を持っている理由がなくなるので、Bに返還することになりますね。では、この土地を買うためにCがBに支払った500万円はどうなるのかというと、次のような規定があります。

民法425条の2  債務者がした財産の処分に関する行為(債務の消滅に関する行為を除く。)が取り消されたときは、受益者は、債務者に対し、その財産を取得するためにした反対給付の返還を請求することができる。債務者がその反対給付の返還をすることが困難であるときは、受益者は、その価額の償還を請求することができる。

CはBの土地を取得するために500万円を支払っています。この500万円が「財産を取得するためにした反対給付」ですよね。なのでCはBに対し、500万円の返還を請求することができます。ただし、CのBに対する返還は、BのCに対する反対給付の返還よりも先履行とされていて、同時履行の関係にはありません。反対給付の返還をするのはBであって、詐害行為取消権を行使したAがBの財産の中から反対給付を返還する権限はないので、もしBが反対給付の返還に協力しないとすると、Cは取消しがされたにもかかわらずBが反対給付の500万円を返還をするまでは自分も土地を返還しないままでいることができ、しかもAにはこれといった対抗手段がなく不合理だからです。この場合、CはBに土地を返還して初めて、自分が支払った500万円の返還を請求できます。

それで、425条の2の条文の中に(債務の消滅に関する行為を除く。)というカッコ書きがありますね。債務の消滅に関する行為というのは弁済や代物弁済のことです。たとえば、受益者Cが債務者Bに対して有する500万円の金銭債権をBがCに対して弁済したところ、Bに対して700万円の債権を有する債権者AがBを被告として、BのCに対する弁済を詐害行為(特定の債権者を利する行為)として取り消した、というようなことです。この場合、CがAに対して500万円を支払うと、CのBに対する500万円の金銭債権が復活します。

民法425条の3  債務者がした債務の消滅に関する行為が取り消された場合(第424条の4の規定により取り消された場合を除く。)において、受益者が債務者から受けた給付を返還し、又はその価額を償還したときは、受益者の債務者に対する債権は、これによって原状に復する。

この規定がないと、Cはお金を返したのに自分の債権は消滅したまま、てことにもなりかねませんからね。

425条の3カッコ書きの424条の4は、過大な代物弁済のことです。過大な代物弁済が詐害行為として取り消されるときは、過大とされる部分だけが取り消されるのでしたよね(一部取消し)。しかし、その過大とされた部分を返還したとしても、代物弁済で消滅した債務に相当する額を償還したことにはならないので、こういう場合は受益者の債務者に対する債権は復活しないことになっているのでした。

 

●債務者と転得者の関係

債務者Bの財産が、債務者B→受益者C→転得者Dと移転していったとします。そして、Bの債権者Aが、債務者Bの行為を転得者Dとの関係で詐害行為として取り消した場合、Dはその詐害行為をベースに取得した財産またはその価額を、B(またはA)に返還することになりますね。ところが前回見たように、転得者に対して行使された詐害行為取消権の効力は、受益者Cには及びません。そのため、DがBまたはAに返還したとしても、Cに対する反対給付の返還請求や、Cに対して有していた債権の復活は認められないのです。これはちょっとDに酷と言えるでしょう。そこで、このDのような立場の人を保護する規定が設けられています。

民法425条の4  債務者がした行為が転得者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたときは、その転得者は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。ただし、その転得者がその前者から財産を取得するためにした反対給付又はその前者から財産を取得することによって消滅した債権の価額を限度とする。
① 第425条の2に規定する行為が取り消された場合
その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば同条の規定により生ずべき受益者の債務者に対する反対給付の返還請求権又はその価額の償還請求権
② 前条に規定する行為が取り消された場合(第424条の4の規定により取り消された場合を除く。)
その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば前条の規定により回復すべき受益者の債務者に対する債権

受益者の場合でいうところの425条の2(反対給付について)が転得者の425条の4第1号、受益者の425条の3(債務の消滅について)が転得者の425条の4第2号に相当するのですね。つまり、受益者が債務者に財産を返還したとすれば受益者が債務者に請求できた反対給付の返還や、認められたはずの債権の復活が可能になるということなのです。ただし1号も2号も、転得者がその財産を取得するためにした反対給付または消滅した債権の価額が限度となっています。

といっても分かりにくいので1号の方を具体的に考えてみましょう。債務者Bが有していた300万円相当の時計を受益者Cに対して200万円で売却し、さらにCが転得者Dに対して100万円で転売したところ、Bの債権者AがDを被告としてB→Cへの売却を取り消し、DがB(またはA)に時計を返還したとします。もし、この訴訟の被告がDではなくCで、Cに対して詐害行為取消権が行使されていたとしたら、Cは時計の代金(時計の反対給付)としてBに支払った200万円の返還を請求できたはずです。そこで、DはこのCのBに対する200万円の返還請求権を、D自らが支払った反対給付である100万円を限度として行使できる、というわけなのです。DがCの返還請求債権を代位行使するようなものですね。

 

ということで、平成29年の改正点を中心に5回にもわたって詐害行為取消権を大雑把に見てきました。なんかいろいろ見たような気がするんですけど、これでも本当に大雑把にザッと見たに過ぎないのですよ。詐害行為取消権って複雑で奥深いんですよねぇ。司法書士試験では、詐害行為取消権の改正論点がガッツリ出題されたことはまだないのですけど、近いうちに突っ込んだ問題が出てきてもおかしくない気はします。時間のあるうちに、債権法のテキストを読み直すのと、倒産法の本を少しでも読んでおくといいかもしれませんね^^;