目指せ!47歳からの司法書士受験!

法律初学者のおっちゃんが合格するまでやりますよー

多種多様な所有者不明土地

所有者不明土地というと、相続絡みで登記がどうなんだみたいな話がすぐ連想されますよね。所有者が分からなくなってしまうのは、やっぱり所有者とされている人が死んでしまったためであることが多いのでしょうし。それで、近いうちに実施される相続登記の義務化は相続登記をしないことが所有者不明土地ができる最大の要因みたいな文脈で語られることが多いのですが、実はそれ以外の原因によっても所有者が分からなくなった土地が出てきてしまうのです。でも、所有者が分からなくなったらそのまま放置というのでは国土の無駄遣いですし、何とかして有効活用できる方法を考え出さなければいけません。そういう事態に登記制度やそれに携わる人たちがどのように対処してきたかを、具体的な事例を挙げて紹介してくれるのがこの本です。

本のタイトルに“ストーリーで学ぶ”と書いてある通り、主人公の弁護士が行き詰まってしまった所有者不明土地の問題を解決していく痛快活劇です(^^) 所有者が不明になる話は司法書士試験でもたびたびネタにされており、移転登記をしないうちに売主が死亡したとか、相続人が不存在だったとかいうのが代表例ですね。この本も基本的に相続が関係する事案がいくつも発生し、それらを解決するうちにもっと大きなストーリーが進む…という流れになっています。

 

でも、出てくる事案というのがなかなかエグい話が多いのです。例えば処分禁止の仮登記に遅れる登記や、実質的意味を失った抵当権(休眠担保権)の抹消などは司法書士試験にも出題されますが、さらに仮登記の抹消という問題があることは初めて気付かされました^^; 所有権移転の仮登記をしたはいいけど本登記をしないまま何年も経過して当事者が亡くなっていた、みたいなケースです。言われてみれば確かにあり得ることですもんね。また、戦前戦中の地縁団体の名義で登記されているとか、所有者の名義が「誰々他何名」になっていて具体的に誰なのか分からないとか、相続が開始したのが家督制度を前提とする旧民法の時代だったとか、南樺太北方領土の人たちの戸籍とか、終戦前後で制度が大きく変わったことが現在にも関係してくる話がたくさん出てきます。入会地だった土地がだんだんそう認識されなくなって個人の土地みたいになってきた…というのは制度が変わったわけではないですが、時代の流れに飲み込まれたって感じですよね。さらに、大きな変化は何も終戦時だけでなく地震津波などの大災害が発生したときにも生じ、東日本大震災の復興事業で問題になったことがこの本でも取り上げられています。

 

登記の内容や登記制度についても深いところまで関係してくるので、主人公は弁護士ですが、司法書士もあちこちに登場します。たとえば民法改正の時の改正案が公開された時、買戻しについての内容にちょこっと誤植があったそうなのですが、譲渡担保が普及している中で買戻しは担保目的としてはあまり利用されていないためか、買戻しのところを注意深く読む人がいなくて誰も誤りに気付かなかったそうです。ところが、それに真っ先に気付いたのは司法書士会! というのも買戻しは担保目的としてよりも国有地や公有地を払い下げる時の条件を設定するために利用されることが多く、司法書士はそれを実務上熟知していたからなのですね。また、戦前に開始した相続は明治時代に制定された古い民法に従って相続の仕方が決まります。だから司法書士が昔に遡って相続登記をするには古い民法にも通じていなければいけないわけで、「旧民法司法書士にとっての現行法」などと書かれています。マジか^^; でも、戦前の登記がそのまま放置されているなんてことは、思っているよりもたくさんあるのでしょうね。

 

それにしても、人が死ぬことって本当に周囲に大きな影響を及ぼすものなんだなと改めて思いました。遺された人に強い悲しみと喪失感を与えるという感情面での影響はもちろんですが、不動産の権利関係のような法律面でも予想外に影響が広範囲に及ぶことがあるのですね。東日本大震災のように多くの人々が罹災して亡くなったとなると、社会的なダメージは計り知れないものがあります。司法書士になったら、そういう問題の解決に少しでも力になれたらいいですね。

ところでストーリー仕立てなので確かに本を読み進めると話が展開していくのですが、最後の結末というか話のディテールが明かされていない感じがして、今ひとつスッキリしません。法律の世界でずっと仕事をしている人は、こういう感じでもどういう状況か腑に落ちるのでしょうか? 続編ですべての謎を解説してほしいのですが…多分ないだろうな^^;