目指せ!47歳からの司法書士受験!

法律初学者のおっちゃんが合格するまでやりますよー

スピードアップのトレーニング

ご存知の通り、司法書士試験は午前は多肢択一35問、午後は多肢択一35問+記述式2問が出題されます。このうち午前は制限時間が120分なので、そこそこ余裕をもって解答することができます(それによって平均的に得点が上がる→基準点が上がりやすくなりますけど)。ところが午後は、午前より60分長い180分であるにも関わらず、まったく時間が足りません。不動産登記法にしても商業登記法にしてもその他のマイナー科目にしても、実生活上ほとんど未知の手続きについて細かいことを聞かれるのでサクサク読み飛ばすってことができませんし、記述式は資料が多くて大まかに話の内容を掴むだけでも時間がかかります。そこで、いかにして午後のスピードアップを図るかが、試験対策上とても大切になってきますよね。問題を解く順番とか、多肢択一で組合せ問題だったら余計な肢は読まないとか、記述式の資料の整理の仕方とか、ボールペンで速く書く練習をするとか、いろいろな対策が考えられると思います。でも根本的には、多肢択一の解答を出すスピードが上がらないとどうにもならないって感じがしますよね^^;

正攻法としては、民法会社法など実体法の知識をしっかりと固め、過去によく出題されているものを中心に手続法の必要事項を覚えていく…ということになるんでしょうけど、それはもう言われなくても散々やってきてますね。まあ、正攻法の勉強がきちんと頭に入るのが理想ですけど、そろそろそうも言っていられない時期に差し掛かってきましたし、もっと即物的に速度を向上するトレーニングをすることにしました! つまり、問題文を読んで即座に答える、という解き方を習慣づけるのです。選択肢をパッと見て「これは正しい!」「これは誤り!」と判断するわけですね。もう法律の勉強というよりクイズの早押し問題みたいですけど笑

 

で、そういう練習をするとなると、紙の本ではなかなか難しいのです。合格ゾーン過去問集は解説が詳しいので頼りにしているのですけど、解きながら読んでいるとついついじっくりと読み耽ってしまって、いつの間にか時間が経ってしまった…ってことありませんか? 解説をじっくり読み込むのはいいとしても、それに引きずられて問題文の方も時間をかけて読もうとしてしまうのですよ。そしてじっくり読んでいるから、時間の割には実際に解いた問題数は大したことない、ということにもなりやすいです。

逆に、スタディングの問題集はそういう練習に向いていると思います。スタディングには一問一答形式のスマート問題集と、過去問を基本的にそのまま解くセレクト過去問が用意されていて、スマート問題集は過去問の5つの選択肢のうちの一つを持ってきていることが多いですね。で、それらの問題はすべて解答するまでの時間を計ってくれるのですよ。1問ごとに、この問題は解答までに何秒かかった、次の問題は何秒だった、というのを表示してくれます。まあ紙の本でも自分で時計を見ながらやれば何となく同じことはできますが、秒単位でキッチリ計るのはちょっと面倒。その点スタディングは便利ですよね。クリック(タップ)するだけですから。スタディングを使い始めた頃は、時間なんて表示してどうするんだろう…?とか思っていたのですけど、今になってみるとすごく有り難い機能なのですね^^;

 

さて、セレクト過去問は1問あたり原則4分で解く…というのがスタディング側で設定した標準の解答時間のようなのですが、コレを本気で受け取っている人はいないと思います。本当に4分もかけるのは計算問題とか登記記録を読まなければいけない問題くらいで、多くの場合は見てすぐ解ける、くらいのスピード感でやりたいところ。たとえば民法は本番で20問出題されますけど、1問あたり4分もかけてたら全体で80分もかかってしまい、午前でさえも間に合いません(1問あたり4分ずつ時間をかけて35問解くと全部で140分。試験時間をオーバーしちゃいます)。

ということで最近は、午後の科目は特に、過去問1問を1分以内で解くことを目標に練習というか訓練しています。単純な知識問題は、ぱっぱと片付けられますよね。最初の頃は問題文を読んで内容を理解するだけでも結構時間がかかったから、それからするとだいぶ頭と目が慣れた気はしますが…それでも読むだけで時間のかかる問題があったりします。自分の場合、不動産登記法の処分制限の登記や判決の登記、敷地権絡みの登記に関する問題は、何となく読むのに時間がかかります笑 1問1分どころではなく、つい5分くらいかかっちゃったりするのです。それから、登録免許税を計算する問題も思いのほか時間かかったりしますね。たとえば平成28年第27問は、共有の土地を単有にする共有持分移転登記、名変、共有根抵当権の分割譲渡と共有者の権利の放棄という3つの論点が詰め込まれていて、それぞれ税額を計算しなければならず、最初にこの問題にぶち当たったときは解くのに10分以上かかった覚えがあります。これは結構な難問…と思ったらスタディングでの正答率は62%とのことで、是非とも取るべき!という難易度ですね。自分の実力不足だな^^;

まあしかし、たとえば不動産登記法16問のうち8問、商業登記法8問のうち4問だけでも1分で解ければ、相当に余裕ができますよね。これで12分として、マイナー科目11問で11分、合計23分。午後の多肢択一全体で70分を割り当てるとしたら、残りの不動産登記法8問、商業登記法4問を47分で解けばいいことになります。それでも1問あたり4分は取れないのか…厳しいですねぇ。でもともかく、このくらいの時間を目標にトレーニングを続けたいと思います^^

 

ところで、スタディングの過去問は令和2年までの問題が組み込まれているのですが、それとは別に前回の令和3年の問題がそれ以前の過去問と同じ仕組みで反復練習できるようになっています。自分は前回の問題はどうにもトラウマのように感じられて、全然復習する気になれませんでした。民法の問題なのに第三者異議の訴えとか出てくるの?なぜ?みたいな笑 でもこれじゃイカン!と思って、試しに民法20問を解いてみたところ、あれ…普通に解ける…? 1問1問、選択肢を全部きちんと読んでゆっくり解いて、30分ちょっとで全問正解できました。問題の難易度としては、伊藤塾やLECの方が難しく感じます。というか令和3年の午前は易しめと言われていて、確かにその通りかもと思いました。

