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根抵当権の確定事由(3)

前回根抵当権の確定の話をしてからずいぶん間が空いてしまいましたが笑、ここからは根抵当権者が複数とか、設定者が複数とか、不動産が複数とかの場合を見てみたいと思います。

 

▼共同根抵当権の確定

その設定と同時に同一の債権を担保として数個の不動産につき根抵当権が設定された旨の登記をした根抵当権のことを「(純粋)共同根抵当権」と言います。共同根抵当権は、各不動産に登記されている根抵当権の極度額・債権の範囲・債務者・根抵当権者の4つの要素が厳密に一致していなければいけません。法律的な混乱を避けるため、とされています。

実は複数の不動産に根抵当権を設定する方法として2つのやり方があって、共同担保である旨も何も登記しなかった場合は「累積式根抵当権」になります。つまり民法の標準設定は累積式で、特に登記があったときだけ共同根抵当になるのです。たとえば甲土地と乙土地に同一の4要素(極度額、債権の範囲、債務者、根抵当権者)を持つ根抵当権を設定したとしましょう。これらの根抵当権が共同担保である旨が登記されていなければ累積式となります。累積式は、個々の土地が極度額一杯まで担保する一方、共同根抵当は通常の共同抵当権と同じく、甲土地と乙土地を合わせて極度額までをカバーします。甲乙それぞれの根抵当権の極度額が1,000万円とすれば、累積式なら甲土地と乙土地それぞれが1,000万円まで担保するのに対し、共同根抵当では甲土地と乙土地を合わせて1,000万円、ということです。根抵当権者としては、まずはそれぞれの土地が極度額まで担保してくれることを期待するでしょうから、民法では累積式がスタンダードになっているわけなのですね。しかし、共同根抵当なら担保価値を見誤るリスクや不動産の価格変動によるリスクを軽減できる、というメリットがあります。

さて、共同根抵当権が設定された数個の不動産のうち1つについて確定事由が生じたら、共同根抵当権全体が確定します。根抵当権にとって元本の確定というのは自分の性質をまったく変えてしまう重大な出来事であり、1つの不動産について確定したら、もう共同根抵当としては存在していられないのです。ということで、1つの不動産について根抵当権者の優先弁済権行使、第三者による競売・滞納処分があったときは、全体が確定します。なお、1つの不動産について競売手続が開始した場合、根抵当権者がそれを知ったときから2週間が経過したときは元本が確定しますが、2週間経過前にその不動産の根抵当権の登記を抹消したら、共同根抵当権の残りの部分は確定しません。一方、1つの不動産について債務者または設定者が破産した場合は、そのときに根抵当権全体が確定します。

1つの不動産について設定者から確定請求があったときや、何人かの設定者のうち1人から確定請求があったときは、どちらも元本が確定します。一方、設定者が複数いる場合に根抵当権者が確定請求するには、設定者のうちの1人にしただけではダメで、その時点ではその設定者の所有不動産についても確定の効力は生じません。ではどうするのかというと、設定者全員に確定請求をしなければいけないのです。そして、各設定者に請求の通知が到達した日のうち一番遅い日に確定します。根抵当権者からの確定請求は、いくつかある不動産のうち1つに確定事由が生じたという状況とは違うから、とされているそうですが…ちょっとややこしいですね笑

 

▼共有不動産全部に設定された根抵当権

不動産が何人かに共有されている場合、共有者全員の持分全部、つまりその不動産全体に根抵当権を設定することができます。この状況で、設定者側(不動産の共有者側です)から確定請求するには、共有者全員でしなければいけません。共同根抵当権の設定者が複数の場合とは取り扱いが異なります。これは、根抵当権の元本確定はすべての共有者にとって有利とは限らず、単なる保存行為や管理行為とは言えないためとされています。また、根抵当権者から確定請求するには、やはり共有者のうちの1人だけにしてもダメで、共有者全員に対して通知が到達しなければいけません。各共有者に通知が到達した日のうち最も遅い日に元本確定の効力が発生するのは共同根抵当の複数設定者のときと同じです。

