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会社法の判例問題(2)

株式の譲渡制限については、判例からの出題が多いようですよ。次のような、まるで憲法の問題か何かかと思う問題が出たこともあるのです^^;

次の論述の( )の中に入る文として適当なものは、後記(1)から(5)までのうちどれか。

 

会社法第107条は、定款をもって発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨を定めることができると規定し、株式の譲渡性の制限を許しているが、その趣旨は、専ら株式会社にとって好ましくない者が株主となることを防止することにあると解される。このような譲渡制限の趣旨と株式の譲渡が本来自由であるべきことにかんがみると、定款に発行する全部の株式の内容として株式の譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定めがある場合に、株式会社の承認を得ずにされた株式の譲渡については、( )と解するのが相当である。」

 

(1) 株式会社に対する関係でも、譲渡当事者間においても効力を生じない。

(2) 株式会社に対する関係では効力を生じないが、譲渡当事者間においては有効である。

(3) 株式会社に対する関係では有効であるが、譲渡当事者間においては効力を生じない。

(4) 株式会社に対する関係でも、譲渡当事者間においても有効である。

(5) 株式会社に対する関係でも、譲渡当事者間においても譲受人が有効であることを主張することはできない。

(平成7年 問29)

ちなみに答えは(2)です。最判S48.6.15の判決文を元にした文章穴埋め問題ということですが、会社法でこんなに判例をガッツリ出すこともあるんですねぇ…。

株式の譲渡制限は、戦前の商法には存在していたのですが(明治32年改正商法149条1項)、戦後に入っていったん明示的に禁止されました(昭和25年改正商法204条1項)。しかし閉鎖的な会社からの株式譲渡制限へのニーズは特に大きく、昭和41年改正商法204条1項で再び導入されたという経緯があります。その後昭和48年には上に挙げた問題の元になった判決があり、譲渡の承認がなくても当事者間での譲渡は有効との解釈が確立していったようです。譲受人の側から譲渡承認を請求できるという規定(会社法137条1項)のように、この解釈を前提とした制度が作られてもいますね。

 

ところで「会社に対する関係では無効だが当事者間では有効」とは具体的にどうなるのかというと、まず会社に対する関係では譲渡は無効なので、譲受人は株主としての権利を会社に主張できません。株主名簿の名義書換の請求なんかはできないわけですね。会社側も、株主総会の招集通知の発送や配当の支払を譲受人に対してする必要はなく、譲渡人に対して行います。一方、当事者間では有効なのだから、譲渡人側から譲渡した株式の返還を請求することはできません。譲受人は譲渡人が受け取った配当の引渡しを求めることができます。さらに、無効なのは会社に対する関係のみであって、第三者に対する関係においては有効です。だから譲渡人の債権者が譲渡した株式を差し押さえることはできないし、譲渡人が破産しても破産財団に組み込まれることはないのです。譲渡人の財産ではないのですからね。ただし、譲受人が第三者に対して譲渡を主張するには、対抗要件の具備が必要です。株券が発行されていればそれを占有していればいいのですが、株券非発行会社の株式の譲渡(振替株式を除く)は株主名簿の名義書換が会社に対しても第三者に対しても対抗要件だったので、会社の承認が得られない限り(名義書換できないので)対抗要件を備えることはできない、ということになるようです。

ではなぜ、会社に対する関係のみ無効とされるのでしょうか。株式の譲渡制限をするもともとの趣旨が「会社にとって好ましくない者」が株主になることを防ぐためでした。それを実現するには、譲渡の承認がない場合に会社に対する関係だけを無効としておけば足りるのです。一方、本来株式の譲渡は自由であるべきなのだから、当事者間(および第三者に対する関係)では特に無効とする必要はありません。むしろ、株式を譲渡担保にしたりすることもあるので、当事者間での譲渡は有効としておく方が何かと便利なのですね。

 

さらに、譲渡の承認を受けていない場合に会社の側から譲受人を株主として扱い、その一方で譲渡人を株主ではないとすることはできるでしょうか? 答えはNO。会社から見て譲渡人が株主としての地位を有している以上は、譲受人を株主として扱うことはできないとされています(最判H9.9.9など)。もし譲受人を株主として扱っても良いとすると、譲渡人と譲受人のうち会社にとって都合が良い方を株主にする裁量を会社に与えることになります。というか、譲渡人に対しては「もう株主ではないのだから」と言って株主としての権利の行使を拒絶し、譲受人に対しては「譲渡を承認していないから株主ではない」と言って拒絶することができてしまうのです。つまり、会社の裁量によって株主の権利を行使できない株式が出てくることになって宜しくない、という考慮があるのでしょうね。

 

「会社にとって好ましくない者」が株主になることを防ぐという譲渡制限の趣旨は、他の判例にも出てきます。たとえばこちら。

教授:会社の全株式を一人で所有している株主が、その株式の全部を取締役会の承認を得ないで譲渡した場合、会社との関係における効力についてはどのように考えますか?

学生:譲渡制限の趣旨は、譲渡人以外の株主の利益を保護することにあるので、当該譲渡は有効です。(平成12年 問32-ク)

答えは○です。いわゆる一人会社の株主が、その保有する株式を譲渡する場合には、譲渡の承認がなくても会社に対する関係において有効とされています(最判H5.3.30)。一人会社では譲渡人以外に株主がいないので、保護すべき利益のある人が他に存在しない、だから譲渡を認めても構わないわけですね。

(譲渡による株式の取得について取締役会の承認を要する旨の定款の定めのある取締役会設置会社の)株主が譲渡制限株式を株式会社の株主でない者に対して譲渡した場合において、当該譲渡制限株式の譲渡人以外の株主全員が当該譲渡を承認していたときは、当該譲渡は、取締役会の承認がないときであっても、当該株式会社に対する関係においても有効である。(平成30年 問28-イ)

答えは○。譲渡人以外の株主全員が承認しているのなら、保護すべき利益のある人はいないと言えるから譲渡を認めてよい、ということです(最判H9.3.27)。この判例は実際には株式会社ではなく有限会社の持分譲渡に関するもので、旧有限会社法19条2項により持分譲渡には社員総会の承認が要求されていたところ、それがなくても譲渡人以外の全社員が譲渡を承認しているのだから有効とされたのです。保護すべき利益のある人が他にいないという点が、最判H5.5.30と最判H9.3.27とで共通しているのですね。

 

譲渡制限株式を発行している会社は日本にたくさんあるわけで(大部分の会社は公開会社ではないのです)、その譲渡制限株式の譲渡についてはいろいろと問題が起こる機会も多いのだろうと思います。それで訴訟にまで至るケースも多く、結果として判例が蓄積しやすい、だから司法書士試験でも出題されやすい、ということなのかもしれません。逆に言うと、割と新しい制度である監査等委員会設置会社や会計参与に関する判例問題は、最低でもこの先10年くらいしないと出そうにないってことでしょうかね笑