ここで、前回の試験を受けたときよりも実力が伸びてるな!と単純に喜ぶわけにもいかないのです笑 自分としては本番の会場でも普段通りのつもりだったのですが、そうではなくやっぱり緊張してたんだなぁと思います。自宅で問題を解くと正解できるのは、実力が伸びたというよりは単に緊張していないからでしょう。上に書いた第三者異議の訴えの話も、選択肢全部を冷静に読めば明らかに選択すべき肢が分かるようになっているので、ショックを受けるところではないのですよね。う~ん、本番中は自分でも分からないうちに平常心を失っていたのだなぁ…。というか、トラウマのように感じていつまでも自己採点できなかったり、最近まで復習もできなかったりするなんて、心理的に強い影響を受けたことは明白ですね。やっぱり本番は大変だな~^^;

 

そんなわけで解答のスピードアップと同時に、メンタル面もいい状態に持っていきたいところですよね。いや、むしろメンタルが良くなくても(極度の緊張、不安、寝不足など)、反射的に解答できてしまうってくらい鍛え上げるべきなのでしょうか? そこまでやるのはもう時間が足りないかも笑

原野商法の土地

自分が生まれる前の話ですが、「原野商法」が多発した時期があったそうですね。原野商法とは、経済的にほとんど無価値な土地(原野)なのに「近くに高速道路ができる予定がある」「開発計画が進んでいる」などと言って消費者を騙して値上がりするかのような期待感を抱かせ、不当に高く売りつける詐欺のことです。ウィキペディアに解説がありますよ。

ja.wikipedia.org

高度成長期で列島改造ブームとか言ってた時代には、どんな土地でも必ず値上がりするという不動産信仰が形成されていったというし、その後のバブル期に入るとリゾート開発ブームみたいなのがありました。そういった不動産価格が大幅に値上がりしそうな空気があるときに、原野商法という詐欺が流行するようです。結局のところ、現地を簡単に見に行けないから成立するのですよね。最近はGoogleなどで写真を見ることができるから、まったく知らない場所の不動産を買うとしても一応事前にその場所を検索してみたりするでしょう。なのである程度の自衛はできるようになったのかもしれませんが、詐欺師としてもその上を行く手口を編み出している可能性だってあるし、用心するに越したことはないですね。

さらに、原野商法二次被害も問題になっています。これは原野商法で価値のない土地を買ってしまった人の「こんなもの何とかして手放したい…」という気持ちに付け込んでくる詐欺です。上のウィキペディアにも解説がありますし、最近は国や自治体も盛んに警戒を呼びかけていますね。たとえば政府広報はこちら。

www.gov-online.go.jp

同じ趣旨の広報は他にもたくさんあります。それにしても不思議なのは、こういう広報に載っている二次被害の事例のどれもみんな揃いも揃って「わけもわからずに」契約をした、みたいな記述があることです。わけもわからずに契約なんてするなよ…と思ってしまいますけど、もしかしたら詐欺師の口八丁手八丁に乗せられると、わけもわからずに契約したとしか言いようのない心理状態に陥ったりするんでしょうか。恐ろしいことですよ。というか詐欺師の方も、それほどの手腕があるのならまともな営業職に就けばガンガン稼げるんじゃないの?という気もしますけど、詐欺に手を染めるってのはそういうことではないのでしょうかねぇ。そんなわけで、基本的に怪しいセールスには関わらないのが一番だと思います^^;

 

ところで、原野商法では架空の土地を売りつけられるのではなく(ネット上で架空の土地を売りつける悪徳商法もあったのですが…)、実際に自分の名義で所有権の登記が行われます。登記事項証明書を取り寄せることもできますよ。そこには所在地○県○市○町字○○、地番xxxx番のx、地積xxx.xxm3などと記載されているでしょう。ここで、所在地と地番が分かるのなら、それを頼りに自分の土地を訪ねてみるのもいいし、本当に人里離れたところの原野ならとりあえずキャンプでもして、その後は別荘を建てるなり畑を作るなりしたらいいのではないか、売りたくても売れない土地なら売らずに自分で使えばいい、と考える人がいるかもしれません。自分も原野商法の土地ってそのまま所有しておけばいいじゃんとか思っていたのですが、現実はそんな甘いものではないようですね。というのも、登記があるからといって、利用できる土地があるとは限らないからなのです。

…あ、これは登記の公信力がどうのという話ではなくて、物理的にそんな土地があるかは分からない、という意味なのですよ。たとえば、崖や急斜面などを含むまともな利用ができない土地でも、平面図にすると何もない原野が広がっているだけ、というように表現されます。その図面が適当に直線でいくつかの区画に区切られ、そのうちの一つを買ってしまったとすると、図面を見ているだけなら地積xxx.xxm3の平坦な土地を想像してしまいますよね。ところが実際には山肌の斜面でテントを張るのも難しいなんてことになっているかもしれませんし、崖だったら図面上は存在するはずのその土地の上に立つことすらできないでしょう。いや、もっと酷い場合には、自分の土地を探し当てることさえ不可能、なんてこともあるそうですよ。何しろ図面を区切っているだけだから、現地までアクセスする道路…というか登山道みたいなものがあるのかも不明ですし、仮に行けたとしても何か目印があるわけでもないので、広大な地番xxxxうち登記上の自分の区画であるxxxxのxはどこなのかを特定することなんてできないのです。具体的にどこの部分かも分からないから、売るに売れないのですよね。

 

