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詐害行為取消権(3)

まだまだ続く要件⑤その行為が債権者を害することを債務者が知っていたこと(詐害の意思)の話。今回は、特定の債権者を利する行為(偏頗行為)過大な代物弁済等について見てみたいと思います。これらは破産法に同様の仕組みがあって、それを民法に採り入れたのでした。それで偏頗行為というのは、たくさんの債権者がいる債務者が特定の債権者だけに弁済した、というときに問題となります。特定の債権者は自分の債権を満足させられるけど、弁済を受けられなかった他の債権者は自己の債権を回収できなくなるリスクが高まるので、そういう債務者の弁済を詐害行為として取り消したいというわけですね。偏頗行為には、このような弁済その他の債務消滅行為のほか、既存の債務のための担保提供行為もあります。過大な代物弁済等は、たとえば100万円の金銭債務のために、代物弁済として1,000万円相当の不動産を引き渡した、というような場合に詐害行為性を認めるものです。

 

まず弁済その他の債務消滅行為は、原則として詐害行為にならないとされています。「その他の」というものの中には、代物弁済、債務者がした相殺、更改が含まれます。たとえば特定の債権者に弁済した場合、確かに特定の債権者だけが債務者から現金等を得て、債務者の持っている現金等が減ることになりますが、一方で特定の債権者が有していた債権の分だけ負債も減ることになります。だからトータルすれば債務者のしたことは財産減少行為とはいえない、ということなのです。ただし、次の要件をすべて満たした場合、弁済その他の債務消滅行為が詐害行為とされます(424条の3第1項)

  1. その行為が、債務者が支払不能であったときにされたこと
  2. その行為が、債務者と受益者が通謀して他の債権者を害する意図で行われたこと(通謀的害意)

支払不能は、無資力とちょっと違う概念です。無資力は、債務の総額が財産の総額を上回ること(要するに債務超過)ですが、支払不能は債務者が支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものについて、一般的継続的に弁済することができないこと、なのです。支払能力には財産や信用、労務による収入が含まれており、債務者に財産があってもその換価ができなければ支払不能になるし、お金がまったくなくても信用や労務による収入による支払能力があれば支払不能にはなりません。

通謀的害意は、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を出し抜いてやろうと企むことでしょうけど、実際のところ通謀的害意はかなり厳しく狭く判断されているようですよ。たとえば最判S33.9.26では、受益者が債務者に対して弁済を強く要求し、債務者が他の債権者を害することを知りつつこの弁済をしたとしても、それだけでは通謀があったとは言えないとしています。この事例では受益者自身が資金繰りに困っていたことや、それによって強く要求したという事情があるし、債権者が債務者に弁済を求めるのは当然というのですね。さらに最判S52.7.12は、債権者の暴力的強請によって弁済した場合でも通謀的害意を認めませんでした。まあ債権者が暴力に訴えることと、債権者と債務者が通謀することは別問題といわれればそうかもしれませんが、何とも納得できない結論です^^; 一方、最判S46.11.19は、債務者がある特定の債権者に対してした弁済が詐害行為に当たるとしました。でもこの判例は、詐害行為の相手方たる受益者は、自己の債権に基づき按分額の分配を要求することなどできない、という内容で有名ですね。取消債権者の事実上の優先弁済権と複合されているのでした。

弁済その他の債務消滅行為が非義務的行為である場合(期日前の弁済など)は、次の要件をいずれも満たすと詐害行為となります(424条の3第2項)。

  1. その行為が、債務者が支払不能になる前30日以内にされたこと
  2. その行為が、債務者と受益者との通謀的害意をもってされたこと

 

偏頗行為のもう一つの類型は、既存の債務のための担保提供行為です。たとえば債務者が不動産を所有していて、他にめぼしい財産もないのに不動産に抵当権を設定して資金を借り入れたとか、債務者が所有する財産について、他にめぼしい財産がないのに、その財産を譲渡担保に入れて占有改定の方法で引き渡したとかいうようなことをいいます。これについては偏頗行為の2つ目といいましたけど、詐害行為性が認められる要件は弁済その他の債務消滅行為と同じです。つまり、原則として担保提供行為は詐害行為とはなりません。しかし、債務者が担保提供義務を負っているときに担保提供行為をしたときは、

