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先取特権の不思議

司法書士試験の中で、担保物権と言えばまず抵当権・根抵当権です。特に根抵当権は実務でも関わる機会が多いとのことなので、当然試験で問われる可能性が高くなるというわけですね。その一方で、その他の担保物権は抵当権・根抵当権ほどは出題されていないようです。その他の担保物権というのは、留置権先取特権、質権のこと。このうち留置権は、たとえば時計の修理が完了したのに修理代金を払ってくれないという場合に、代金の支払いがあるまでは時計を手元に置いておける権利です。返してほしかったら代金払って、ということです。質権は質物を質屋に入れてお金を借りるところを思い浮かべれば分かりやすいですね。質屋さんが質権者なわけです。そんなこんなで留置権と質権はイメージしやすいのですが、先取特権となるとちょっと分かりにくいのです。馴染みもないし、いろんな種類があって細かい違いがあるし、微妙な権利だなぁ…と思ったりするところも多いですよね。

 

▼なぜ微妙と思うかというと、回り道させられているような気分になるからです。たとえば一般の先取特権の中に葬式の費用というのがありますね。葬儀屋さんが葬儀費用を取りっぱぐれることのないようにとの配慮から規定されているわけですけど、ストレートに葬儀費用を取り立てる権利という言い方ではなく、債務者が葬儀費用を払わなかったら債務者の財産から優先的に弁済を受けられる、と言っているのです。で、葬式の費用には先取特権が認められるから、葬式の業者は誰が相手でも安心して葬儀のサービスを提供できる→貧しい人でも最後の葬式くらいはちゃんとできる、てことらしいんですが…なぜこんな回りくどい規定になってるんでしょうかね? 葬儀費用債権は他の債権に優先する!と言い切ってくれればもっと安心できるのに、と思います^^;

動産の先取特権も、何となく微妙だなぁ…と思うことありませんか? 旅館の宿泊や旅客又は荷物の運輸についての先取特権は、お客が宿泊費とか運送費とかを払わなかった場合にそのお客の手荷物などに存在するとされています。しかし、決して直接的にお金を取り立てることができるとは言ってないのですよねぇ…。あ、でもよく考えたら、旅館とか交通機関のお客は、お金を払ってくれないとなったらその場で何かを差し押さえなければ、すぐどこかへ逃げてしまうかもしれませんね。そしてその場で差し押さえられるものといったら、そりゃお客の手荷物などしかないですし…。そもそも直接取り立てられるだけのお金を持ってないから支払もできないわけで。そう考えると、少なくとも旅館の宿泊と旅客又は荷物の運輸の先取特権は、これはこれで仕方ないのかなという気もしてきますね^^;

 

▼AがBに何らかの動産を売ったとします。このとき、AのBに対する代金債権は動産売買の先取特権というものになります。他の債権よりもちょっとだけ優遇されるのですね。といっても優遇される範囲はとても狭くて、Bが第三者Cに動産を売却して引き渡してしまうと、もう先取特権を行使することはできなくなります。しかもこの引渡しは占有改定でも良いとされており、先取特権の存在感はとても希薄な感じがしますよね。Aは先取特権がなくてもBに対して債務不履行責任を追及したりはできるのでしょうけど、それは普通の債権と変わらないってことになります。なんというか使えるタイミングがかなり限定されそうです。

ちなみに先取特権留置権と違って物上代位が可能です。BがCに動産を売却して代金債権を取得したら、Aはその債権に物上代位できます。ところがこの場合も、お金が実際にCからBに支払われてしまったらダメで、その前に差し押さえなければいけないのですよ。まあBにお金が入ったら、Aとしては先取特権とか関係なく普通に取り立てれば良いということなんでしょうけど、そうなるとやっぱり先取特権って影が薄いな…と思わざるをえません。

 

▼逆に、不動産保存と工事の先取特権はとても強力で、登記すると先順位の抵当権にも優先します。つまり、抵当権が設定された不動産に後から登記しても、抵当権より先に弁済を受けられるのです。これは、不動産の保存行為や工事による価値の増加は抵当権者にもメリットがあるからだそうですね。確かに…とは思うものの、ちょっとあり得ないほどの厚遇ぶりは何なんでしょう? 後から出てきて先の抵当権より優先する権利って租税債権くらいしか思い付かないのですが(しかも登記しなくても優先されるという。税金の徴収は厳しいですね(笑))、多分その次くらいには優遇されてます。財産として不動産がいかに大切か、ということの表れと言われればそうなんでしょうけど…。

 

民法の過去問で、選択肢の中に次のようなものがありました。

「動産の先取特権の目的である動産を用いて当該動産の買主が請負工事を行ったとしても、請負代金債権の全部又は一部を当該動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情のある場合には、先取特権者は、その部分の請負代金債権について物上代位権を行使できる」(平成28年 午前 問11-エ)

ちなみに正解は○です。コレ、初めて読んだとき意味が全く分かりませんでした^^; 動産を用いて工事の請負? その代金を物上代位? みたいな感じでどういう状況なのかまるっきり想像が付きませんし。合格ゾーン過去問集はもちろん、スタディングの過去問集にも出てくるのですが、解説を読んでもよく分からない…。でもこれ調べてみたら、平成10年の割と新しい判例をもとに作られているようです。具体的な事例まで含めた詳しい解説もありました。

xtech.nikkei.com

 

物凄く簡単に要約すると、

先取特権は物上代位できるよ(民法第304条第1項)

○でも請負工事代金には物上代位できないよ(大判大2.7.5)

○でもでも特段の事情があれば例外的に物上代位できるよ(最決平10.12.18)

…というわけですかね。最初に先取特権は馴染みもないし微妙とか言いましたが、この記事からすると先取特権の利用も実務では普通に行われているのかなと思いました。自分が知らなかっただけですね^^;

 

先取特権同士の優先順位とか、他の担保権との関係とかも不思議に思うことがあるのですけど、ちょっと長くなってきたのでまた別の機会に疑問をぶちまけようと思います。やれやれ。