そんな原野商法で掴まされた土地の特定をした方もいらっしゃいます。

urbansprawl.net

これはもう立派なドキュメンタリーですね。知人から情報を聞き取り、登記簿や地番図や写真を手がかりに現地の土地を探し出していくところは、宝探しの冒険物語を読んでいるような感じがしますよ。でもその目的物たる宝物は、利用価値のない土地なんですけど^^;

この土地は千葉県内にあるので、たとえば東京に住んでいる地主が、たまたま気が向いて現地を見てみようと思ったら、一応行けないことはない程度の場所にはあります。でも法務局に行って登記事項証明書やら地番図やらを発行してもらうのはお金もかかるし、法務局の係員に面倒な手続きをお願いしなければいけなくなるし、急に思い立ってできるようなことではないなと思いました。ましてや、上のケースでは現地を見に来た人に別の土地を見せていた疑いもあるというから、記憶を辿ってみるのも意味がないかもしれませんし。さらに、これが千葉県ではなく北海道の山の中なんかだったりしたら、近付くこともできないかもしれませんよね…。原野商法ってホントに罪深いなぁと思います。

 

司法書士になったら、原野商法としか思えない土地の登記に出会うこともあるんですかね。微妙な気分になりそうですよねー^^;

民法177条の第三者(4)

ここで、もう一度民法177条の条文を確認しときましょうか。

民法177条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

ということで行ってみましょう!

 

●取消しの前後

①錯誤、②詐欺、③強迫による意思表示は取り消すことができます。④制限行為能力者の行為も一定の場合に取り消せます。それで、A所有の甲土地をBに売却して登記も移し、その後BがCに甲土地を売ったとしましょう。Aが①〜④を理由にAB間の売買を取り消した場合に、BC間の売買が取消しの前後どちらで行われたかによってAはCに対抗できるか、要するに現在Cが持っている土地をAは取り戻すことができるかを、判例に従ってまとめてみます。

まず取消し前の場合。①②ではCの主観的様態も影響し、Cが善意無過失であれば保護され、AはCに対抗できません。保護されるというのは、AがAB間の売買を取り消してもCに対して取消しの効果を主張できず、Cが甲土地の所有権を取得し、Aは所有権を失う、という意味です。このときCの登記は必要ありません。一方、Cが悪意または有過失だったらCは保護されず、Aは甲土地を取り戻すことができるのでした。③④はCがたとえ善意無過失でも保護されません。さらにCの登記があっても同様で、Aは甲土地を取り戻せます。第三者保護規定がないと言われたりしますね。

次に取消し後の場合。こちらは①から④までのすべてで、AとCとは対抗関係になります。先に登記を得た方が勝つということです。試験対策としては、話が単純になるのは助かりますね笑

 

このような取り扱いになっている理由について、①②を例に確認してみましょう。

取消し前: まずAがAB間の売買を取り消すと、その売買は初めから無効であったとみなされます(遡及効、121条)。売買が無効なのだから、それによって行われたAからBへの所有権移転もなかったことになります。すると、Bに所有権があるという前提でBから甲土地を買ったCは、無権利者からの譲渡だったのだから無権利、つまりCの所有権取得は無効になりますね。しかしこれでは、Cは大損害を被ることになってしまいます。そこで、CのようなAの①②による意思表示を前提にして取引関係に入った第三者は、善意無過失の場合には保護され、Aは取消しを対抗できないことになっています(②は96条3項。①は95条1項で取り消すことができ、これと95条4項で②と同様の扱いになると考えられているようです)。そして、善意無過失の第三者に取消しの効果が及ばないのは、96条3項などによって取消しの遡及効が制限されるからである、とされています。すると、96条3項などが適用されるのは、取消しの遡及効が影響を及ぼす場合ということになりますね。つまり、取消し前に取引に入った第三者だけが保護の対象になるのです(以上②について大判S17.9.30)。

取消し前の第三者が保護されるためには、登記は不要とされています(最判S49.9.26)。177条は登記がなければ対抗できないと言ってますが、それは二重譲渡の譲受人同士のように、互いが権利を主張しあうような場合(対抗関係にある場合)のことです。一方、96条3項は善意無過失の第三者に対抗できないと定めていて、②の場合のAは善意無過失のCにそもそも対抗できません。つまりこれは177条を適用する場面じゃない、したがって善意無過失の第三者Cに登記は必要ない、とされているのでした(繰り返しますが①も同じ理屈で同じ結果になると考えられているそうです)。

取消し後: AがAB間の売買を取り消すと、その時点で甲土地の所有権はBからAに戻ります。この、BからAに所有権が復帰するという現象は、物権変動と言ってもよいですよね。そこで、BからAへの所有権移転と、BからCへの所有権移転が、177条の対抗関係にあると考えるわけです。要するにBからAとCとの二重譲渡があったようなもので、AかCかのどちらか先に登記を得た方が勝つ、ということになります。

 

しかし、判例のこのような処理には批判も多いといいます。まず、取消しによってAからBへの所有権移転がさかのぼってなかったことになるという現象のことを、取消し前は相手方が無権利者になると言っているのに、取消し後は物権変動と言っていて、説明が一貫していません。また、Aはいったん取り消してしまうと、その後は悪意の第三者にさえ対抗できなくなってしまうのです。これはあまりにもAの保護に欠けるのではないか(②のAは詐欺の被害者です)、というわけですね。さらには、Aの取消しをする時期については特に制限はありませんが、そうするとAが早くに取り消したら悪意の第三者に対抗できない危険に晒されるのに対し、取り消せるけれども取り消さなければいつまでも第三者に対抗できる、ということになってしまいます。でも、これは不当ではないでしょうか?

