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会社法の判例問題(1)

司法書士試験の問題で、憲法判例をベースに作られた問題がたくさん出ますよね。つまり、判例の事例と結論、結論に至るロジックを知っているかどうかで正誤が判断できるような問題のことです。企業が労働者の採否を決めるときに労働者の思想や信条を調査することは許されるか?(最大判S48.12.12、三菱樹脂事件)とか、国会議員の立法行為に司法審査が及ぶか?(最判S60.11.21、在宅投票制度廃止事件)とか、お馴染みの判例は多いですね。民法は、親族法・相続法は判例も結構出題されるけど、物権法・債権法の方は判例とは意識してないけど実はそうだった、みたいなものが多い気がします。たとえば土地に抵当権を設定した当時その土地上に未登記の建物を所有していた場合に、競売によって土地が別の所有者に帰属したら建物について法定地上権が成立するのは判例(大判S14.12.19)で認められているのですね。

しかし、会社法の問題は判例が題材になることは多くないようです。やっぱり、会社法が成立したのが平成17年とまだまだ歴史が浅く、資格試験の問題にできるほど判例が蓄積していないということなんでしょうかね。平成17年以前の旧商法時代の判例はいろいろあるのだろうと思うのですが、今の会社法とは規定や事情が違いすぎて問題にはしにくいのかもしれませんし。なので、会社法の対策は条文の知識を正確に押さえることに尽きる!なんて言われたりしているようです。確かにそれはそうなんでしょうけど、でも受験生からすると条文の知識と言われても無味乾燥で細かすぎる規定を大量に丸暗記しなければならず、つまらないなぁ…と思う原因になる気もしますね^^; 憲法民法判例って、どういう出来事があってどういう風に法律が適用されてどういう結論が出たかのストーリーがあって記憶に残りやすいのに、会社法はただでさえ馴染みがない話が盛りだくさんなのにイメージを掴む手掛かりがなくて困ります。

まあそんな会社法ですけど、一応判例ベースの頻出問題というのもあるのです。それをちょっと見てみたいと思います。でも憲法民法と違って、会社法判例にまつわる話ってまだまだ流動的で結論が固まりきってない感じがするのですよね。それが試験問題にはしにくい理由の一つでもあるのかな、と思ったりもしますけど。

 

まずはこちらの問題。

株主総会において議決権を行使する代理人の資格を当該株式会社の株主に制限する旨の定款の定めは無効である。(平成31年 問30-ウ)

ちなみに答えは×です。これは昭和43年11月1日の最高裁判決を元に作られています。多肢択一問題の選択肢の一つとして出題されると問題文がとても単純化されるので、ああ代理人を株主に限定してもいいんだ、と思ってしまうのですけど、この最判S43.11.1で扱われた事件は実は結構複雑なのですよ。

昭和2年に設立された精肉業を営むY社は、もともとPの個人事業を節税等の目的で株式会社化したもので、株主Xがいました。昭和32年に解散し、清算人にBが選任されましたが、このBはPの死後Y社の代表取締役となっていました(このような会社なので、株式譲渡制限規定があり、株券不発行でした)。さて昭和32年のある日、XとAがBに対して清算人解任と後任清算人選任を求めて臨時株主総会の招集を請求し、開催されました。この総会は紛糾して、Y社の株主は甲総会と乙総会の2つに分裂してしまったのです! 甲総会ではBの解任と、後任の清算人Dが選任されました。一方の乙総会ではG(B、M、N、Oの4人の代理人を兼任)、H、I、J、K、Lの6人が集まり、Bの辞任(解任ではありません)と、後任清算人としてHを選任しました。しかし甲総会の決議に基づくDの代表清算人就任の登記が先に行われ、Hらは甲総会の決議無効などを求めて提訴しましたが敗訴・確定しました。

すると今度はXが乙総会の決議不存在、決議無効、決議取消しを求めて提訴。これが本件訴訟です。第一審で決議取消しだけが認容され、Xは控訴せず、Y社が控訴・上告しました。何が問題になったかというと、Bの持株数とGあるいはNが株主かどうか、です。Xは乙総会当時Bが4,500株を保有し、Bを除くGとGが代理するM・N・Oの3人、H〜Lの5人は株主ではないと主張しました。それに対し、Y社(H側)は当初Bが6,000株を保有し、昭和15年から22年にかけてGとM・N・OやH〜Lに株式を譲渡したのだと主張しています。原判決(大阪高判S40.6.29)はY社の主張を認めず、GらはY社の株主ではなく、乙総会に出席した株主はB(4,500株)のみで、これを非株主Gが代理したと認定しました。

そしてY社の定款には「株主は代理人をもって議決権を行使することを得、但し代理人は当社の株主に限るものとす」との規定がありました。そこでGがBを代理して議決権行使を行ったことが定款に違反し決議取消事由となるかが問題となりました。また、その前提として、そもそもこうした代理人資格を制限する定款規定が当時の商法239条3項(現在の会社法310条1項)に反しないのかも問題とされたのでした。…だいぶ端折ったのですが、これでもややこしくて長いですね^^;

 