その一方で、不動産の共有者のうち1人について確定事由が発生した場合(共有者のうち1人が破産した、など)は、根抵当権全体が確定します。不動産の持分というのは観念的なものであって、根抵当権は不動産の価値全体を把握し、その交換価値の具現化を期待していたと考えられるから、だそうですよ。

 

▼共有根抵当権・共用根抵当権の確定

共有根抵当権根抵当権者が複数、共用根抵当権は債務者が複数の根抵当権のことです。根抵当権者や債務者が複数になる理由としては、もともと複数の人が関わっている場合もあるし、根抵当権者が根抵当権を一部譲渡したり、相続等で債務者が変更されたりと、事情はさまざまです。

共有根抵当権者のうち1人に確定事由が生じても根抵当権は確定しないし、共用根抵当権の債務者のうち1人に確定事由が発生しても根抵当権は確定しません。これは、その確定した債権は根抵当権の被担保債権の範囲に含まれている1つの債権に過ぎないから、とされています。そこで、ある根抵当権者に確定事由が生じても、それだけでは根抵当権は確定せず、他の(確定していない)根抵当権者と同様に、確定前にしかできない根抵当権の変更や処分ができます。債務者の方も、一部の債務者だけに確定事由があっても根抵当権は確定せず、そのうち確定した人が増えていって、最後の債務者が確定した時点で根抵当権全体が確定することになります。

当事者が複数存在することによる特有の問題としては、たとえば複数の根抵当権者のうち法人の根抵当権者に合併があって、設定者が確定請求した場合にどうなるのか、といったことが挙げられます。この場合、①確定請求によって他の根抵当権者との関係でも根抵当権が確定するので、確定請求は他の共有根抵当権者に対してもする必要があり、そのときは根抵当権全体が確定する説、②設定者は合併した法人である根抵当権者に対する確定請求権があるだけで、確定請求するとその根抵当権者との関係では確定するけど、他の共有根抵当権者との関係では確定しない説、があるそうですよ。債務者が複数の場合も同じような話が持ち上がります。人が増えると複雑になるんですねぇ^^;

 

▼「取引の終了等」という事由

これは平成16年改正民法の施行で廃止された確定事由です。改正前民法398条の20第1項1号では、次のように規定されていました。

改正前民法398条の20第1項1号  担保スベキ債権ノ範囲ノ変更、取引ノ終了其他ノ事由ニ因リ担保スベキ元本ノ生ゼザルコトト為リタルトキ

根抵当権は次々と発生・消滅を繰り返す債権を担保するわけですが、なぜ債権が発生・消滅を繰り返すのかと言えば、それは根抵当権者と債務者の間で取引が継続しているからです。ところが取引関係が終了して、もう新たな債権が発生することがないという状態になったら、枠としての根抵当権はもはや不要といってよいでしょう。なので、取引が終了したら根抵当権が確定する、とされていたようです。

「取引の終了等」に当たるとされていたのは、継続的な取引の契約が解除されたとか、債務者が取引停止後に行方不明になったとか、金融機関が破綻して事業を譲渡したとかいう場合で、これらは客観的に分かりやすいですね。ところが現実には、本当に取引が終わっているのかが第三者からはよく分からないケースがあるのはもちろん、当事者同士でさえ認識が違うということもあり得ます。しばらく残高ゼロの状態が続いていたけど、あるとき急に取引が再開したなんて場合に、とっくに根抵当権が確定していたとされると困る場合があるでしょう。実際、当事者の一方から取引の終了等を理由とする元本の確定と根抵当権抹消登記を求める訴えや、後順位担保権者からの配当異議の訴えが起こされることも多く、かなり混沌とした状況だったのでした。それにしてもホント、これでよく経済回ってたなぁ…昔の人ってどうやってたの?とか思っちゃいますよね^^; まあでも、平成16年改正で解決したのはなによりでした。ただし、改正民法施行前に「取引の終了等」を理由として確定していた場合は、平成16年以降も確定したままです。昔の根抵当権が出てきたら、ちょっと注意が必要かもですね…。

 

ということで、根抵当権の確定事由の話はひと段落です。なかなか複雑で奥の深い論点ですよねぇ。興味が尽きないです^^