そこで学説としては、取り消した結果当初の物権変動が起こらなかったとする説明を徹底する考え方が主流のようです。この考え方では、取消しの前後に関わらずAからBへの所有権移転は発生しておらず、Bは完全な無権利者であり、したがってCは無権利者からの譲受人ということになります。しかしこれではBが甲土地の所有者だと過失なく信じたCを害するため、取消し前の第三者Cは①②の場合に限り96条3項等によって、取消し後は94条2項の類推適用によって保護される、としています。判例の処理との違いは取消し後の第三者の取り扱いです。判例は177条を適用するから、登記がなければ対抗できませんが、悪意の第三者も登記があれば保護されます。学説の方は、詐欺の被害者に取消し後すぐ登記すべきと言っても無理な場合もあるだろうし、そんなときは94条2項を類推適用して救済しようということです。いち早く取り消したら、取り消せるのにいつまでも取り消さない者よりも不当な扱いを受ける点については、取消権者が取り消すかどうかをよく考えてゆっくり判断することを非難すべきでないし、取り消すという決断をしたのならすぐに登記すべきで、それを怠ったのなら不利益があっても仕方がない、と考えることもできるでしょう。

 

判例の処理を正面から正当化しようとする考え方もあります。Aは取消し原因があれば取消しによってBとの売買を無効にでき、AからBへの所有権移転は初めからなかったことになります。初めからなかったということは物件の得喪があったわけではないから177条の適用を考える場面ではないということになりそうですが、実際のところAB間の売買によって、一度はBへ所有権が移転し、それを取消しによってAが取り戻したわけですよね。このことを「初めからなかった」と表現しているのであり、遡及効のある特殊な物権変動があったと見ることができるから、177条が適用できます。するとAは、Bへの所有権移転の遡及的消滅を第三者に対抗するには登記が必要ということになります。しかし、これを取消し前のAに求めることはできません。というのもAは、取り消さなければ登記名義をAに戻すことはできないのに対し、第三者CはBと売買すれば通常その直後に登記を入れることができます。このときのAも登記が必要とすると、取消し前に第三者が出現してしまったらAが登記名義を回復する可能性はまずない、ということになって不合理です。だから、取消し前の第三者に対しては、Aは登記なくして対抗できるのだ、ということなのですね。

 

民法177条と第三者の話がこんなに議論されるのは、不動産の取引にはいろいろな立場の人が入ってきて、どういう状況でどういう人を保護すべきかが違うからなのでしょうね。それなら個別に判断すればいいじゃないかとも言えますが、それでは自分の取引で自分が保護されるかは事前に分からない(=事後的に裁判するまで分からない)てことにもなりかねず、取引が困難になってしまいます。だから、決まったルールや決まった手順が抽出できるところはそれで定式化しようってことなんでしょうけど、なかなか大変ですね^^; 外野から理論上の勝ち負けだけを眺めているのが気楽って気もします笑 それにしても、今度の試験にも不動産の物権変動に関する問題は当然のように出るのでしょうね〜。結論をしっかり覚えておかなくちゃ。

民法177条の第三者(3)

あれこれ考え始めたらキリがないほど話題のあるところですが、あと少しだけ^^;

 

●善意でも第三者に当たらない場合

信義則に反することが問題となるところが背信的悪意者と同じだけど、物権変動について善意であっても177条の第三者に当たらない場合があるのです。その例がこちら。

A所有の甲土地のために、B所有の乙土地の一部に通行を目的とする地役権が設定され、BがDに乙土地を譲渡した。AがDに対し、登記なくして地役権を対抗するには、BがDに乙土地を譲渡した時点で、乙土地がAによって継続的に通路として使用されていることが明らかであり、かつ、Dが地役権設定の事実を認識していなければならない。(平成23年 問12-イ)

地役権とは、自分の土地の便益のために他人の土地を利用する権利です。上の問題では、Aが甲土地に出入りするという便益のために、Bの乙土地を利用(通行)するわけで、このような地役権を通行地役権と言ったりします。また、甲土地のように便益を受ける土地を要役地、乙土地のように地役権の負担を引き受ける土地を承役地と言います。で、地役権は登記できる権利であり、177条によれば登記がなければ第三者に対抗できません。ということは第三者DがAの登記不存在を主張して乙土地を通るな!と言い出したら、Aはもう乙土地を通ることができないのか…と思ったら実はそうでもない、というのが上の問題の話なのですね。

通行地役権の承役地が譲渡された場合、①譲渡の時点で、承役地が地役権者(要役地所有者)によって継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らか、②譲受人が①を認識していたか、または認識することができた、というときは、譲受人は177条の第三者に当たりません(最判H10.2.13)。上の問題で言えば、承役地である乙土地がBからDへ譲渡された時点で、乙土地が甲土地の所有者Aによって継続的に通路として使用されていることが明らかだったのですよね。なので、Dがそのことを認識していたか、または認識することができたときは、Dは177条の第三者に当たらないのです。つまりDが善意でも、AはDに対して登記なくして地役権を対抗できる場合があるわけですね。ということで答えは×です。

こういう取り扱いがなされる理由は、①と②の要件を満たす場合は、ちょっと調査をすれば地役権が設定されていることを割と簡単に知ることができるので、仮に土地の譲受人が地役権の存在を知らなかったとしても、登記の不存在を主張することは信義に反するから、とされています。上の問題で言えば、多分Dは乙土地をちょっと見るだけで、誰かが通路として使用していることが明らかに分かるでしょう。また、承役地所有者Dにとって通行地役権の負担はそれほど大きくないことが多いのに対し、要役地所有者Aからすると通行地役権が認められなくなったら甲土地への出入りがしにくくなって大変に困ってしまいます。なので、Dを177条の第三者と認めることは適切ではないとされたのでしょうね。

 

上記と同趣旨の判例と、それをベースにした問題もあります。

Aが所有する甲土地を承役地とし、Bが所有する乙土地を要役地とする通行地役権が設定されたが、その登記がされない間にCが甲土地に抵当権の設定を受け、その旨の登記がされた場合には、抵当権設定時に、Bが甲土地を継続的に通路として使用していることが客観的に明らかであり、Cがこれを認識していたとしても、抵当権の実行により当該通行地役権は消滅する。(令和3年 問10-オ)

