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契約上の地位の移転

まずはこちらの問題。

不動産の譲渡人が賃貸人であるときは、その賃貸人たる地位は、賃借人の承諾を要しないで、譲渡人と譲受人との合意により、譲受人に移転させることができる。(令和3年 問19-イ)

自分この問題というか選択肢を本番の会場で読んできたはずなんですけど、全く覚えてないのですよね^^: やっぱり本番は緊張してたというか舞い上がってたのかなぁ…。それはともかく、これは民法605条の3の条文がそのまま問題文になっていて、答えは○です。条文の知識を問うたということになるわけですが、この条文は平成29年改正で新設されたもので、それ以前は判例で同じ処理をしていたのでした。今は条文の知識問題みたいに見えるこの問題も、元はといえば判例の問題だったのですね。で、その元の判例は昭和46年4月23日の最高裁判決で、上記の問題はまるで不動産の賃貸借がテーマのような感じですけど、裁判の内容としては契約上の地位の移転の話なのです。

 

契約上の地位の移転とは、文字通り契約の当事者としての地位をそっくりそのまま第三者に移転するという意味です。でも、それって債権譲渡や債務引受と何が違うのかと思いません? 自分も最初は区別が付かなくて、そもそも契約上の地位の移転というものを考える意味が理解できませんでした^^; まあでも、それから今までに自分が理解したところではだいたい以下のようなことだと思います。

たとえば、AがBに動産甲を売ったとしましょう。するとAはBに対し代金債権を取得し、甲を引き渡す債務を負担します。反対から見るとBはAに対し代金を支払う債務を負担し、甲の引渡請求権(債権)を取得します。で、債権譲渡や債務引受では、債権や債務が第三者に移転するのですよね。AがCに代金債権を譲渡したとすると、この債権についてはCが債権者ということになって、Cが直接Bに支払いを求めることができるのです。でもAとBが契約の当事者であることに変化はなく、Aには依然として甲を引き渡す義務がありますよね。もしAが甲の引渡しをしないときは、BとしてはAの債務不履行を理由として契約を解除することができます。一方、BがCの請求にも関わらず代金を支払わなかったとしても、それを理由としてCが契約を解除することはできません。契約の解除は契約の当事者しかできず、Cはその地位にないわけですから。

では、AとCが単なる債権譲渡をしたのではなく、契約上の地位の移転をしたとしたらどうなるでしょう? この場合、Aの当事者としての地位がそっくりそのままCに移転します。Aが持つ債権も、Aが負担する債務も全部です。そして、動産甲の売買という契約関係からAは完全に離脱して、CとBが契約の当事者になるのです。つまりCが代金債権と甲の引渡債務を、Bが代金支払債務と甲の引渡請求権をそれぞれ持つことになるわけですね。また、Bが代金を支払わないときはCはBの債務不履行を理由として契約を解除できます。Cは契約の当事者なのですからね。

 

以上のような契約上の地位の移転は、ABC全員の合意でできることはもちろんですけど、それをちょっとだけ簡略化したACの合意にBの承諾という形ですることもできます(民法539条の2)。Bの承諾が必要となる理由は、Aの地位がCに移転するというのはBが持っている甲の引渡請求権(債権)の債務者がAからCへ変わるということで、これはBから見たら免責的債務引受と同じだからです。債務者が変わるのだから、債権者Bの意向を無視することはできないのですね。

ところで、実社会で契約上の地位の移転がもっともよく利用されるのは不動産の賃貸人が交代する場面だそうですよ。たとえば賃貸マンションのオーナー(賃貸人)が物件を売却する場合、マンションの賃借人との契約をそのまま買主(新しい賃貸人)に引き継がせることができます。すると買主は自分で賃借人を探す手間が省けるし、売主は賃貸人としての義務を免れるし、賃借人は今までの契約が変わらず継続するので何の変化もなく暮らしていける、というわけで全員にとって便利なのです。で、前の賃貸人から新しい賃貸人に交代するってことは賃貸借契約の契約上の地位が移転するのだから、契約の相手方である賃借人の承諾が必要になりそうですけど、それは必要ありません。ということが、冒頭に引用した問題というか民法605条の3で規定されているのですね。つまり、契約上の地位の移転をするには契約の相手方の承諾が必要ですが、不動産の賃貸人の地位が移転するときは例外的に賃借人の承諾はいらないのです。

 

さて、もともとの判例である最判S46.4.23はこんな事例でした。Aの土地をBが建物所有を目的として20年間賃借しましたが、13年に渡って放置していました。この間、土地についての増税があったりしたのでAはBに賃料の増額を申し入れたのですが拒否され、仕方ないのでAは土地をBの賃借権の負担付きでCに売却しました。その後、Bが土地上に建物を建てようとしたらCに妨害されたため、BはAに対し債務不履行(賃貸借契約による土地の使用収益ができなくなった)を理由として損害賠償を求めたのでした。Bちょっと調子良すぎ笑

Bの賃借権の負担が付いたままAがCに土地を売ったので、賃貸人の地位がAからCに移転しています。つまり契約上の地位の移転が行われたのですね。ということは、本来ならACの合意に加えてBの承諾が必要なはずで、それを得ていないこの事例ではBにとっての賃貸人はAのままであり、したがってAは債務不履行の責任を負うことになりそうです。しかし最高裁は、①土地の賃貸人の義務は、賃貸人が誰であっても履行方法が特に変わるわけではない、②土地の所有権が移転したときは、新しい所有者に賃貸人の義務の承継を認めることがむしろ賃借人にとって有利、という2つの理由を挙げて、土地の賃貸人たる地位の移転には賃借人の承諾を要しないと述べました。ということで、賃貸人の地位はAからCに移転し、Aは契約関係から離脱します。なのでAは債務不履行責任を負いません。一方、CはBに対して賃料を請求できますが、賃貸人の義務として土地を使用収益させなければいけない、ということになります。その後、①②を理由として賃借人の承諾不要としたことは法理として確立され、ついには民法の条文で規定されるに至りました。元の判例はいちいちごもっともという感じの内容なので、条文にまで昇華したのでしょうね。凄いなぁ。

 

試験の勉強として考えると、単純に賃貸人の地位の移転は賃借人の承諾は不要とか、契約上の地位の移転は契約の相手方の承諾が必要とか、個別に記憶しておくことでも一応解答はできます。自分も今まではそうだったのです。でもこうやって、判例を通して関連のある話なんだ~と認識すると、記憶しやすくなりますね。最初に挙げた単なる条文の一部でしかない問題文の背景にこんなストーリーがあるなんて、一気に面白くなってきます^^