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相続人多すぎ!

所有者不明の土地や空き家の問題が発生する最大の原因は、相続登記がちゃんと行われていないから、とされていますね。今までは相続が発生してもすぐには登記手続をせず、実際に不動産を処分するときになって、その前提として相続による移転登記などを入れるということが多かったそうです。何しろ不動産登記のうち権利の登記は義務ではないし、仮に名義が被相続人のままでも相続人が特に何か困るってことがなかったのですよね。司法書士試験の不動産登記法の問題でも、数年前の相続の登記を今やるって設定で普通に出題されているのは、そういう風に手続が進むのが一般的だからなのでしょう。

しかしまあ、1世代分(親→子とか)の相続登記が先延ばしにされているだけという程度なら、数年くらい経ってもあまり問題はないのかもしれませんが、これが2世代、3世代、あるいはそれ以上に渡って放置されると、複雑さが急激に増していくのですよね。たとえば1人の被相続人に2人の相続人がいるとすると、1世代分なら関係者は2人ですが、これが2世代なら4人、3世代なら8人、4世代なら16人と、2の累乗倍で増加してしまうのです。しかも3世代4世代それ以上も離れてしまうと、被相続人のことなんてまったく知らないって場合も多いでしょうし、しかも自分が相続するとされる権利は微々たるものだし(すべての世代が法定相続分で相続すると、4世代目の人は16分の1しか権利がないのですからね)、相続するにしても放棄するにしても手続に非協力的な人が出てきてしまうのは無理もない感じがします。現在の戦後民法になってからでも既に70年以上の時間が経過しており、1世代を30年と考えるともう4世代目に入っているのですよ。だから相続登記を放置してたら関係者が何十人にも膨れ上がっていた…というのは決して大げさな話ではないのです。このような事態を未然に防ぐために、2024年度(令和6年度)から相続登記が義務化されることになったわけなのですよね。

 

上記のような状況が、さらに悪い形で現れるとこんな感じになるそうです。

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93人は多すぎィ! しかしこれはスゴイですよね。元々の所有者は江戸時代に生まれた人だったところ、そこから子孫が繁栄して現在の相続人が93人もいるのです^^; 1940年に家督相続したとのことで、江戸時代が終わったのは1867年だから、元々の所有者は家督相続時点で少なくとも70代だったのでしょうか。そして、昔は兄弟姉妹が多かったというのが、この事例で相続人の数が増えて問題が複雑化する方向にしっかりとブーストかけてしまってますね。

 

姫路市役所の方が「まったく価値がないように見えてもそれは財産であり、役所が何の手続きもなくどうにかしてしまうことはできない」とおっしゃってますけど、このコメントには自治体の苦悩がストレートに吐露されてますよねぇ。近所の方々は危険だから何とかしてくれと市役所に再三申し入れていたそうですが、確かにこれは他人の財産なのであって、自治体といえども勝手に処理するわけにはいかないのです。地道に相続人を探して、手続きに協力してくれるようにお願いするしかない…ということで、何年にも渡って作業が続くわけです。でも、関係者が100人近くにまでなってしまったら、まともに話し合いで合意を取り付けるなんてほとんど不可能な気もしますよね。この事例を担当する人は市役所の中でも1人か2人か、非常に限られた人数でしかないのでしょうし、それで90人以上の相続人を相手するのは圧倒的にマンパワーが足りなさそう。そして手続きに時間がかかっているうちに、さらに新しく相続が開始して相続人が増えることも当然あるでしょうから、キリがないですね。こういうことが日本全国あちこちで起こるとしたら、これは大問題と言われているのも理解できます。

 

こういう問題が起こってしまうのは相続手続きがきちんと行われないからであるとすれば、生きているうちから相続についての準備をするきっかけ作りというか、不動産を個人で所有する場合はいつの日か相続の手続きが必要になるってことを周知する仕組みが必要なのでしょうね。上の事例では、元々の所有者も、家督相続した長男も、改正民法施行後に相続した兄弟姉妹も、そしてその子供や孫の世代の方々も、誰も手続の必要性を認識してなかったってことですから。とはいえ、自分の祖父母や曾祖父母あたりの財産までは何となく知っているかもしれないとしても、それより遠い親戚がどこかに所有している不動産なんて存在自体を知りようがないし、存在を知らなければ手続きのしようもないわけです。ある日突然今まで一度も行ったことのない土地の自治体から「あなたの持分は2048分の1です解体費を支払って下さい」とか言われても納得できる人なんていないでしょうね^^;

また、この事例のように何年も放置された不動産の状態が劣悪で早急に手当する必要があるとか、あるいは災害復興のために処分が必要とかいうことになったら、相続人全員の合意がなくても手続が進められるような仕組みを作ったらどうか、とも思います。たとえば会社法では、株主総会の決議(=株主全員の総意とは限らない)によって会社分割をして権利義務を移転したり、社債権者集会の決議(=社債権者全員の総意とは限らない)によって社債元利金の減免ができたりしますよね。そこで上の事例のような場合も、相続人集会の決議で処分の仕方を決められるとかしたらどうでしょう? 遺産分割協議では全員の合意が必要になるのに対し、相続人集会の決議なら多数決原理で決めていけそうです。まあでも相続人集会といっても、そもそも個人の財産の帰趨を多数決で決めてよいのか、決議すべき議案の中身は誰が考えるのか、集会は誰が招集するのか、などなどちょっと考えただけでもハードルが高そうですが、上の事例のようなよっぽどのケースでは仕方ないのではないか、という気がしますね。

 

上に書いた通り2024年から相続登記が義務化されます。これは2024年4月1日以降に発生した相続だけでなく、それ以前の相続で登記未了になっている分にも適用され、何の手続きもせずに放置すると10万円以下の過料を科される場合があります。権利の登記はするもしないも自由という今までの原則を変更(しかも罰則あり)するのだから、国の危機感も相当なものなのでしょう。取りあえず、相続登記をしなければいけない!ということをもっと知ってもらうために、危機感をあおる広報活動などをもっとやったらどうかな~と思います^^;