こちらは承役地に設定された抵当権が実行された場合に、登記のない通行地役権を買受人に対抗できるか、ということですね。これについて最判H25.2.26は、最先順位の抵当権を設定した時点で最判H10.2.13の①を満たしており、なおかつ最先順位の抵当権者が②を満たしているときは、地役権者は登記がなくても地役権を買受人に対抗できるとしています。地役権の存在は容易に知れるのに対し、地役権が認められないと地役権者に重大な不利益という事情は同じですもんね。ということで、こちらも答えは×です。

 

以上2つの判例はどちらも割と最近出たもので、やや特殊な状況での話と見なされているようです。というか、地役権という物権が物権の中ではちょっと変わり者、というところが影響しているのかもしれません。とはいえ、物権変動について善意(認識することができたとき=善意有過失つまり善意です)であっても信義則に反するとされる場合があるのは、少し意外な感じがしますね。これが地役権のパワーというものなのか、それとも177条の第三者の意味合いが変わってきているのか、微妙な問題で興味深いです^^

 

●物権の喪失と対抗関係

Aが所有している土地の上に、BがAに無断で建物を建てて所有しているとしましょう。Aが自分の土地を自分で使用するために建物収去土地明渡請求をするとしたら、相手は誰になるのでしょうか。これ、原則としては現在の建物所有者ということになってますよね。Bの建物に登記があろうがなかろうが、Bが他人Cに頼んでC名義で登記してあろうが、現在の所有者がBならBに対して出て行けと言うことになります。これは、建物の所有者でなければ処分権限がないからでしょう。同じ理由で、この建物にBと同居している配偶者や子供などがいたとしても、それらの人たちに請求することはできません。「お父さんに邪魔だから出て行けって言ってくれる?」と子供に伝言させたりしたら、まるで土地所有者の方が悪役のようですね。正当な所有者なのに笑 いや、伝言を頼むとか書面を渡してもらうとかは別に構わないのですけど。

 

しかし、これには重要な例外があります。それが出題されたのがこちら。

A所有の甲土地上にある乙建物について、Bが所有権を取得して自らの意思に基づいて所有権の移転の登記をした後、乙建物をCに譲渡したものの、引き続き登記名義を保有しているときは、Bは、Aからの乙建物の収去及び甲土地の明渡しの請求に対し、乙建物の所有権の喪失を主張して、これを拒むことができない。(平成24年 問8-4)

Bは自分の意思に基づいて建物の登記を得て、その後建物をCに譲渡していますが、登記はそのままになっています。この場合は、AはCのみならずBに対しても建物収去土地明渡請求ができるでした。なので答えは○です。

この問題は最判H6.2.8をもとに作られたもので、判決文のうち「たとい建物を他に譲渡したとしても、引き続き登記名義を保有する限り」土地所有者からの建物収去土地明渡請求を免れることはできない、というフレーズはよく見ます。でも、この判例で一番面白いなと思ったのは、その後に出てくる理由を示した部分なのです。

…土地所有者が地上建物の譲渡による(建物譲渡人の)所有権の喪失を否定してその帰属を争う点で、あたかも建物についての物権変動における対抗関係にも似た関係というべく…

土地所有者と建物譲渡人は対抗関係にも似た関係、と言っていますね。177条によれば、建物を取得しても登記がなければその所有権を第三者に対抗できません。それと同様に、Bは登記名義が自分のままになっているのでは、建物の所有権を失ったことを第三者に対抗できないのです。177条は不動産の物権の「得喪」、つまり権利を取得する方はもちろん喪失する方も登記が必要と言っているのですね。これ、初めて読んだとき意表を突かれた気がしました! Bとしては建物の所有権はCに移転しており自分は所有者ではないと主張し、それに対し第三者Aは登記名義がBなのだからBの所有権喪失は認められないと言っている、このAとBとの関係は建物の所有権を失ったことについての対抗関係、と見ることができるわけですよ。177条って権利の取得を主張する人同士の対抗関係は見慣れているけど、権利を失ったと主張する人も対抗関係になることがあるのですねぇ。そして、所有権を失ったという登記(Cへの移転登記)をしていないBは、建物の所有権を喪失したことを第三者Aに対抗できないのです。物凄く鮮やかなロジックで感動しました^^

判決文ではさらにこの後に、Aからすると現在の真の所有者Cを見つけ出すことは難しいのに対し、BはCへの移転登記をしようと思えば容易にできたのだから、登記がBのままである以上は所有権を失ったと主張できなくても仕方がない、と述べています。上の問題のような例外が成り立つ理由として、こういう説明をされることが多いと思います。確かにその通りなのですが、177条と対抗関係の鮮烈さには及びませんね!(←何が?^^;)

 

今回でも終わらなかった笑 もう少しだけ続きます

自宅受験模試(LEC)

3月中旬に伊藤塾のプレ模試が行われた後、4月末から6月にかけて大手予備校各校の模試がありますよね。自分は伊藤塾2回と、その後LECの全国スーパー模試を受けるつもりで、3月中頃に申し込もうと思ったら、その時点で伊藤塾の東京会場は満席! なのでLECの全国模試・全国スーパー模試全4回を会場受験することにしました。皆さん熱心ですよねぇ〜。

自分の申し込んだ日程では、4月30日に1回目、そこから1ヶ月ちょっと空いて6月4日から3週連続で2〜4回目を受けます。そうすると、3月のプレ模試とLEC1回目の間、1回目と2回目の間が空いてしまいます。延々と過去問を繰り返すのでもいいんでしょうけど、それじゃちょっと飽きてくるので、何か力試しになるようなことを入れたいところですよね。そこで、一般に市販されている自宅受験型の模試を解いてみることにしました。行政書士試験を受けたときも、本番一週間前にLECの直前予想問題集みたいなのを買ったのですよ。本番3回分の予想問題(+前年の本試験)が入っているのですよね。結局行政書士の方では予想問題3回分は使い切れなかったのですが、今回の司法書士では計画的にやっていきたいところです^^

