引き直し
“引き直し”って最初聞いたときは何のことかと思いました。たとえば法律で10年以内と決まっている事項を契約で20年とした場合、当然ながら20年という登記はできません。だからこういうときは契約書を作り直すのかというと必ずしもそうではなく、場合によってはそのまま10年とみなして登記できるのですね。こういうのを引き直しというのだそうです。まあ合理的な取り扱いがなされているのだなぁ…と思っていたのですが、実は何でもかんでも引き直しができるわけではないのですよ。引き直しができるのは、法律にそういう文言が含まれている場合なのです。
引き直しができる例:
○不動産質権の存続期間(10年以内・民法第360条)
○買戻し期間(10年以内・民法第580条)
○採石権の存続期間(20年以内・採石法第5条)
○永小作権の存続期間(50年以内・民法第278条)
○賃借権の存続期間(50年以内・民法第604条)
○利息制限法の規定を超える利息・損害金(利息制限法第1条・第4条)
期間については、法律の規定をカッコ内に示しておきました。たとえば買戻しできる期間を定めるなら10年以内でなければいけません。そして10年を超える期間が契約で定められていても、10年に引き直して登記できる、ということです。
逆に、引き直しができない例:
▼共有物不分割特約(5年以内・民法第256条)
▼永小作権の存続期間(20年以上・民法第278条)
なぜ根拠条文を示したかというと、条文の文言を後からすぐ見返せるようにしたいからです(笑) で、引き直しができる例とできない例を見比べても規則性がよく分かりませんが、取りあえず条文には違いがあるのです。民法第580条第1項には「買戻しの期間は、10年を超えることができない。特約でこれより長い期間を定めたときは、その期間は、10年とする」とあります。つまり後段のところで、10年超だったら10年ということにしよう、と言っているわけです。だから引き直しができるのですね。買戻し以外の不動産質権や賃借権にもこういう規定があるので引き直しできます。
一方、民法第398条の6第3項には「第1項の期日(※確定期日のことです)は、これを定め又は変更した日から5年以内でなければならない」とされているだけです。買戻しと違って、5年より長い期間だったら~みたいな規定はありません。だから引き直しができないのです。
ちなみに永小作権は、最長の方は引き直しができるのに、最短の方は引き直しできません。民法第278条第1項を見てみると「永小作権の存続期間は、20年以上50年以下とする。設定行為で50年より長い期間を定めたときであっても、その期間は、50年とする」と書かれています。そう、長い方は50年超だったら50年にするよと言っていますが、短い方は何も言っていないのですよね。だから最長期間は引き直しができるけど、最短期間は引き直しができないのでした。
引き直しって効率の良さとか便宜を図るためにやっているのかと思ったら、ちゃんと法律の根拠があるのですね。できるできないがきちんと法律で決まるわけです。事務手続の一つ一つが法令に基づいているって、改めて考えてみるとスゴイことだと思います。というか、こんなにしっかり条文を読んだのは初めてな気がする^^;