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債権者代位権(2)

個人的に、債権者代位権の問題で難しいなと思ったのがこちら。

Dが不動産をBに売却した後に死亡し,A及びCがDを共同相続した場合において,Bへの所有権の移転の登記手続にAが協力せず,Bも売買代金の支払を拒絶しているときは,Cは,Bの資力の有無にかかわらず,Bに代位して,Aに対する登記請求権を行使することができる。(平成22年 問16-ウ)

保全債権はCのBに対する代金債権、被代位権利はBのAに対する登記請求権です。問題文に「Bの資力の有無にかかわらず」という文言が入っているのは、いわゆる転用型だからですよね。この問題の元となった最判S50.3.6は「債務者たる買主の資力の有無を問わず」代位できると言っています。債権者代位権の無資力要件が不要な場面があることを知っているかを問うのがこの選択肢の趣旨なのでしょうけど、そもそもどういう状況なのか分かりにくいのです^^;

この事例について別の書き方をすると、Dの相続人はAとCの2人(実はCは複数人なのですが…面倒だし、まとめて1人と考えても話が変わらないので、この問題ではCが1人だけとされたのでしょう)であり、不動産の所有権はDの生前にBへ移転しているけれども登記未了だから、Dに代わって相続人全員であるAとCが共同でDからBへの所有権移転登記をしようとするところなのです。単なる相続人による登記の話ですね。で、登記する義務を承継したAとCのうち、Aが登記に協力しなくて話が進まず、するとCはBから代金をもらえないから困っているのです。そこでCとしては、BがAに対して持っている登記請求権を代位行使したい、Bは無資力ってわけじゃないけど、それは可能か?ということが聞かれています。なので答えは○ですね。

実際の事例では、DがBに不動産を売却したのはDの治療費を捻出するためだったが評価額よりも安価だった、Aが登記に協力しなかったのはAはDの世話を1人でやってきてC(ら)との遺産分割協議に争いがあった、Bへの不動産の売却価格についても争う意向だった、といった事情があったそうです。こういう話は債権者代位権に関係ないから問題文には表れてこないのですけど、一度知ってしまうとAがちょっと気の毒なので他のことで報われてほしいな…と思ったりします^^;

 

それはともかく、債権者代位権は債務者の責任財産保全し債権者の満足を得るために、例外的に債権者が債務者の財産に干渉できるという制度です。そこで民法423条の「自己の債権を保全するため必要があるとき」という要件は、債務者が無資力であるという意味なのだと理解されていました。逆にいうと、債務者に充分な財産があるなら債権者はそこから回収すればよいので、債権者代位権を行使する必要はないのですよね。そして、被保全債権が金銭債権の場合、債務者の責任財産とされているものなら何にでも強制執行をすることができます。だから金銭債権の債権者には、債務者の責任財産保全に向けての強い動機があると言えるでしょう。

しかし、金銭債権ではない特定の債権を持っている債権者は、ある特定の給付が受けられるというだけです。債務者の責任財産が減少したとしても、直接影響があるとは限りません。たとえばA→B→Cと土地が転売されたのに登記名義がAのままという場合に、Cが登記名義を自分のものにしたいと思ったら、CのBに対する登記請求権を被保全債権として、BのAに対する登記請求権を代位行使するでしょう。このとき、CのBに対する被保全債権である登記請求権の内容を実現するにあたって、Bが無資力かどうかは全然関係ありませんね。Bがいくら大金持ちだったとしても、CとしてはBの権利を代位行使できなければ意味がありませんし、Bが金持ちであることがAにBに対する登記の協力を働きかけるということにもなりません。このように、自分の持つ特定の債権を実現するために債務者の権利を代位行使するときは、債務者の無資力要件は必要ないとされています。このタイプの債権者代位権は「転用型」と呼ばれています。一方、金銭債権をカバーするための、債務者の無資力を要する本来の姿の債権者代位権は「本来型」と呼ばれることがあるそうですよ。