とはいえ、司法書士の予想問題集ってそんなにいろいろあるわけではなく、Amazonで普通に手に入るのは、

▼2022年版 司法書士 合格ゾーン 当たる! 直前予想模試(LEC)

▼無敵の司法書士 2022年 本試験予想問題集(早稲田経営出版)

の2つ。4月末以降ずっとLEC祭りになるのもアレなので、5月中に無敵の司法書士を解くことにして、今回はLECの合格ゾーン直前予想模試をやってみることにしましたよ。あ、もちろん伊藤塾や辰巳などの模試を自宅受験で申し込めば、問題と解答例を入手することができます。でも市販のものよりずっとお金がかかりますけどね。

 

で、記述式は自分で採点するのは難しいので、多肢択一を解いて自己採点することにして、午前・午後とも制限時間70分でやってみます。この制限時間としたのは、午前に関してはだいたい今までの感じで70分あれば一通り解答できていること、午後は今まで60分を目標にしてましたが無理するとミスが増えるし、多肢択一と記述の配点を考えたら多肢択一にもう少し時間を割いてもいいかな、と思ったためです。実際やってみると、午前は70分あればまあまあ解ける感じはするのですけど、午後はやっぱりキツい笑 思わずう~ん…と考え込んでしまうので、とにかくコレとコレが妖しげ!と決断して解答していくように心がけました。その結果としては、午前29問午後25問。いやー、やっぱり微妙^^;

問題ごとに予想正答率が載っており、それによってその問題の難易度を知ることができます。予想正答率が高ければ易しく、低ければ難しいということですね。さすがに正答率70~80%くらいの問題を間違えることは午後も含めて少なくなりましたが、50~60%くらいの難易度になるとポロポロと落としてしまっています。このあたりをしっかり取れると、少しは安心できるんですけどねぇ…。では50~60%程度の問題はどういうものかというと、5つある選択肢のうち2つ以上「出題実績 平成何年以降出題なし」と書かれているような、要するに知らない知識を問われていることが多いのです。まあ、この模試は予想問題を出題しているのだから、未知の問題をたくさん掲載してくれるのは有り難いことですよね。しっかり復習して知識を増やしておこうと思います。しかしそれはそれとして、本番で知らないことを聞かれたら怖いなぁ…とも思ったのでした^^;

 

この模試には問題文と解説の他に、LEC講師陣による出題予想論点と学習ガイドが掲載されています。これは自分のような普段予備校の講座を受講しない受験生にとってはとても助かります。近年出題が少ない論点はコレとコレだから今回は警戒すべし、みたいなのをまとめてくれており、どのあたりを重点的に勉強すべきかがよく分かりますよね。特に午後は重いマイナー科目が出題されるので、効率よく片付けたいところですし。午前はもう少し知識を確実にしたいですねぇ。というか、コレの要件はコレとコレ、みたいなのを押さえるときの正確さを高めたいです。あ〜、コレ過去問で見たことあるけど要件こんな感じだっけ?程度だと、組合せ問題なら何とかなるかもしれませんが個数問題ではアウトですしね。解いている最中は70分でもいけるな~とか思ったんですけど、採点してみるとこんなもんですから^^;

まあでも、知らなかったことを知ることができるのは本当にイイことです。純粋に知識が増えるのは嬉しいですし。ということで引き続き頑張りましょう!^^

時代の流れ、社会の流れ…

自分のやっている仕事がなくなる…!って危機に直面したことのある人ってどのくらいいるものでしょうか。実は自分が今現在やっている仕事がそういう状態で、司法書士を目指す強い動機の一つになっているわけなのです^^; 

仕事がなくなってしまう理由が自分の努力不足とか能力不足とかいうのであれば、まだ諦めもつきます。しかし、会社自体がなくなってしまうとか、その職種あるいは業種自体が社会的に必要なくなってしまったとかいうことになると、個人としてはまったく納得もいかないのに職を失う事態となって、社会に対する不満が蓄積したりするわけですよ。しかも、そこで失職する人に家族がいたりすると、影響する人の数は思ったよりもずっと多いのです。だんだんと状況が変化していって余剰になった人員を順次他へ移すことができれば表面上は丸く収まりそうですが、悪いことにこういう変化ってだいたい急激に訪れるものです。あ、いや、外から見ていると何年も前からそういう兆候はあったし予想できたじゃん、とか思うものですけど、当事者はなかなかそう思えないのですよねぇ。さすがに、若い頃勤めていた風俗関係の業務をやっていた会社はいかにも先がなさそうだったのですぐ退職しましたが…(案の定、自分がやめてから1年ほどで潰れてしまいました。警察の規制が強化される一方ですもんね)。

今現在勤めている会社も、いわゆる斜陽産業であって衰微していく途中ではあるけど、まだ完全に止めを刺されるところまでは行ってない、という感じ。それで時々、自分がもっと努力することで、(少なくとも自分の仕事が確保される程度には)会社が生き残る方策を採ることができただろうか…と考えることがあります。しかし多分、答えはノー。時代の流れ、社会の流れだから、というと極めて敗北主義的で気に入りませんけど、でも現実にはそうなのです。どうにもできないことって世の中にはあるのですよねぇ…^^; それなので、あるときから会社に残ってどうにかするよりは、会社を辞めて他の仕事をしようと考えるようになり、その中で司法書士の仕事は面白そうだからやってみたいなと思うようになったのでした。司法書士という職業だって未来永劫存続するとは限りませんけど、今やっている仕事よりはまだ望みがありそうな気がしています。司法書士の将来性については、司法書士試験に合格してから改めて考えてみようかと思うのですが笑