  1. その行為が、債務者が支払不能であったときにされたこと
  2. その行為が、債務者と受益者との通謀的害意をもってされたこと

債務者に担保提供義務がないのに、非義務的行為として担保提供行為をしたときは

  1. その行為が、債務者が支払不能になる前30日以内にされたこと
  2. その行為が、債務者と受益者との通謀的害意をもってされたこと

これらを満たす場合は詐害行為となります。

 

最後に、過大な代物弁済等です。最初の方に書いた例のように、受益者の受けた給付が、その行為によって消滅した債務より過大である場合に、債務者が債権者を害することを知っていたとき(424条)は、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分について、詐害行為取消権を行使できます(424条の4)。つまり100万円の債務に対して1,000万円の代物弁済をしたという最初の例で言えば、これが詐害行為とされた場合、1,000万円のうち100万円以外の部分(900万円)について取り消すことができるわけです。それから、代物弁済等の「等」は、たとえば債務者が自己の財産を異様な安値で債権者に売却し、その代金債権とその債権者に対する債務とを相殺するような場合です。行為の結果として、債務者の責任財産が減少してしまうところは同じですもんね。ということで要件としては代物弁済等の過大性と詐害の意思ということになりますが、これらはもうケースバイケースで判断されるのでしょう。さらに、過大な代物弁済等では、債務者のした行為の全部を取り消すのではなく、過大な部分だけを取り消す(一部取消し)というのも特徴的ですね。

もっとも、代物弁済が偏頗行為の一種である弁済その他の債務消滅行為として行われた場合(424条の3の要件を満たす場合)は、その代物弁済が相当価格であったとしても、代物弁済全体を取り消すことができます。代物弁済も債務を消滅させる行為だから、普通の弁済と同様に424条の3が当てはまることもあり得るでしょう。

 

さて、今まで見てきた要件⑤詐害の意思に関して、取消しが認められないタイプの行為もあります。それは、対抗要件を具備する行為です。たとえば、債務者が受益者に対して自己の不動産を1月に売却し、2月に債権者から資金を借り入れ、3月に不動産の移転登記をしたとしましょう。この場合の被保全債権は債権者の債務者に対する貸金債権ですが、これは2月に発生したものであって、不動産の売却(1月)は債権の発生原因よりも前にされているので、この売却を取り消すことはできません。では、債権の発生原因よりも後になされた対抗要件の具備(3月に行われた移転登記)を取り消して、対抗要件が備わっていない状態に戻せるでしょうか。答えはNO。最判S55.1.24は次のようなロジックで詐害行為取消の対象にならないと言っています。

  1. 物権を譲渡する行為とその対抗要件を具備する行為は別個のものである
  2. 詐害行為取消権の対象は、債務者の財産の減少を目的とする行為、つまり物権を譲渡する行為そのものである
  3. 対抗要件を具備する行為は、単に第三者に対抗できるようになったというだけで、その時点で権利移転行為がなされたり、権利移転の効果が生じるわけではない
  4. 物権の譲渡が詐害行為とならないのに、それについての対抗要件を具備する行為だけを取り出して詐害行為として取り消すことは相当とは言えない

債権譲渡についても、同様の判例があります(最判H10.6.12)。上記ロジックの3番目、対抗要件はあくまで対抗要件であって効力要件ではない、ということなのですが、たとえば登記が効力発生要件になっている場合(共同根抵当権の設定や担保権の順位変更など)はどうなるんでしょうね? これらは詐害行為とされるようなことにはあまり関連しないものかもしれませんが、仮に問題になった場合は、登記が効力要件なのであって債権の発生原因より後だから詐害行為になり得る、てことになったりするんでしょうかね^^;

 

今回も長くなってしまいましたが、もうちょっとだけ続きます。