 

ところで、最初の問題の事例と、次の土地が輾転売買された事例では、被保全債権が違っていることに気が付きます。最初の事例の被保全債権は金銭債権(CのBに対する代金債権)、土地の輾転売買では特定の債権(CのBに対する登記請求権)です。特定の債権を実現するために行うのが転用型なのだとすると、最初の事例は転用型に当てはまりません。それなら本来型だとしたら、今度は無資力が要件になってきます。つまり最初の事例のBが無資力でなければいけない、ということになってしまいますね。しかしそれは何だかおかしいし、実際判例でも上で見たとおり無資力要件は不要とされています。

実はこの最初の事例、転用型の中でも例外的な形と考えられているのだそうです。被保全債権は確かに金銭債権ですが、それを保全するためには被代位権利を代位行使しなければいけない、そしてそれ以外に法的な手段がない、という関係にありますよね。つまり、CのBに対する代金債権を実現するには、BのAに対する登記請求権を実現しなければいけないのです。そこでこの事例でも代位行使が認められた、というわけです。しかも、Bの資力があるかどうかとか、責任財産保全とかは、この話には全く関係がないのですよ。まあ、債権者代位権というのはいろいろなことができるのだなというか、もともとの定義から考えられるよりも広く認められているような感じがしますね。そして、例外的な事例をわずか数行の問題文にまとめて選択肢の一つとして出題してくる司法書士試験て何なのか、と思わなくもないです笑

 

債権者代位権の応用範囲というか、こんなことまで代位行使できるのか、と思ったのがこちらの例です。

Aは,Bが所有権の登記名義人である甲土地の一部を買い受けた場合において,甲土地の当該一部につきBに対してAへの所有権の移転の登記手続を命ずる判決が確定したときは,Bに代位して甲土地の分筆の登記を申請し,その後,当該判決に基づき単独で甲土地の当該一部についての所有権の移転の登記を申請することができる。(平成26年 問16-イ)

これは不動産登記法の問題で、答えは○です。Aの所有権移転登記請求権を被保全債権、Bの登記申請権を被代位権利として、AがBに代位して分筆の登記を申請しています。特定の債権が被保全債権になっているから、これは転用型の事例ということになりますね。自分は最初にこの問題を読んだとき、甲土地の一部について所有権移転の登記手続を命ずるという判決なのだから、甲土地を分筆するにはそういう内容の判決が別に必要になるのだと思いました。でも違うのですね。所有権移転登記を命ずる判決を一つ取るだけで、分筆の登記と所有権移転登記の両方をAが単独でできるわけで、こんなやり方があるんだなぁとちょっと感動しました^^;

不動産登記法の問題からもう一つ。

不動産の売主が買主に対して当該不動産の売買代金債権以外の債権を有している場合であっても,売主は,買主に代位して,当該売買による所有権の移転の登記を申請することができない。(平成21年 問12-イ)

答えは×、つまり申請できます(昭24.2.25民甲389)。これはどういう状況なのかというと、不動産を売買したのだけれど、買主の方が登記に協力してくれないという場面なのです。そんなことあるんですね笑 この事例での被保全債権はこの不動産の売買代金債権以外の債権で、被代位権利は買主の所有権移転登記請求権です。ちなみに、被保全債権をこの不動産の売買代金債権とすることはできません。それができるとすると、売主による単独申請が事実上自由にできてしまうことになるからです。それから、この問題の事例は売主が買主に代位していますが、逆に買主が売主に代位することはできません。登記権利者たる買主が登記義務者たる売主を代位しても良いとなったら、それこそ何でもアリになってしまいますからね笑

 

結局言いたいことは何かというと、債権者代位権は応用範囲が広いところに感動した、です笑 いや、もしかしたら思いもよらない権利を被保全債権として、びっくりするような権利を被代位権利として債権者代位をする可能性が広がっている!とも考えられませんか? こういうの夢があっていいですよね^^