 

ところで、自分が働いている業種は斜陽産業なだけあって同業他社の中には倒産や廃業に至った会社がいくつもあるわけです。しかし、それらのどの会社も小規模なというか、純粋に大きさだけいえば零細企業が多く、仮に倒産したとしても社会的にそれほど大きな影響があるわけではありません。自分が勤務している会社の場合も、せいぜい普段付き合っている取引先があ〜何か危なそうだったもんねとか思う程度な気がします。ところがこれが、従業員数が数百人数千人という規模の大きな事業所がなくなるって話になると、その影響は自分の生活とか取引先との関係とかに留まらず、地域の経済が成り立つかどうかという大がかりな問題になってしまったりしますよね。最近の例ですとこんな話がありました。

youtu.be

和歌山県有田市といえば有田みかんの名産地と思ってたら、実際のところ有田市の製造品出荷額の90%以上をENEOSの製油所が占めていて税収も相当部分を頼っているという、ある意味製油所のモノカルチャー経済のような感じなのですね。で、その製油所が閉鎖される予定となってしまって大慌てというのですが…。

そういえばちょうど1年前の冬、和歌山のこの辺りに行きました。出荷するみかんを荷台に山積みにした軽トラが山から降りてきて国道沿いの農協に運び込んでいるところを何度も見かけましたし、箕島漁港には新しくて小綺麗な直売所とレストランの複合施設「浜のうたせ」てものがあって、美味しい魚を食べることができましたよ(箕島漁港はタチウオの漁獲高日本一だそうですね。串焼きにしたのとか、押し寿司とか売ってたし、レストランに海鮮丼もあったし、アレもコレもと食べまくりました笑)。直売所でいろんなみかんも買いました。そういうことからすると、みかんや海産物で経済を回していけばいいのでは…と一瞬考えてしまいますが、製油所が及ぼす経済効果はそれよりも遙かに大きいのですよね。浜のうたせだって製油所からの税収等がなければ建設できなかったかもしれませんし、市の財政としてはもう“オイルマネー”抜きでは考えられない状態なのだろうなと思います。とはいえ、相手は民間企業ですし、脱炭素への動きだって止められませんし、誰にもどうにもできないような気がしますね。残念なことですけど。

 

考えてみれば特定の企業に依存する自治体というものは日本全国至るところにあって、その企業が撤退するという形で自治体がダメージを受ける例も、上の動画に出てくる旧下津町のようにたくさんあります。炭鉱が閉鎖されたとか工場が移転したなんてことは枚挙に暇がないわけで、有田市ENEOSの事例もそのうちの一つに過ぎないとも言えます。炭鉱の閉鎖によってダメージを受けた北海道内の自治体なんかは相当に悲惨な状態になってますけど、それからすると和歌山や大阪に近い有田市はまだしも生き残りの手段があるのではないか…という感じがしますね。具体的なアイデアを今すぐ出せるわけではありませんが、農業漁業に向かないとか、そもそも人が住むのに適してない土地柄というわけでもないですから。

それにしても、撤退を発表したENEOSに文句を言いたくなる気持ちも分かりますし、抵抗できない時代の流れというか、社会の流れというか、そういうものに飲み込まれざるを得ない人たちの無念さと無力感は、とても共感しますしご同情申し上げます。とはいえ、設置されてから80年も経った製油所が今後いつまでも存続するなんて素人考えでも無理だと思えるし、石油に依存しすぎることの危険性はずっと以前から認識されていたのだから、今になって怒りをぶちまけるのはちょっとどうなの?という気もします。それより、自力でどうにもならないことはさっさと諦めて、他のことをやったらいいのにと思いました。現実にお金が入らなくなってしまいますからねぇ…って単なる雑談なのにまた長くなってしまったなぁ。生き残るために勉強しなくちゃですね笑

 

あ、浜のうたせのWebサイトがあるのでリンク貼っておきます。

hamano-utase.com

試験が終わったらまた行こうと思います。白浜のアドベンチャーワールドももう一度行きたいな^^

民法177条の第三者(2)

民法177条の「第三者」とは「当事者もしくはその包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張する正当の利益を有する者」のことでした。このうち「正当な利益」というところは、不動産の物権変動について保護すべき利害関係や法的地位がなければならず(客観的要件)、さらにその上でその人に固有の主観的様態(主観的要件)を考えることになっています。つまり、一見保護すべき利害関係のある人でも、主観的様態によっては正当な利益とは言えなくなって、「第三者」ではないとされる場合がある、ということですね。ということで、主観的要件の代表例である背信的悪意者について見ていくことにしましょう。

 

背信的悪意者

2020年に実施された行政書士試験の記述式で、背信的悪意者について出題されました。その点数がボロボロだったことは、ずっと以前このブログの記事にしたと思います笑

さて、背信的悪意者とはどんな人かというと、「実体上物権変動があつた事実を知る者において右物権変動についての登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情がある」第三者のことです(最判S43.8.2)。もうちょっと分解すると、①物権変動について悪意、②信義則違反、の2つの要件を満たす第三者です。Aが所有する土地をBに譲渡したことを知ったCが、その登記がまだされていないのを悪用して「Bに損害を与えることで、かねてからの恨みを晴らそうとして」、あるいは「Bに高く売りつけてやろうとして」、Aから土地を買い受けたとします。Cは単に土地がほしいというのではなくて、Bを不公正に妨害する目的で取引に入っていますね。このようなCがBの登記不存在を主張することは、取引上の信義に反しているといえます。だから、こういう場合のCは、登記の不存在を主張する正当な理由があるとは言えない=177条の第三者ではない、即ち背信的悪意者とされているわけなのです。