で、判旨は上告棄却。当時の商法239条3項は、合理的な理由がある場合に代理人の資格について定款の規定によって相当と認められる限度の制限を加えることを禁じてはいないのであって、Y社が代理人を株主に限る旨の規定を置いたのは株主以外の第三者によって攪乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨に出たものであり、合理的な理由で相当程度の制限だから有効、とのことでした。現在の会社法310条1項は、議決権の代理行使を明文で認めています。これは総会屋対策というか、会社や他の株主の利益を侵害しつつ株主総会を利用する者に対処するためのものですよね。しかし会社は代理人の人数を制限することも可能です。また代理人の資格を制限することも、株主総会の攪乱防止という趣旨であればOKと考えられているわけです。これが司法書士試験の会社法で出題されているのですね。

ところが逆に、非株主の代理人に議決権行使を認めなければ困る、というケースも出てきました。自治体や株式会社が出資した会社(株主の代理人を株主に限定する定款規定があります)の株主総会で、株主である自治体・株式会社の職員・従業員(これらの人たち自身は株主ではないのです)に議決権を行使させたことが問題となった裁判で、最高裁は、これら職員・従業員は上司の命令に服する義務を負い、議決権の代理行使に当たって株主の代表者の意図に反する行動はできなかったので定款規定に反しない、そしてこの規定は株主総会の攪乱防止の趣旨に出たものであって、職員・従業員に議決権を代理行使させても攪乱される恐れはなく、むしろ代理行使ができないとなると事実上議決権行使の機会を奪う結果となって不当、と述べています(最判S51.12.24)。

最初に挙げた最判S43.11.1と、次の最判S51.12.24は、一見別のことを言っているように思えますが、実はとても密接に関係しているのですね。最判S43.11.1は、合理的な理由がある場合に、定款規定によって、相当程度の制限をすることまでは禁じていないと言っています。つまり株主総会の攪乱防止は合理的な理由に該当するし、株主に限るのは相当程度の制限というわけです。では最判S51.12.24はというと、やはり株主総会の攪乱防止という合理的な理由があります。するとこの定款規定は、非株主であっても攪乱の恐れがなければ例外的に代理行使を認める、と読むことができるのです(株主自身が代理人をコントロールしているから攪乱の恐れがない)。そして、このように読むことによって、代理行使を認めなければ議決権行使ができなくなるという事態に対処できるわけなのです。ということで、最判S43.11.1も最判S51.12.24も同じ論理によってそれぞれの結論を導いていることが分かります。“こういう風に読める”というところが面白いですね^^

 

最近は、さらに具体的な実際的な事柄が問題になっているそうです。以下の会社はすべて代理人は株主に限るとの定款規定があり、代理人に弁護士を選任したところ株主総会への出席を拒否されたケースです。まず「弁護士に株主総会を攪乱する恐れがあるとは一般に認めがたく、出席を拒絶することは合理的理由による相当程度の制限とはいえない」(神戸地尼崎支判H12.3.28)という判決があったかと思えば、「弁護士が総会を攪乱する恐れは非常に小さいが、非株主代理人が来場するとその都度その者の職種を確認して攪乱の恐れを個別具体的に検討しなければならず、受付事務を混乱させ、円滑な総会運営を阻害する」(宮崎地判H14.4.25)、「明確な基準がないまま実質的判断を迫られる結果受付事務を混乱させ、円滑な総会運営を阻害する」「あらかじめ会社にとって身元の明らかな弁護士が、議事を攪乱しない旨の誓約書を提出していてもなお当てはまる」(東京高判H22.11.24)という感じで出席を認めなくてOKとする判決も出ています。

弁護士だから変なことをする可能性は低い、だから出席させても問題ない、というのは確かにほとんどの場合はそうだろうと思いますが、職種による線引きができるとすれば、それなら司法書士はどうなの?行政書士は?みたいな話になりかねません。明確な基準にはできないかもしれませんね。そして出席を認めなかった2つの裁判例では受付事務の邪魔になることを理由としています。受付なんて些細なことを…とは言えないのですよ。株主数が多数に上る会社の株主総会では受付で攪乱する恐れがないかを一人一人チェックするのは大変な手間ですよね。しかもここで判断を誤ると決議の取消事由になってしまうかもしれないので、会社にとっては大変切実な問題なのです。確かに、たくさんの人が押し寄せる受付で、目の前に委任状を持った弁護士(と称する者)がやってきて、明確な基準もないのに入場を許して良いかどうかを短時間で判断しなければならないとなったら、とても困るでしょう。あるいは株主の立場だったら、自分が出席するよりも会社の事業や業界の事情に詳しい人に代理で出席してもらった方が議決権を適切に行使できると考えるかもしれません。そういう専門性の高い代理人(弁護士に限られないでしょう)も、株主総会を攪乱する恐れがあるとは一概には言えない気がしますね。

 

そんなこんなで現在は、代理人を株主に限る定款規定は有効!と単純に言い切ってしまうには流動的な状況のようです。いや原則有効であることは間違いないのですが、その他の条件によって異なる結論が出る場合があるって感じですかね。すると、たとえばもう数年〜十数年が経過して最高裁判例が蓄積して、こういう場合はOK、こういうときはNG、みたいな基準ができたりすれば、それに応じて試験問題も変わってくるのかもしれません。流動的っていうのは、将来的にどうなるのか楽しみではありますね^^