この点、単なる悪意者(AがBに土地を売ったことは知っている)というだけでは、177条の第三者であることは否定されません。日本は自由競争社会なので、他人よりも良い条件を提示して他人と争うことは、通常の経済活動として認められるべきだからです。また、土地の所有権を取得したら登記して自分の権利を保全すべきなのにそれを怠っているのなら、他の人に横取りされても仕方ないのですね。とはいえ、自由競争が何でもかんでも無制限に認められるわけでもありません。たとえば詐欺・強迫によって他人の登記を邪魔した人は不公正な妨害をしたと言えるため、自由競争と言える範囲に入らないでしょう。それと同じように、上記のCは不当に利益を上げる意図や他人の利益を害する意図があると言え、自由競争からはみ出してしまっています。そこが、単なる悪意者と背信的悪意者の大きな差なのですね。

ちなみに、試験問題での背信的悪意者は「積年の恨みをもって~」「高く売りつけようとして~」という風に登場することが多いですが、それ以外にも信義に反すると考えられるケースがあります。たとえば矛盾した態度を取る人。AがBに土地を売ったけれどその登記していない状態で、税務署長=国であるCが、最初は登記名義人ではないBを土地の所有者と認めて課税していたのに、あるとき一転して登記名義人であるAが所有者だと言って滞納処分により土地を差し押さえ、公売処分をしてしまいました。この事例について最高裁は「CはBの本件土地の所有権取得に対し登記の欠缺を主張するについて正当の利益を有する第三者に該当しない」と言っています(最判S35.3.31)。実はBはCに対し、契約書や領収書などを示して登記はないけど所有権は移転していると説明していました。そしてCも一応それを承認し、Bが納付したお金を固定資産税として受け取っていたのですよね。それなのにCがいきなり所有者はAだと言い出したら、BからすればCに裏切られたと思うでしょう。ということで矛盾的態度を取ったCは背信的悪意者とされたのでした。

 

試験で聞かれそうなのは、背信的悪意者からの転得者についてでしょうか。AがBに土地を譲渡したけれど登記未了で、その後同じ土地をCにも譲渡して登記を移転し、さらにCがDに転売し登記もした場合に、Cが背信的悪意者だったらDはどうなるか、というのが典型例ですね。

ここで注意が必要なのは、背信的悪意者と評価されたCは、登記の不存在を主張してBと争うことはできなくなりますが、Bから見たCが第三者であることには変わりがないということです。AC間の譲渡もそれ自体は有効であり、Cがまったくの無権利者として扱われるのではありません。なので、Cから土地を譲渡されたDも、Bから見たら第三者としての地位にあると言えます。その上で、DがBに対して登記の不存在を主張できるかどうかは、D自身が背信的悪意者と評価されるかどうかにかかっているのです。もしDが背信的悪意者でなければ、DはBの登記不存在を主張することができ、Bは所有権を失う結果になります。背信的悪意者からの転得者だから当然に背信的悪意者だ!とされるのではないのですね。で、上記の事例がそのまま出題されたことがあるのですよ。

Aは、甲土地をBに売却した後Cにも同土地を売却し、Cへの所有権の移転の登記をした。その後、Cは、甲土地をDに売却し、その旨の所有権の移転の登記をした。この場合において、Cがいわゆる背信的悪意者に当たるとしても、Dが背信的悪意者に当たらないときは、Bは、Dに対し、甲土地の所有権の取得を対抗することができない。(平成17年 問8-ウ)

答えは○です。結果だけ覚えれば試験の解答は難しくないのですが、それにしても背信的悪意者は177条の第三者とは言えないとしても、第三者の地位そのものは失っていないという点は、ちゃんと説明してくれないと見過ごしてしまいそうですよね^^;

 

上の問題は抽象的にCが背信的悪意者という設定になってましたが、もっと具体的な事例として背信的悪意者が出てくることもありますよ。

A所有の甲土地の所有権についてBの取得時効が完成し、Bが当該取得時効を援用している場合に関して、当該取得時効が完成した後にCがAから甲土地を買い受け、その旨の所有権移転の登記がされた場合は、Bが多年にわたり甲土地を占有している事実をCが甲土地の買受け時に認識しており、Bの登記の欠缺を主張することが信義に反すると認められる事情があっても、Bは、Cに対し、時効により甲土地の所有権を取得したことを主張することはできない。(平成26年 問8-エ)

この事例について最高裁は、まず「時効完成後に当該不動産を譲り受けて所有権移転登記を了した者に対しては、特段の事情のない限り、これを対抗することができない」との原則を述べた上で、

背信的悪意者は、民法177条にいう第三者に当たらない。…Cが、当該不動産の譲渡を受けた時点において、Bが多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており、Bの登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在するときは、Cは背信的悪意者にあたる。

としています(最判H18.1.17)。時効完成後の第三者、上の問題で言えばBから見たCに対しては、登記がなければ対抗できないというのが基本です。時効完成後は、AからBとCへ二重譲渡されたようなものだからです。しかしこの場合のCは、甲土地を買った時点ですでに甲土地をBが長年占有してきたことを知っていたのですよね。そういうときは、信義則上Cを177条の第三者として扱うことは適切ではないでしょう。いかにも背信的悪意者とはこういう人、という感じですね。したがって問題の答えは×です。

ところでこの判例での背信的悪意者は、ちょっと緩めに認定されているのですよ。Bが長期間占有していることをCが知っているといっても、CはBの取得時効が完成している(=Bが所有権を取得している)ことまで知っていたわけではないでしょう。すると原則通りに考えるなら、Cは物権変動について善意ということになって、背信的悪意者には当たらないとされるはずです。とはいえ、他人が占有を開始した正確な日にち等を知っているなんてまずあり得ません。そこで時効取得の場合は悪意の要件を少しだけ緩めて、多年にわたり占有している事実を認識していれば良い、ということにしています。背信的悪意者と認めるかどうかにも微妙なさじ加減があるってことなのですね。

 

背信的悪意者の話はいろいろありますよねぇ。ということで次回へ続く。